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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
123/127

色々考えた方がいいですよ?

(123)


路地に入った途端、なぜかグッと気温が下がったように感じた。

咲は露出した腕を擦りつつも、未だ酒の抜けきらない頭で呑気に鼻歌を歌う。

「何がでるか…なぁーんだ。」

途端、不満げに歪んだ咲の足元には小さな看板が1つ。

どうやら、明りの正体はこれだったらしい。


「占いー?」

小さく悪態をつきつつ読み上げたそれは、またしても既視感を抱かせるものだった。

「なんだっけ?あれ、なんか見た事あるような…?」

何かが脳裏を掠めた瞬間、唐突に声を掛けられた。

「いらっしゃい。」

思わず飛び上がった咲の目に、儚げに揺れるロウソクとこちらを見上げる優し気な老婆が映った。

「あ、ごめんなさいね。驚かせてしまったわね。

…久しぶりのお客さんだと思ったら、つい嬉しくなっちゃって。」

老婆は照れたように目を伏せると、チラチラと咲を見た。

「あの…もし良かったらちょっと寄って行かない?

今ならたったの500円で受け放題よ。

時間も気にせず、貴方の悩みを何でも聞いちゃう!」

老婆は精一杯明るく振舞っていたが、却ってそれが痛々しく映った。

このご時世、スマホを操作すれば手軽に受けられてしまう占い。

それをこんな夜更けに、こんな場所で。

ああ、大変なんだな。

そんな同情心が胸に灯り、咲はつい口走ってしまった。

「じゃあ…ちょっとだけ。」


それから1時間。

水を得た魚のごとく、老婆は喋りにしゃべった。

「それでね、お嫁ちゃんなんて言ったと思う?

お義母さん!そんな考え時代遅れです!…だってぇー。

根はとっても良い子なの。良い子なんだけど、ちょっと芯が強す…」

知らんがな。

咲は老婆に隠れて小さくため息をついた。

始めこそ、彼女も親身になって悩みを尋ねたりしてくれた。

ところが、咲自身にこれと言った悩みが思い当たらず、このざまである。

いや、まったく無いわけではない。

ただ…走馬灯が長すぎる問題を相談したところで、彼女を困惑させるだけなのは目に見えていた。

「ねぇどう思う?やっぱり、お父さんにはネクタイが似合うと思うん…」

そろそろ頃合いか。


咲は、困った時によく使う眉を下げて曖昧に微笑む表情を浮かべた。

「ありがとうございました。よく分かりませんが、頑張ろうって思いました。

お婆さんも…色々考え直した方がいいですよ?

あ、これお代です。ここ置いときますね。じゃ!」

咲は素早く立ち上がると、一目散に歩き出した。

「あ、ちょっと!」

背後からは制止の声が追いかけてきたが、聞こえないふりをして足を速める。

我ながら結構頑張った。

すっかり酔いの醒めた頭で、咲は妙な達成感を味わっていた。

その時、不意に耳を掠めた言葉。


「あんた、死んじゃうかもね。」


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