『ブラッシュアップ考』より『おどろきモモの木(イメージ試作 エピソード香実)』
香実ちゃん──橘香実ちゃんが美咲と仲良しなのは、ちょっとした奇跡だとボクは思う。
「おらぁ! イクラぁぁ!」
ボクが美咲と歩いていると大きな声がして、後ろからドンとぶつかるように美咲に抱きついたのが香実ちゃんだ。
美咲と歩く時は保護者を自認するボクとしては周囲に気を配っているハズなのに、いつも、気がつくと香実ちゃんに抱きしめられている。
香実ちゃんは、けっして気配やオーラが薄いコではない。
どちらかと言えば目立つ。
いつでもクラスの中心になるような女のコだ。
話す相手、遊ぶ相手には不自由はしていないハズなんだけど、何かと美咲が気になるようで構ってくれる。
美咲も美咲で、ビクッ!と身をすくめたりはするけれど、まんざらでもないようにすぐにキャッキャッとじゃれ合う。
「あれ? 香実ちゃん、部活は?」とボクが訊くと、「ん? 女のコの日やから休んだ」とフツーに答えて、「アッシャん、ヤラシ~」とからかってくる。
美咲まで「ヤラシ~」と香実ちゃん側についてクスクスからかう。
ボクの学校の2年生は、美咲以外のほとんどがボクを『アッシャん』と呼ぶ。
で、香実ちゃんは「でも、アッシャん」と今まで何度も繰り返してきたツッコミを入れてくる。
「『香実ちゃん』って、アッシャんチャラ男みたいやなぁ」
ボクも今までと同じく「あ、ゴメン。 やっぱりイヤかな?」と訊くけど、香実ちゃんは「別にイヤじゃないけどぉ」と照れたように目線を前にそらす。
だいたい、ボクはボクの学校のみんなを名字で呼ぶ。
女子も男子も。
ただ、女子の中で美咲と仲の良い、美咲寄りの友だちと感じている女のコは、下の名前で呼ぶ癖があった。
もしかしたら、美咲に対する妹的な認識が関係してるのかも知れない。
世の中の、妹のいる男子が、みんな妹の友だちに対してそうなのかは知らないけど。
香実ちゃんは香実ちゃんで、まるで確認するみたいによくツッコんでくるけど、イヤな様子には見えない。
なんとなく、照れてるようにも嬉しそうにも見える。
香実ちゃんも独りっ子だそうだ。
世の中の独りっ子の女のコには、そんな設定への何か憧れみたいなものがあるのかも知れないなぁ、と思ったことがある。




