表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
41/127

覚悟

(41)

花はすっと息を吸い込み、ちらりと飯田を見た。

相変わらず、想定外の事柄に弱い彼は明らかに動揺している。

ほんと、ダメな人。

花は小さく笑った後、覚悟を決めた。

自分の為に、そして何より…彼の為に。


「私は、飯田課長と不適切な関係になった覚えはございません。」


しんと静まり返った室内に響いた花の言葉は、皆の耳に平等に届いた。

「浅野さんの証言は完全なる濡れ衣です。

私と浅野さんは同期入社ですので、公私ともに仲良くしておりました。

今から考えると、それが良くなかったのかもしれません。

実は以前より、飯田課長に対する思いを打ち明けられておりました。

…飯田専務、申し訳ございません。

しかし、ただ心で思っている間は見逃してあげて欲しかったのです。

そのうち静かに身を引くだろうと、報われない気持ちを何かしらの形で昇華してくれるだろうと、そう思っていたのです。

それが…あろうことか、このような形で皆様にご迷惑をお掛けするだなんて…!

この場をお借りして、彼女にきちんと伝えたいと思います。

咲、もうやめなよ。

人として恥ずかしい事をしているんだよ?

変な意地張っていないで、罪を認めて。」


悲し気に、でもどこか機械的にそう語りかける花は、もはや咲の知る花ではなかった。

コイツは誰だ。

咲の頭は衝撃のあまり真っ白になった。


「…よくわかりました。

坂下さん、貴方は友として浅野さんをよく支えたと思います。

よく頑張りましたね。」

貴子は穏やかで優しい表情を浮かべた。

花は静かに頭を下げた。

「浅野さん、貴方はとても罪深いことをしたわ。

どうして…こんなにも心を砕いてくれる友達を悲しませるような事をしたの。

…いえ、いいわ。何も言わないで。

心から反省なさい。

処分は追って知らせます。出ていきなさい。」



パタンと、咲の背後で扉が閉まった。

まだ頭の整理が追いついていない咲は、ぼんやりと壁を見つめていた。

「私…どうなるの?」

じわじわと何かが心を侵食し、重たくなっていく。

「ねぇ、私どうなるの…?」

誰か教えて。

私の何がいけなかったのか。

どうして花はあんな…

咲の心は深い深い水底へと、降下していく。

そこは光のない暗闇…かと思われたが、ふわりと持ち上げる者がいた。


「しっかりしな!」

「咲ちゃん!」


ああ、そうだった。

私は1人じゃなかった。


「あんたね!なに動揺してんだい!」

「まぁまぁ。咲ちゃん…ハンカチ使って?」

咲の不甲斐なさにプリプリと怒るベニと、フォローに回るイブキ。

「え…私、泣いているの?」

自分の頬を触った咲が驚きの声を上げた。

そして気づいた途端、顔をクシャクシャにして泣き始めた。


「ごめんなさい…。ありがとう。」

咲にピッタリと身体を寄せていた2人は、心配そうな顔で覗き込んだ。

「大丈夫。…なんか、すっきりした。」

そう明るく言う咲に、幾分ホッとした様子の2人がゆっくりと離れた。

「よ~し!うん、やっぱりもう一度花と話してくる。」

ベニとイブキは何も言わなかった。

ただ、しっかりと頷いた。



スマホを持つ手が少し震えている。

もしかしたら、今日は生涯忘れることのない一日となるかもしれない。

右手に振動を感じ、画面を見る。

相手からの了承を告げるメッセージだ。

約束の時間まであと数時間。

ふと見上げた時計がぼやけて見えたのは気のせいだろうか。

もう後戻りは出来ない。

ただ…今だけ、どうかどうか。

「許して、咲…。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ