講演会
(68)
北園雄大。
北園家の4男として生を受けたこの男は、とにかくよくしゃべる。
「ああ、君!名前は…そう!SAKIだね?
親愛の証としてファーストネームで呼ばせてもらうよ!
僕のことは好きに呼んでもらって構わないさっ!」
「では、北園さ…」
「ノンノン!君と僕の仲だろう??
雄大と呼んでくれよ!」
君と、僕の、関係…?
出会って開始2分の会話がこれである。
もしかして彼と私の間には時空のひずみでもあるのか?
危うく現実逃避世界に逃げ込みそうになった咲は、一応の礼儀として彼の話に集中した。
「サキは、この近くに引っ越してきたんだって?!
君も物好きだね!いや、そうか、そうだよね!!
HAHAHAHAHA~!君は本当に面白いレディだね!」
咲は一言も発していない。
もはや彼は人間なのか、そのレベルで意味が分からない。
「HAHAHAHA~!ああ、おかしい☆最高だよサキ!」
目元に涙を浮かべ笑い転げる雄大。
その姿を微笑ましく見守る北園夫婦。
え、怖いんですけど。
咲は本能的な恐怖を感じた。
一刻も早くこの空間から脱出しよう、そう固く心に誓った。
「じゃあ私はこのへ…」
「そうだ!!かーさん良い事を思いついたよ!!」
またしても咲の言葉に被さって叫ぶ雄大は、人智を超えた何かと繋がっているのだろうか。
咲のイライラは募る一方である。
「サキの歓迎会をしよう!僕の親友サキを盛大に祝おうじゃないか☆」
出会って5分、咲と雄大は親友になったらしい。
咲の歓迎会、という名の雄大の講演会は3時間にも及んだ。
もはや感動の域である。
よくもまぁそこまで舌が回るものだ。
咲はどこか、未知なる生物を観察している気分になっていた。
「なんて素晴らしいのかしら。雄大ちゃんは我が家の宝よ~!」
お酒が入った赤ら顔の聡子はうっとりと見つめる。
「ありがとう!かーさん!!
僕は北園家の名に恥じない男になるよ!
そして、いつでもユーモアを忘れない男にもね☆」
雄大はバッチと音がしそうな激しいウィンクをしたが、咲はすっと避けた。
この親にしてこの子あり、だな。
「おや!もうこんな時間かい!?楽しい時間はあっという間だね!」
ふと時計を確認した雄大は、肩を大げさに上げてみせた。
時刻は21時を少し回ったところ。
咲はぼんやりと時計を見上げ、切なさに包まれていた。
“せっかくの休みが…!”
今日やる予定だった、あれやこれやが悲し気に手を振っている。
ああ、私だって私だって…。
がっくりと項垂れる咲を気遣う者などいるはずもなく、講演会は更に続いた。
そして、咲は運命の時を迎えるのである。
「お泊り会と言えば!…夜の女子会よね~。
ああ、私一度でいいからしてみたかったのよ。女・子・会♡」