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「ふぁ〜...めちゃ寝みぃ...」
いつも通り時計を見ると、朝7時...今日も悪役としての役割を全うしなければならない。
いつも俺たち悪役が居るからこそ、正義の味方が輝いて、物語を見ている人達に希望を与えるのではないかと思う。
たまに、俺たち悪役が好きだという物好きも居るが...ソイツらの主張は、美形すぎて崇めるしかないだとか、よく分からないことを言っている。
確かに、俺も主人公よりかはイケメンだとか思わない訳では無いが、主人公が世界一のイケメンで誰が感情移入するのだろうか。
俺だって、そんな主人公には感情移入なんてこれっぽっちも出来ないと思う。
「まぁ良いか、歯磨こ...今日9時には確か、まだ弱い主人公を虐めなきゃならんのだよなぁ...はぁ、キッツいなぁ」
今の俺の仕事は、小説の悪役キャラだ。
確かこれから、主人公が俺に虐められたことを思い出しながら、奮闘していって滅茶苦茶に強くなる系のWeb小説だった気がする。
そうなると、主人公の人も大変だなぁとしみじみ思うのだが、結構主人公側の人たちの人柄も、俺たち悪役側の人柄も良い奴が多いなと思ったりする。
俺も、虐めなきゃいけない時は気を張ってするが、悪役にも心がある。
勿論、痛くないように最低限の痛みで済むようにと、気を配ってやってはいるが、俺の気持ちはストーリー上の行動と合致しない時もあるので、その時は死にそうになった。
俺たちを動かすのは、作者のストーリーだから、俺らはたまに、自分でもびっくりするような行動を取っていることがある。
この前なんて、改心した悪役が主人公の命の危機を守るために、その時の敵と相打ちにならされた事だってあったことがある。
本当にあの時は、びっくりしたからな!
作者に不満を持っても致し方がないので、愚痴をこぼすのはひとまずやめて置いた。
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9時になり、ストーリーを進めたらしいので、俺らもそれに沿って動かなければならない。
勿論、監督っぽいものはちゃんと居るし、主人公とのほのぼのした会話を今しているところだ。
「なぁ、主人公ってさ何か大変なことって、やっぱりあんの?」
やっぱり、俺らは主人公になることはあまりない。
たまーに、悪い方が主人公の物語があるが、だいたいそれぐらいしか主人公になる理由というものがない。
だから、正義の味方の苦悩って気になるんだよなぁ、俺たちそんな立場にならねぇから。
そんなことを考えていると、少し唸っていた主人公...もとい、ウルがこっちを見て教えてくれた。
「うーん、そうだなぁ...何故か女の子が集まってくるし、ストーリーに沿って行くから、この物語みたいに悪役に虐められるということもあるから...あはは」
逆に悪役って、何がしんどいの?とウルに聞かれたので、答えた。
「あ〜...まぁ、あんま人のこと言えねぇけどさ、悪役も虐める時とか、主人公を貶める時とか、心痛めてんだよなぁ...」
本当に、これは心にくるのだ。
「やっぱりそうなんだね、この前の物語で主人公やった時に、シルヴァさんっていう悪役の人に演技し終わってから、すぐさま謝られたからね...」
シルヴァ...あー、あのよく悪役のエルフに選ばれている、あいつの事か。
あいつも確かに美形だ、綺麗な白髪だし、目はエメラルド色をしていて、顔は整形でもしてんのか!って言いたくなるほど、整っている。
急に、ウルが顔を上げて時計を見たあと、こっちを見て言った。
「あ、もうすぐ始まるからじゃあ、またシナリオで...あ、少しぐらいは強くやってくれても良いよ?最近、虐められることに快感を覚えてきたんだ!」
「は?え?...ま、まぁ、じゃあ後で...」
は?快感...??
快感!?
やられ過ぎると、そうなってしまうのか...?
少し不安を抱えたまま、俺は職場に行った。
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