違和感
(114)
「はい、来ました分かれ道ですっ!」
腰に手を当て、キリリとした眼差しで見つめる先には2つの入口。
「ふふふ…揺さぶりをかけているのかな?
動揺を誘っているのかな?…甘いわ!
私を見くびってもらっては困りますな!」
ハイテンションで1人叫ぶ咲は、傍から見たら狂気の沙汰である。
「こっちには最強の道標がついてますからねー!
惑わそうたって、そうはいかないぜ。」
咲は仁王立ちで洞窟と対峙し、よく分からない闘志にぎらつく瞳をすっと閉じた。
「さぁ、いつでもバッチコーイ!」
両腕を大きく広げ、無駄な情報が入らないように視界を遮断する。
咲は…本気だ。
イエノは滑らかな飛行で最短距離を行く。
カラス族内では1、2を争う飛行のスペシャリストだ。
彼の飛行技術は、何と言っても風の読みに起因する。
翼に触れた時の温度、湿度、勢い…その全てから最適解を導き出すのだ。
イエノはいとも簡単にやってのけているが、言わずもがな凄腕の技術である。
さすがクロノメ直属の配下、といったところか。
そんなイエノは、先程から微妙な違和感を覚えていた。
「おかしいですね、私は向かい風のはず…。」
そう、イエノはブルノが最後に目撃されたという入口へと飛んでいた。
つまり、入口から吹き込み続ける風に体当たりし続ける構図になるはずなのだ。
ところが、どうも風の当たり具合に微妙な湾曲を感じる。
その違和感はイエノだから感じ取れる程の微妙な差異。
「まぁ、気のせいでしょう。
ああ、もしかしたらクレノの仕業かもしれませんね。」
イエノは過去にもあった、クレノの巨体による意図せぬ妨害を思い出し、小さくため息をついた。
しんと静まり返る空間。
聞こえてくるのは自分の呼吸音と、時折感じる風の音…だけ。
おかしい。
咲はチラリと片目を開け、辺りを伺った。
「あ、れぇー?」
不格好に間延びした声は、誰からの返答も得られず消えた。
「もしもーし?…まだですか?」
咲はぱっちりと両目を開け、控えめに啓示を求めた。
しかし、当然ながら何も起きるはずもなく…。
彼女は頭を抱えた。
「な、なんで?さっきはあんなにはっきりと…は!」
その時、咲の頭に妙案が舞い降りた。
「そうか!啓示とはただ待っているだけでは舞い降りない!
動きだ!動きが必要なんだ!」
その瞬間、咲は猛然と動き出した。
反復横跳びだ!
イエノの翼がピクリと反応をみせた。
先程までの薄らとした違和感から一変…存在感が増したのだ。
「これは…なにかありますね。」
イエノは不敵に微笑もうとして失敗した。
彼の武器は、この類まれなる飛行技術のみ。
戦闘能力は…残念ながら下から数えた方が早い。
「ク、クレノになんとか連絡を…」
“いいのかそれで?”
心の内で自分が問いかけてきた。
“今までもそうやって、クレノとセット扱いだったんじゃねーのか?”
“それが嫌だったんじゃねーのかよ?”
“今回うまく出来たら、クロノメさんに認めもらえるチャンスだろ。”
“そんなチャンスそうそうあるもんじゃねーだろ?”
“いいのか?…本当に、いいのかよ?”
その瞬間、イエノは力強く顔を上げた。
「いいわけあるか!俺だけで、俺だけの力で切り抜けてみせる!」
彼の咆哮は空間を震わせた。




