表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
26/127

チョーボ~後編~

(26)


無言の時というのは、どうしてこうも息苦しく感じるのだろうか。

原因が自分にあるから、かなー…。


瞬時に状況を悟った咲は、これはいち早く修正するべきであることを本能的に察した。

経験上、相手が真剣に考えてくれている場合ほど早めの対処が肝要である。

問題はどうやって、である。

…どうする?どうする!

時間にしたら数分にも満たないくらいではあったが、咲の頭は財布事件以来のフル回転を余儀なくされた。


「お婆さん…その、誠に申し上げにくいのですが。実は…」

ここは素直に謝ろう、そうした方がいいに決まっている。

咲の心は決まった。

「ごめんなさい。実は、偽名でした。私は浅野咲と申します…。」


しんと静まり返った室内。

咲は恐ろしくて老婆の顔を見られず、太ももの上に置かれた自分の手を見ていた。

つーと、冷汗が背中をつたう感覚。思わず身震いする。

嘘をついた自分が悪いのだが、一言でもいい…何か話してほしい。

そしてどうか、この痛い程の静寂から解放してくれ…。

息苦しくて居たたまれない。

この無限に続くかと思われた地獄は、拍子抜けするほど呆気なく終わりを迎える。

「なんだ、そうなのかい!それならそうと早くお言いよ。」

老婆から放たれたこの一言で、重い沈黙が一気に霧散したのだ。

咲はホッと胸をなでおろし、顔を上げようとして凍り付いた。


「…なんて、言うと思ったかい?」


その瞬間、咲の身体は何かフサフサしたもので覆われ、空中へと持ち上げられた。

「このあたしに嘘を言うなんて、中々肝の座った小娘だよ。」

口、胸、腰、膝をフサフサしたもので締めつけられ、老婆の前に吊るされる。


老婆は、不気味なお婆さんスタイルから大きな狐へと変化しており、フサフサしたものは沢山ある尻尾であることが分かった。

そういえば、おでん屋が“狐のばあさん”と言っていた。

妙に冷静な頭が記憶を引っ張り出したが、今更どうこう出来るわけもなく、咲はただ吊り下げられるばかりだった。


「お前さん、なんで嘘をついたのかね?」

ぐっと老婆側に寄せられた咲は、間近で狐の顔に覗き込まれた。

まるで化粧を施したかのように目元を彩る黒と朱。

ピンと張った髭や動きに合わせて脈打つフサフサとした毛並み。

意外にもつぶらな瞳。

咲の心を打ち抜くには十分すぎる程のルックスであった。

「かわいい…。」

心の声として発したつもりが、しっかりと口に出ており、我関せずを貫いていたチョーボは思わずといった感じで呟いた。

「ヤバい奴だわ。」


どのくらい時間が経ったのだろうか。

咲はこれ幸いと、じっくり狐の顔を堪能し、老婆はまさかの反応を見せる人間にただ茫然とし、空気となっていたチョーボは、面白いことになったとニンマリしていた。

始めに我に返ったのは意外にも咲だった。


「あ、すみません。あまりにも可愛かったものですから…。えっと、何でしたっけ?

ああ!なんで嘘をついたのか、でしたっけ?…上手く説明出来ないんですけど、強いて言うなら本能ですかね?」


緊張、恐怖…老婆が想定していた反応はそこにはなく、むしろ満たされたような笑みを浮かべる咲は、老婆の質問に答えた。

「コイツやべぇ。」

またしても呟かれたチョーボの言葉などなんのその、咲は人生で一番と言っていい程、充実感に胸を震わせていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ