『新時代記』より『瀬名あかり “ルビー”(火操)』
もしかしたら。
アタシがこの“力”に目覚めたのは、アタシの家が貧しかったからかも知れない。
お菓子もオモチャも、ほとんど買ってもらえなかった。
遊ぶもの、身につけるもので、可愛らしいものや綺麗なものなんてなかったと思う。
何時からか覚えていない。
小学生の頃には、アタシは炎を持ち歩くことができた。
炎を持ち歩く。
アタシは花びらをむしるみたいに、燃える炎の一部を摘まんで、ちぎることができた。
ちぎられた炎は、勝手に綺麗な球状になった。
それは、手に持っても熱さは無く、そのままポケットに入れても、スカートに燃え移ることもなかった。
その小さな炎の珠は、炎の色そのままに、鮮やかで明るく美しかった。
アタシの綺麗なオモチャ。
何も買い与えてもらえないアタシだけの、小さくて他の誰も持っていない綺麗な秘密。
アタシの“力”は、みんなに内緒にしていたけれど、アタシは炎の珠をいつも身につけていた。
アタシの唯一の美しいアイテムは、それをポケットに隠し持つだけで、誇らしい気持ちをアタシにくれた。
アタシにとっては、お守りみたいなものだった。
だから、それを奪われたアタシが、子供には不似合いな“殺意”という感情を持ったとしても、責めないでほしい。
アタシにとっては、炎の珠は、ただ1つの救いだったのだから。
小学4年生。
みんなが「仲間」や「友情」や「親友」という言葉を、流行りのように使いたがり始める頃。
そして、自分たちの絆を確認するための作業のように、嬉々として迷いなく、誰かを疎外したり影で中傷したりし始める頃。
月島ゆらちゃんは、明るくて、いつもグループの中心にいるようなコだった。
アタシにも楽しく話しかけてくれてたけど、心のどこかで怖れていた。
アタシたちのグループから、誰かが急にイジメの対象になることがあって、その誰かは、いつも、ゆらちゃんの機嫌次第だった。
そのゆらちゃんに、アタシの秘密の宝石は見つかってしまった。
ゆらちゃんは無邪気に「ちょうだい」と言った。
それだけ。
何か、脅されたり、激しく言われたわけじゃない。
ただ、アタシは「ダメ」と言えなかった。
泣きそうな気持ちなのに、断れなかったのだ。
帰り道、アタシはワザとゆらちゃんと距離を空けて歩いた。
そして、交通量の多い交差点の信号待ちで、ゆらちゃんのポケットの珠を、炎に戻した。
腰の辺りに急な熱を感じて、ゆらちゃんは驚いてふらふらと道路に出た。
そこに走ってきたのがダンプカーだったのも、アタシがタイミングを計ったからだ。
だから、こんな時代になった今も、アタシはアタシの“力”のことを、誰にも話せないでいる。




