私は、みなを平等に救いたいのです
(126)
「…どういうことです?」
ピクリと眉を震わせたクロノメは、にこやかな笑みを浮かべつつ尋ねた。
「そのまんまの意味さね。」
ベニはひょいっと瓦礫の影から姿を現すと、オジイノの隣に歩み寄った。
「どうもねぇー…お前さんの話は耳当たりが良すぎるのさ。
未来ある子供たちの為にだって?…よく言うよ。
目の前の部下1体守れない奴が何言ってんだい!」
その瞬間オジイノは、はっと顔を上げクレノへとその視線を向ける。
「旦那…はっきりお言いよ。何を企んでんだい?」
その時、不意に大きな瓦礫が落下した。
辺りは巻き上げられた砂煙に覆われ、彼らは数秒の間視界を奪われた。
そのわずかな間、ベニは真横を何かが通過するのを感じた。
「さすがはベニ様…ですね。」
再び視界が晴れた頃、やけにしおらしい呟きが聞こえた。
「お察しの通り、先程申し上げた話は表面的な内容に過ぎません。
言わば序章に過ぎないのです。」
「序章ねぇー…。」
ベニは妙にしおらしい様子を訝しく思いつつも、会話を続けた。
「じゃあ何かい?
お前さんの言う、人間を取り込んだ未来ってぇーのが始まりだとでも言うのかい?」
ベニは敢えて嘲るような表情を浮かべた。
「…ベニ様、私は常々考えておりました。
なぜこの長い歴史において、我らは人間から遠ざかるという選択肢しか取り得なかったのか、と。
それは、彼らの持つ力…集団力に勝てなかったからです。
我らは確かに単体では強い。しかし、集団力はそれをも凌駕してしまうのです。
私は考え続けました。
どうすればその集団力を得られるのか。
どうすれば彼らの呪縛から自由になれるのか。
そして…辿り着いたのです。
彼ら人間と、集団になればいいと。」
この時、ベニは妙な高揚感を覚えた。
それはベニ自身が感じたというよりは、もっと根底にある何かが感じたものであった。
「とは言え…なにも人間を取って食おうなどとは考えておりません。
今よりもっと深く、共存よりも深く関わるべきだと申し上げているのです。」
彼はくるりと背を向けると、大きく翼を広げた。
「人間は脆く儚い。
いかに高度な技術をその身に宿していようとも、彼ら自身の生命体だけでは、引き継いでいくには限界があります。
貴方もご存じでしょう?どれだけ多くの技術が儚く散ってしまったことか。
…私は、そんな彼らをも救って差し上げたいのです。」
オジイノが開けた風穴からは陽光が降り注ぎ、反射した黒色が眩しく映った。
「私の思い描く未来。
それは見えざるモノと人間の融合、そして生まれ出る完全体の追及。
私は、みなを平等に救いたいのです。」