王位継承者
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「王位継承者に選ばれる者には、ある一定の条件があるんだ。
なんだと思う?」
「えー…、なんだろう。
結構大切な役割だから、やっぱり〇〇家とか高貴な生まれの人とか?」
「うん、それも選考条件に含まれてる。
でもね、それは大して重視されないんだ。
そもそも僕らに血筋を重んじる考えがないからね。
一番重視される条件。
それは、人間と縁を結んでいるか、なんだよ。」
「人間と縁を…?え、つまり私と2人みたいな?」
「そういうことだね。」
咲はおろか、どうやら初耳だったらしいベニも驚いた表情を浮かべた。
「なぜ人間との縁が最重視されるのか。
それはね、この呪われた感情を抱くきっかけとなったのが、人間との交流だったから。
だからこの感情を受け止める役割もまた、人間との縁を結んでいるモノが選ばれるんだ。」
「そんな…それって、罪を償うように聞こえるけど。」
「うん、そう。そうなんだよ。
そもそもの原因を作りだしたモノ達に償わせる。
未来永劫、同じ過ちを繰り返さないために。
戒めとして作られたルールがこの王位継承者の正体だ。」
「そう、つまり私は被害者というわけです。はい。
人間、理解できましたか?
理解できたのならこのモノ達と共に、即刻立ち去りなさい。」
突如、壁からぬっと現れたケルベロスが勝手に話を切り上げた。
驚き固まる咲をフンと鼻で笑った彼は、ついでとばかりにイブキを指さした。
「お前たちに言っておきましょう。
このモノは、私を嵌めたのです。はい。
風の王位継承者はこのモノだったのです。
しかし!
あろうことか無理やり人間と縁を結ばせ、王位継承者の座をなすり付けた!
そして姿をくらませたのです。
…もっと早く気づいていれば。」
屈辱に顔を歪めたケルベロスは、鋭い視線でイブキを射抜いた。
「お前ごときが、どこでその術を覚えた。
私に偽りの姿を向けるのを止めなさい!」
そう叫ぶや否や、凄まじい風がイブキに向かって吹き荒れた。
「やめろ!お前をだましていたわけじゃない!」
イブキも負けず叫び返し、拮抗する大きな竜巻が二本ぶつかり合った。
ベニは咄嗟に咲の服を咥えて飛び上がり、争う2人から距離を取った。
白熱する2人は唐突に姿を消した。
「ベニ!2人が…!!」
「落ち着きなさいな。きっと場所を変えただけさね。
それより、お前さん怪我はないかい?」
ベニは咲のお腹辺りを鼻で突っついた。
「だ、大丈夫。まだ心臓はドキドキしてるけど。」
自分の胸に手を当てた咲は、辺りの被害状況を目の当たりにし、ため息をついた。
「嘘でしょう…。」
その後、軽く片づけた咲は、逃げるようにしてその場を去った。
イブキがションボリした顔をひっさげ現れたのは、夕方のことだった。
すっかり定位置となったベッドの上でベニは欠伸をし、咲は買ってきた食材を仕舞っていた時である。
「…咲ちゃん。」
「のわぁ!…びっくりしたー…犬?」
飛び退いた咲の目に映ったのは、小型犬だった。
「イブキです…。」
大きな瞳をウルウルと潤ませ、こちらを見つめる犬は、どう見ても餌をねだる犬である。
「おんやぁ~?これまた珍しいモノを見たね。
そうかい、そうかい。にーちゃん、その出だったかい。
ちょいと咲。なに突っ立ってんだい。
邪魔だよ。」
「え、いま咲っていった?
嬉しい!…あ、はい。すみません。」
ニヤニヤする咲を鼻先で退かしたベニは、イブキを中へと促した。
「えーっと、貴方はイブキさんで間違いない?」
子犬サイズのイブキを机の上に乗せ、正面に咲、咲の背後に寝転がるベニが腰を落ち着かせた。
「うん、そうだよ!」
人型から犬型に変化した代償か、幾分声が高くなっている。
「また随分可愛くなって…。って、そんなことより!
どこ行っていたの!心配するでしょ?」
イブキとケルベロスの姿が見えなくなり、探しに行こうとした咲はベニに止められていた。
曰く、咲の手には余る次元の争いらしい。
そのうち帰ってくるさ。
という、なんとも楽観的な意見にヤキモキしながら待っていた所だった。
「ごめんね咲ちゃん。
結局、奴とは分かり合えなかったよ。」
ションボリ肩を落とすイブキの頭を、咲は思わず撫でていた。
「…まぁ、難しいタイプだし。無理することないんじゃない?」
咲はなんと慰めていいか分からず、とりあえず当たり障りのない事を言った。
「そもそも、お前さんが悪いんだろう?
別にあいつの肩を持つわけじゃないけどさ。
さすがに騙すのは良くないんじゃないかい?」
ごもっともな意見ではあるが、何もこのタイミングで言わなくてもと、非難の目を向けた咲に、気づいているのかいないのか、ベニは飄々とした顔をしていた。
「…うん、ベニの言う通りだよ。
僕の言葉足らずが原因なのは間違いない。
…ケルベロスなら、分かってくれていると思ったんだ。」
「言葉足らず?あれ?一方的にケルベロスを嵌めたんじゃないの?」
「ち、違うよ!
僕はただ、僕らの世界を変えたかったんだ!」




