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『ブラッシュアップ考』より『おどろきモモの木』

 5歳児というのは、イタズラっ子になりやすいらしい。



 本人に自覚はないが、「どこまですれば親が怒るか」とか、叱られ許される過程で「自分が親に愛されている」という実感とか、無意識に確かめているそうだ。

 昔、子育ての専門家とかいうおばさんがテレビで言っていた。

 ボクは、毎朝、桃ノ木美咲を家まで迎えに行くたびに、その話を思い出す。


 桃ノ木美咲。

 中学2年生。

 たぶん、精神年齢は5歳児。

 物心がついた頃には傍に居たボクの幼馴染おさななじみ。

 家まで迎えに行くと言っても、ボク、とどろき功太の家のすぐ隣なんだけど。


「美咲ぃぃ! 早くしなさぁい!

 功太クンが待ってるでしょォっ!」


 美咲のお母さんが2度目に玄関を開けて2度目の「功太クン、いつもごめんね」と申し訳なさそうな顔で言ってくれて、引っ込んですぐに美咲を大きな声で叱る声が聞こえた。

 家の中からは美咲の「まだ食べてるのォ!」という大声が聞こえて、聞き取りにくいけど美咲と美咲のお母さんが喧嘩するみたいに言い合う声が続く。

 たぶん、その言い合いの中で美咲が「功太は待ってくれるから、いいのっ!!」と言ってるらしいのは聞き取れた。

 いや、良くはないんだ、桃ノ木美咲。

 もう仕方ないと諦めているだけで。


 幼稚園の年少組からもう9年間、桃ノ木家とボクのモーニングルーティーン。


 ボクは「そろそろかな?」とスマホで読んでいたマンガを切り上げてポケットにしまうと、ドアが開いて美咲が出てくる。

「功太ァ、おはよー」と上機嫌。

 色白で肩ぐらいまでの黒髪。

 黙っていれば聡明に見える賢そうな顔立ちは、キラキラと笑っている。

 実際、精神年齢が5歳児なだけで学業は常に学年1位。

 将来はエリート公務員とか政治家とか会社社長とか、何かフツーじゃない人生を進むだろうと、周りの誰もが思っている。


 ボクがなんとなく「今日、音楽の授業やなかったっけ?」と思って「笛は?」と言うと、美咲はスハァ!と音が聞こえそうなぐらい大きく息を吸って「忘れてた!」とボクにカバンを預けて家の中に戻った。

 見せつけるように笛をフルフル振りながら出てくると、嬉しそうに「功太はエラいねぇ」とニヤニヤしてカバンを受け取る。


 ボクの人生は生まれてからまだ14年。

 その中での9年間は長い。

 美咲のことは、だいたい予想がつく。

 美咲のことだけは。


 ボクは美咲がカバンの中にアルト笛をしまうのを見届けて、ボクは「ん」とだけ言って美咲を促し、ボクらは学校へと歩き出す。


 美咲は「功太は美咲のことが何でもわかるねぇ」と笑いながら、昨日視たテレビの話をしてくる。

 ボクは「うんうん」「そーやなぁ」と適当に相づちを打ちながら時々、美咲の方を見てちゃんと目を合わせる。


 これが、桃ノ木美咲との時間の過ごし方。


 学校設立以来の天才と言われる女のコは、実は異常に臆病で、いつもこんなふうに相手の愛情を確認しないと、安心することができないのだ。

 だから、会うたびに何かワガママを通す。

 何か小さな失敗ポカをする。

 それを受けとめてもらえて、やっと無邪気に笑えるようになるのだ。

 そのための毎朝の儀式。

 そのためのルーティーン。

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