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田舎暮らし、はじめてみました  作者: 秋野さくら
119/127

歓迎

(119)


「あー…。」

不意に聞こえたのは、ぼんやりとしたクレノの声だった。

「クレノ!無事か?」

はっと我に返ったオジイノがすぐさま駆け寄り、彼の顔を覗き込む。

「あー?俺―…寝てた?」

まだぼんやりとした様子のクレノは、軽く頭を振りつつも立ち上がろうと足に力を込める。

「お、おい!無理をするでない!」

オジイノは慌てて支えようとしたが、その巨体ゆえ、オジイノ自身も危うかった。

「なにやってんだい!」

そこに加勢したベニが反対側から支え、なんとか3体は立ち上がることが出来た。

「…悪ぃーな。」

そうポツリと呟いたクレノは、微かに震えていた。

「俺、前も途中で寝ちまったことがあってさ。

そん時も、今みたいに迷惑かけちまったんだ。

俺…どっか悪ぃーのかな?」


クレノは、気づいていないのだろうか。

彼の体を、乗り物のごとく操っている存在がいることに。


「…クレノ、症状が現れたのはいつのことかね?」

「あー?…いつだったかな?ああ、そうだ。

クロノメさんの助手をさせてもらうようになってからだな。」

途端に、クレノの顔はニコニコと輝いた。

「クロノメさんはスゲーんだよ!

俺らが今まで見た事もねぇーような、スゲー方法をいっぱい知ってんだ!

それなのに全然満足してねぇの。常に研究してんだぜ!ほんと、スゲーカラスなんだよ!」

ニコニコと、それは嬉しそうに誇らしそうに語るクレノ。

オジイノとベニは軽く目を合わせ、そして口をつぐんだ。


その後、クレノは遅れを取り戻すかのように一気にスピードを上げた。

時に、オジイノやベニを置いてけぼりにしてまで辿り着いたのは、異様に煌びやかな小部屋であった。

「はいよ、着いたぜ。」

ふーっと満足げな息をつき、クレノは振り返った。

「ここでクロノメさんと会えるはずだ。…ちょっと待っててな。」

そう言い置くと、彼は何処かへと飛び去った。

「なんだい、ありゃ…。」

ベニはあんぐりと口を上げ、その異様な小部屋を見上げる。

殺風景な洞窟に突如現れた、極彩色の小部屋。

それはどこか“人工的な”もののように見えた。

「嫌な感じがするのぅ…。」

オジイノもまた、眉間に皺を寄せ異様な小部屋を見上げた。



「さぁさ!」

「さぁさ、さぁさ!」

「おいでませ!」

「おいでませ、おいでませ!」

「ようこそ!」

「ようこそ、ようこそ!」

クロノメの掛け声とともに現れたのは、10体ほどのカラス達。

その顔はみな等しく微笑を浮かべていて、口々に歓迎の言葉を口ずさんでいる。

「さぁさ!」

1体がひと際大きく声を張り上げた。

その途端、カラス達は一斉に咲の周りをまわり始めた。

「ようこそ!」

「ようこそ、ようこそ!」

カラス達は回りながらも尚、歓迎の言葉を口々に並べる。

「おいでませ!」

「おいでませ、おいでませ!」

永遠と錯覚する程続く言葉たち。

「や、やめ…。」

咲の身体はガタガタと震えはじめた。

どこを見ても同じ微笑、同じカラス、同じ言葉。

「さぁさ!」

「さぁさ、さぁさ!」

咲は耳を塞いだ。塞いでも尚、届く歓迎の言葉たち。

「ようこそ!」

「や、やめ、て…!」

「ようこそ、ようこそ!」

「やめて!おねが…」

「おいでませ!」

「おいでませ、おいでませ!」

「やめてーーー!」


「おや?もう終いですか。…少々、拍子抜けする結果ですね。」

クロノメは小さくため息をついた。

「まぁ、人間にも個体差があった、その結果が得られただけでも良しとしますか。

しかし…もう少し頑張って欲しかった。」

クロノメには珍しく、その顔には不満げな表情が広がっている。

「クロノメさん!」

「…おや、クレノ。どうしました。」

クロノメがチラリと目線をやった先には、嬉しそうなカラスが1体。

「お待たせしてすんません!案内、完了しました!」

キラキラと輝く瞳を真っ直ぐクロノメに向け、クレノは元気に報告した。

その全身からは、褒めて欲しいという主張が駄々洩れである。

「そうですか、そうですか。素晴らしい報告ですよ、クレノ。」

クロノメはニッコリと微笑み、彼が欲しいであろう言葉を投げる。

「さすが、私の配下です。これは何かご褒美が必要ですね。」

「え!いいんですか!」

すぐさま返ってきたのは、あまりにも予想通りの反応だった。

思わずクックと小さく笑ったクロノメは、優しく微笑んだ。

「ええ、楽しみにしていなさい。」


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