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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
42/127

ピリオド

(42)

待ち合わせは18時30分。

場所は、会社近くのファミレス。


疲れた笑みを浮かべた店員に案内され、角のソファー席に着いたのが18時過ぎ。

まだ約束まで時間がある。

咲はだらりと身体をソファーに預け、ぼんやりと天井を見上げた。

さて…吉とでるか凶とで…

「ああ!久しぶりだね~この感じ!

ちょいと、何か頼まないのかい?」

「僕はなんだか苦手かも…ざわざわしてる。」

人がセンチメンタルな気分に浸っている時に…まぁ、いいか。

「いやいや。こういう時は、相手が来てから頼んだ方がいいの。

店員さんの手間が増えるから。」

「なんだい、人間は面倒くさいね~。」

「咲ちゃん!あの子供たち、走り回ってるけどいいの?

あ!あっちは転げ回ってる!」

「…お2人さん。ちょっと静かにしてて。

なんでここに来たか分かってるでしょ?」

咲が軽くため息をつくと、ベニとイブキはションボリと身をすくめた。

そして、見る見る内に2人の身体が小さくなったかと思うと、卓上にあった紙ナプキン立ての横にちょこんと座った。

「ごめんね。ここで大人しくしているよ!」

ミニサイズのイブキが手を振り、その横ではミニサイズのベニが寝そべった。

精霊はなんでも有りなのか…。

しばし2人を眺めた後、咲は来る戦いに向け精神統一に入った。


18時32分。

バタバタと息を切らして現れた花。

相変わらず微妙にルーズだ。

「ごめん!本当にごめんなさい!システムにエラーが…。」

「うん。…とりあえず座ったら?」

悪いけど、言い訳を聞いてあげられるような精神状態じゃない。

咲は目を伏せたまま、花が着席するのを待った。

「…そうだね。」

花は重たそうな鞄を椅子に乗せ、その上に上着を無造作に置いた。

その上着は花の誕生日に咲が送ったものだ。

じんわりと目元が熱くなったが、気づかない振りをする。

「もう頼んだ?」

ぎこちなく微笑む花に首を振って答え、無言でインターフォンを押した。


店内は徐々に賑わいを増し、それに伴って雑音も大きくなっていく。

聞かれたくない話をするには打ってつけの状況だろう。

「あの、さ…。」

お互い下を向いたまま、既に数分の時が過ぎていた。

イメージトレーニングの甲斐なく、不格好に切り出した咲はまた口をつぐんでしまった。

一体なんと言ったらいいのだろうか。

嵌めやがって?

汚い真似しやがって?

違う。もはや怒りの感情を抱く時期は過ぎた。

今は…ただ。

「…どうしてこんなことしたの?」

するりと言葉が出ていた。

そのあまりにも感情のない声色に、はっとした花はぎゅっと目を閉じた。

「こんなことって…?」

分かっている癖に。

顔を上げた咲は、花を真っ直ぐ見つめた。

「どうして私を嵌めたの?」



通い慣れた駅へと向かいながら、咲は空を見上げた。

中途半端な都会の空には、中途半端な星が輝いているらしい。

「今日は飲むぞ~!」

“また?…いいけど、ちゃんと帰ってよ?”

ほんの少し前までは当たり前だった会話が、夜風に紛れて聞こえた気がした。


「お前さん、強いのかい?」

「程ほどに、だからね咲ちゃん。」

元のサイズに戻った2人は、咲を挟むようにして歩きながら言う。

その言い草になんだか笑いが込み上げた。

咲は思いっきり2人を抱きしめると、夜空に向かって叫んだ。

「あばよ!」

明日、朝一番で主任に伝えよう。

きっと直ぐに受理されるだろう。

その後は…そうだな。

田舎暮らし、はじめてみました。


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