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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
60/127

猿と種明かし

(60)


柔らかな日差しが降り注ぐ窓辺。

光の加減で黄金色に変化した柔らかな体毛。

あどけなさが垣間見えるつぶらな瞳。

器用な指先が握っているのは…骨董品の壺だ。

「なにやっとんじゃ!このクソザルがー!!」

コンマ数秒で状況を把握した咲は瞬時に体制を整え、猿に突進した。

しかしそこは猿である。

見た目のあどけなさとはかけ離れた身体能力を発揮し、軽やかに飛び上がった。

ガチャン

猿が壺に配慮するはずもなく、するりと放された壺は重力に従った。

「あああああああ!なんてことを!おばあちゃんごめんなさい!」

叫び声を上げる咲など目もくれず、猿は縦横無尽に部屋を飛び跳ねる。

ガチャン

「やめてー!ああああ」

ドンガチャン

「ダメだっ…あああああ!!」

散々暴れ回った猿は、最後に大きく飛び上がった。

目指す先は、立派な額に入れられた絵画である。

「やめて、本当にそれだけは…!」

高く高く飛び上がった猿は、ちらりと咲を振り返り、勝利の笑みを浮かべた。

咲は最後の力を振り絞り、猿に向けて右手を大きく伸ばした。

頼む…間に合ってくれ…!

「なーにを騒いでいるのかと見に来たら…。何をやっているんだい、お前さんは。」

咲の耳元で聞こえた呆れ声。

トンと肩に感じた弾みの後、気が付くと猿は床で伸びていた。


「なーるほど。つまりなにかい?

お前さんは、昨日の騒動を謝りたくてあたしを探していたと。

ところが偶然紛れ込んだ猿に遭遇し、退治しようとしていた…というわけだね?

して、あたしに何を謝るつもりだったんだい?」

「そ、それがですね…。」

探し人ベニにより、ひとまず猿騒動は幕を閉じた。

完全に伸びていた猿はベニが何処かへ連れ去り、猿のその後は闇の中となった。

そして今、咲はベニの尋問を受けている真っ最中というわけである。

「まさか覚えてない、なんてことはないさね…?」

「ははははーまさかそんな。ベニさんおっもしろーい。」

空笑いをする咲に、ベニの鋭い視線が突き刺さる。

「なーんてね。本当に覚えてないみたいだね。

お前さんは、あたしに謝るようなことは何もしていないのさ。

まぁ強いて言うなら、号泣するお前さんがあたしから離れなくて、涙やら鼻水まみれにさせたぐらいかね?

つまり、どうやらあの兄ちゃんに一杯食わされたようだね。」

ケラケラと楽しそうに笑うベニの種明かしは、咲の顔から一切の表情を失わせた。

「…ありがとうベニ。よーくわかった。ちょっと、イブキと話してくる。」

そう言うと咲は綺麗に微笑み、スタスタと標的の元へと向かった。



その日、イブキの悲痛な叫び声が聞こえたとかいないとか。

しばらくの間、咲の下僕として付き従うイブキの姿があったとかなかったとか。


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