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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
120/127

走馬灯と実験

(120)

苦しい。

暑い。

うるさい。

うるさいうるさいうるさい…!


「浅野さん!」

突如耳元で叫ばれた声に、咲はがばっと上体を起こした。

「は、はい!」

「貴方ね…、さすがに堂々とし過ぎよ。」

ふわりと鼻を掠めたのは、上品な香り。

「今は業務中です。まったく、貴方らしくない。」

トントンとデスクを叩いたのは、すらりと長く美しい指先。

「もしかして…何か悩み事?」

不意に翳ったその声は、耳触りのいい優しく落ち着いた声。

「なるほどね、それで満足に眠れていないというわけ。

…いいわ、その悩み聞きましょう。」

こちらの返答など、端から聞く気のない一方通行な解釈。

なんて懐かしいやり取りなのだろうか。

「浅野さん?ちょっと、まだ寝ぼけているの?」

懐かしさにじんと胸打たれていると、彼女はぐいっとその美しい顔を寄せた。

「いえ、あまりにも懐かしくて…つい。お元気そうで何よりです、立花主任。」

これが所謂、走馬灯ってやつなのか。

咲は、次第に熱くなる目頭を押さえた。

「懐かしい…?本当に、どうしたの浅野さん。

はっ!なるほど、そういうことね。わかったわ、私に任せておきなさい。」

何かを思いついたらしい立花ゆり子の背を見送り、咲はぼんやりと周りを見渡した。

走馬灯というやつは粋な計らいをするらしい。

「またここに来れるなんて…な。」

甘くほろ苦い、もう触れることのないと思っていた場所。

咲の社会人生活が詰まった職場だった。



「さて、では参りましょうか。」

ふわりと翼を広げたクロノメは、じっと視線を向けるクレノに気が付いた。

「…ああ。気になりますか?」

視線の先を追ったクロノメは、笑いを含んだ声で問いかける。

「え!いや、なんというか。…はい。」

クレノの目は激しく泳ぎ、知りたいという欲求と尋ねてもいいのかという不安で揺れているのが丸わかりだった。

「ふふふ。構いませんよ、クレノ。

貴方は私の大切な配下です。何を遠慮する必要がありますか。

あれは…実験なのですよ。」

にっこりと微笑みかけたクロノメは、クレノの反応を伺うように目を細めた。

「実験…ですか?あれが…?」

クレノは、カラスに取り囲まれた何かに再度視線を向けた。

「ええ、とても重要な実験です。

この結果如何によっては、我々の力が飛躍的に進化するやもしれません。」

「そ、そんなことが!」

クレノは面白いように反応を示し、クロノメの気持ちを掻き立てる。

「クレノ…貴方には今後、更なる活躍を期待しています。

その為には、今まで以上の理解が必要となります。覚悟は出来ていますか?」

クロノメは真剣な表情で見つめ、クレノもまた真摯な瞳で頷いた。

…が、正直クレノはよく分かっていなかった。

ただでさえ少ない脳内は、母親になんと報告するか、その一点のみで容量を使い切ってしまっていて、なんとなく頷いたに過ぎなかったのだ。

「いい子だ。では、早速ですが…あれの概要について説明しましょう。

移動しながらの説明になりますので、聞き漏らしのないようしっかりと理解なさい。」

「…え?あ、はい。」

戸惑いを含んだ返事は羽ばたきで掻き消え、2体は素早く空を切った。


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