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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
69/127

女子会

(69)


彼の第一印象は、もの静かな執事だった。

真面目一辺倒の彼は、今日も黙って主の帰りを待つ。

決して声を荒げず、ただひたすらに主の意のままに従う。

たとえ、不当な扱いを受けようとも、黙って受け入れる。

彼はいつだってそうだ。

今日もまた、聖母のように包み込み癒す。

彼は寡黙な仕事人なのだ。


「なんつって。」

ピッタリと隙間なく並べられた二組の布団を前に、咲は儚い現実逃避をしていた。

「な~に?咲ちゃん何か言った?」

化粧を落とした年相応の聡子が笑顔で振り返る。

時刻は12時前。

ウキウキワクワクの女子会が始まろうとしていた。


ばふん

勢いよく身を投げた聡子の身体は、高級布団に吸い込まれた。

「新調したばかりなの~!ああ、楽しみだわ!

ねぇねぇ咲ちゃん。ぜっっったいに寝ないでよ!約束だからね。」

まるで、一緒に完走しようと持ち掛けつつ最後で裏切るアレのようだ。

咲は内心“フラグか?”と思いながら、あいまいに頷いた。

「ああワクワクするわ~!心臓がドキドキいってる。」

咲は内心“不整脈ですか”と思った。

「咲ちゃんはー…彼氏とか、いないの?」

ワクワクと、小声で言いながら顔を近づけてくる聡子から後ずさり、咲は面倒くさそうに首を振った。


予想通りすぎる質問だ。

当たり障りなく、かつ、自分の経験則という名の自慢話に持っていけるからだろうか。

全くもって面倒くさい。

往々にして、この手の質問はこちらが何と言っても筋道は同じなのだ。

“YES”の場合は、やれ早く結婚しろ、私の時はこうだったとなる。

“NO”の場合は、なぜ彼氏を作らないのかとなり、私の時はこうだったとなる。

もはや、自分語りの枕詞ではないか。

咲は露骨に顔を歪め、話の継続を拒否した。

聡子は咲の表情をどう解釈したのか、ムフフと含み笑いをした。

「そうよね~。人生いろいろよね~。

わかるわ!私もね、お父さんと出会った時なん…」

結局こうなるのだ。

咲は、はーっとため息をついた。


聡子がひたすら話し続ける要因の一つは、幸太郎にあると思っている。

きっと、聡子の話を聞いてこなかったのだ。

だから彼女はいつまでも満たされず、だれかれ構わず話し続けることで補おうとしているのだ。

考えようによっては、可哀想な気もする。

しかし、だからと言って彼女を甘やかすのは違う。

そこで咲は、はっとした。

同じことをケルベロスも言っていたではないか。

“相手が誰であれ、迷惑を顧みず押しかける人間に、苦言を呈することの何がいけないのです。”

ああ、まさしくそうだ。

私は何を弱気になっていたのか。


「それでね~、あたし言ってやったの!」

聡子の話は佳境に差し掛かり、悦に入った表情を浮かべる。

何度も聞かされた聡子と幸太郎の痴話げんかシーンである。

この後、聡子はキメ台詞を言うはずだ。

“あんた何様だ!”と。

聡子は鼻から息を吸い込んだ。

「あんたな…」

「あんた何様ですか。」

冷ややかな声で言い放った咲の声は、思いのほか響いた。

聡子は目を数度瞬いた後、口を尖らせた。

「ちょっと~あたしのキメ台詞な…のよ…。」

軽口を叩こうとした聡子だが、咲の冷ややかな表情に言葉尻がしぼむ。

「聡子さん。いい機会なので、はっきりさせておきたいことがあります。

あなた迷惑です。」


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