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帰命スル影 Ⅴ

 自分が、ロンフォールへ同情を抱くほど、密な関係があったわけではない。


 幼少期であっても、叔父がいて、仕事中に死んでしまったのだ、と残念そうな顔をした父から聞いていただけだ。記憶には面影すらない。


 __それだけは、幸いだったな。


 微塵も、彼に対して身内という感覚がなかったのは幸運だった。


 全力で拒絶できた。


 __苦しいな……。


 いよいよ、喘鳴と言えるような呼吸になってきた。


 歪む周囲。天地の感覚がなくなるように、目まぐるしく景色が移り変わる。頭上から降り注ぐように様々な色が流れたかと思えば、左右、前後と変わっていく。


 __墜ちた……。


 それだけは、分かった。


 ただでさえ満身創痍な身体で、瘴気に侵されながら歩むに難儀しているというのに、視界の変化が追い打ちをかけるように平衡感覚を狂わせ、数歩ごと転びそうになる。


 くそ、と内心悪態をつくリュディガー。


 アンブラがいれば、どういった状況なのか教えてくれただろう。道だって__。


 __アンブラ……?


 何だ。それは。


 黒い狐の姿が浮かぶ__否、狐とはなんだ。


 唐突に、じりり、と走った違和感にそちらを見れば、足の傷からの痛みだとわかった。


「まずい……」


 にじみ始めた思考。ぼやける思考。それを認識して、リュディガーは頭を振った。


 __限界だ。


「だが、戻る……」


 出口を強く想像する。それを感じられる方が出口__そう根拠のない確信を懐きながら重い体を引きずって、歩き始めた。


 __出る……。外は……こっち。


 そう、外はどうなっている。


 時間の差異があるようだが、溢れ出ている瘴気は収まっただろうか。


 __鏡の処置も終わったのか。


 確認をしないと。


 __彼女は、やれただろうか。


 託したものを使いこなせただろうか。


 __全てが終わったら、諸々を伝えなければ……。


 彼女には知る権利がある。知りたいとも思っているだろう。


 自分には疑問に答える義務がある。応じねばならない。


 __それに、謝罪と感謝も。


 相対し、面と向かって、自らの口でそれらができることを勝手に褒美にして、今の今までやってきたと言ってもいい。


 __崇高な理念を掲げ、大義名分もあたえられて動いているが、畢竟、龍騎士だってただのヒトだ。


 龍帝の意思の体現者、人々の規範たれ、と常々言われ、そう認識されているが、そんなものだと少なくともリュディガーは思っている。


 __まぁ……彼女が耳を傾けてくれるかは別問題だが……。寧ろ、詰られるかもしれんな。


 だが、詰られても構わない。


 もう一度、ちゃんとあちらで無事にいる姿を見ておきたい。


 間諜という任務に身をおいて、『氷の騎士』という御大層な異名を負い、彼女のことを遠ざけていたから。


 __遠ざけて、謀って……。


 と、そこで思考を断ち切らせたのは、身体が重いから。


 足は何かがまとわりついているのでは、と思えるほど重いし、まっすぐ歩いていられないし、一歩一歩進む度、吐き気や頭痛もするようになってきた。


 ぎちぎち、と体中が痛む。


 もはや、どこが痛むとも判別できないほど。


 __あぁ、こんな時、龍がいればな……。


 あれは魔穴で最適な道を見つけ、駆け抜ける。


 道を見失うことなどない。


 __翼があれば……。


 内心で呟いた言葉に、ふと疑問が湧いた。


 __翼とは、なんだ……。


 確かそれは、とても大きい、頼りがいがあるものだった__はず。


 周囲を取り巻く瘴気の渦。


 目の前でそれが盛り上がった。


 それは明らかに変化で、朦朧と仕掛けていたものの、はた、と我に返る。


 盛り上がった黒い影は、人の大きさほどになる。輪郭はぼやけているものの、四肢五体があるのは伺い知れる。


 ぽつぽつ、とそれらは増えていく様に、舌打ちをした。


 __こういうとき、翼があれば楽なんだ。


 それがあったら__どうなる。


 __どう……とは?


 楽に__。


 輪郭がぼやけた黒い影。それらが佇む合間。いくらか離れたところに白い何かが見えた__気がした。


 その存在を認識したものの、すぐに視界のすべてが黒に塗りつぶされる。同時に何かを考えるのを放棄してしまった。


 __あぁ……楽、に……。


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