表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
59/127

は?

(59)


時刻は10時。

カーテン越しでも眩しい陽光に目を細め、咲は再び枕に顔をうずめた。

頭が痛い、完全に二日酔いである。


昨夜、勤務を終えるや否や、松永を振り切り逃げるようにして帰宅した。

溜まりに溜まったストレスは、車の運転にも如実に表れ、危うく正面衝突するところだった。

家に到着すると今度は、また来ていたらしい聡子の置き土産である。

“いつになったら会えますか?”

野菜が覗くビニール袋に貼られた、書き殴られた文字。

限界だった。

咲は唸り声を上げて袋を投げつけた。

その拍子に野菜が飛び散り、玄関を汚したが知ったことではない。

勢いよく引き戸を開け放ち、飛んできたイブキとベニには目もくれず、自室へと逃げ込んだ。


「あったま痛いー…。」

思いのほかザラついた声が出て、情けなくて笑った。

「当り前です。あんなに飲むから!…水、飲める?」

小さく開けられた襖からイブキが顔を出した。

「ありがとう、ごめんイブキ。」

「謝るのはベニの方が先かな~。…覚えてる?」

含み笑いをしたイブキが顔を引っ込め、ペットボトルを手に戻って来た。

「まったく覚えてなーい…そんなに酷かった?」

頭を庇いながら上体を起こし、咲はペットボトルに口を付けた。

「そっかそっか、覚えてないかー。うーん…どうしようね?」

ふふふと尚も楽しそうなイブキの反応に、咲はどんどん不安が増していく。

「え、本当に覚えてない。どうしよう…ベニ怒ってる?」

まったく姿を現さないところを見ると、相当怒らせてしまったのかもしれない。

しかし何をしたのか、全く思い出せない。

これでは、謝ろうにも何に対して謝ったらいいのか分からない。

「うーん、まぁ昨日は相当怒ってたね。」

咲の反応を楽しんでいるイブキはわざと原因を言わず、ニヤニヤしている。

これは…一刻も早く、正直に謝った方がいい気がする。

そう判断した咲は、極力頭を刺激しないようにベッドから立ち上がった。

「あ、ダメだよ咲ちゃん。寝てないと。」

少し焦った様子でイブキが止めた。

その手をやんわりと退け、咲は真剣な顔で部屋を出た。

「咲ちゃん…。瞼が腫れすぎてちょっと怖かったな…。」


ベニの部屋、という特定の場所はない。

彼女は自由気ままに、その時の気分で居場所を変える為だ。

とは言っても、彼女なりのこだわりを踏まえると、候補は3か所しかない。

咲がまず向かったのは長い縁側だった。

ずらりと並ぶガラス戸からは眩しい程の陽光が降り注ぎ、幅広の渡り廊下を照らし出す。

お気に入りの昼寝スポットである。

いつもなら、大体ここに横たわっているはずが…今日は違ったらしい。

咲は少し肩をすくめ、次なる候補へと向かった。

傾斜が急な階段を登り、まだ手付かずのまま放置している部屋に眉を寄せ、向かったのは最奥の部屋。

ここはその昔、祖母が秘密基地と呼んでいた部屋だ。


「ベニさーん?」

家の構造上、ほとんど日の差し込まないこの場所は、ある種独特の雰囲気を醸し出している。

時の経過とともに湾曲した床板は、歩く度にミシミシと軋み、まるで侵入者を知らせる警笛のようだ。

「おおーい…ベニさーん?いるんでしょう?」

ここ最近立ち寄っていなかった咲は、どうやら耐性が無くなっていたらしい。

普通に怖い。

「返事…してくれると嬉しい…なぁー。」

まだ昼前だというのに薄暗く、舞い上がったホコリがぼんやりとした雰囲気を演出する。

“これだけ声を掛けたのに返事がないのは、きっとここも違うからだ。”

ヒタヒタと這い上がってくる恐怖心が、ここから立ち去る言い訳を探す。

“きっとそうだ。もう一度、もう一度だけ声を掛けて、返事がなければ次に行こう。”

そう自分を納得させ、咲は祈るように胸の前で指先を絡め、口を開いた。

「べ、ベニさ…」

ガタン

部屋の中から物音がした。

咲は息をのみ、全意識を扉の向こう側にむける。

ガタンドン

再び起きた物音。それも何かが落下したような音だ。

「ベニ…!」

恐怖に固まっていた咲は、はっと我に返り扉に駆け寄った。


あの物音はベニが倒れた音だ。

ベニの身に何か異変が起きたんだ。


「ベニ!待ってて、今行く!」

咲は素早い動きで扉に手を掛け、勢いよく開け放った。

その瞬間、爽やかな風が咲の頬を撫でた。

そして、猿と目があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ