6話「ラウンド1」
「辺りはどうだ?」
「変わら、ない。魔物の、気配を、感じ、ない」
鳥のさえずりが聞こえ、木漏れ日が入り込む綺麗な森の中、連夜はラーサの道案内を頼りに歩いている。
抱きかかえられ、何も出来ないラーサは代わりに、辺りの索敵を行い近くに魔物がいないかを見張っている。
バックを背負い、ラーサを抱きかかえている状態な上、木の根などで少し不安定な足場が合わさり何度もバランスを崩しそうになる。
とはいえ、前の世界では父などに体を鍛えていたためか、肉体は変わってもバランス感覚は変わっておらず、転ぶことはなかった。ただ、もしこんな状態で転んだら、上手く受け身を取れず、彼女と一緒に地べたを転がり怪我をさせてしまうだろう。
「そういえば、魔法ってどんなのがあるんだ?」
一応、連夜はここに入る前に、どんな魔物がいるかを聞いてはいた。
しかし、今の所、魔物の姿も、地球とは全く異なる見た目をした植物や食べ物も見当たらない。少し変わってる所と言えば、生えている木々の幹が黄緑色であることぐらいだろう。
体で感じるのは森ならではの新鮮な空気や涼しい風で当たり障りもない。それに混ざってラーサから体の感触と匂いを感じるが、半日以上は密着していたため、感覚がマヒしてきたのか、最初と比べると気にならなくなってきた。
そんな代わり映えすることもない景色の中、連夜は少し緊張感を無くし、退屈しのぎでそんな質問を投げかけた。
今まで魔法というモノがない世界の連夜にとって、それは退屈しのぎや世界観を知るには丁度良かった。
「色々、ある。基本は、火、水、風、土、雷、光、影、無の、属性、魔法が、ある」
「えーと、無属性以外は何となくわかるが、無って何できるんだ?」
「基本的に、身体強化が、メイン、正直、他は、やろうと、思えば、他の、属性で、代用が、出来る」
「ふーん……それで何が得意なんだ?」
8種類ある属性、連夜が昨日今日で見た魔法は自身を召喚した時、お墓作る時、体を綺麗にする時の三つだけ、他にも使えるものがあるのなら見てみたいと、興味本位でそう思ってしまった。
「得意なのは、風と、光。他の、全属性も、一応、扱える」
「ふーん、風と光なのか、昨日の見て、土辺りも得意かと」
「あれは、穴を、作る、だけ、苦手でも、出来る」
ラーサは自分の実力は程度の実力しかない。そう思われていたのが不愉快だったのか、少し不貞腐れたような声がする。
とはいえ、連夜は今まで魔法を当然ながら知らずに生きてきた。そのため、魔法でどこまでできるかを全く知らない。
どんな天才でも数メートルの穴しか掘れないかもしれないし、誰でも国1つ程の大穴を作れるかもしれない。
後者の場合、連夜自身が生きて行けるか不安になるため、出来ればそうあって欲しくはない。連夜は可能な限り前者であることを心の中で強く祈った。
「ちなみに、昨日、使ったの、だと、服を、綺麗に、したのは、光属性」
「あーあれ、光なのか、それじゃあ、俺を召喚したのは?」
その言葉を言った瞬間、ラーサは少し難しそうな顔をしながら、言葉を詰まらせた。それはまるで説明しづらいといったように。
「あれは、魔法じゃ、ない。あれは、魔術」
「……ん?それって違うのか?」
「凄く、違う。魔法は、道具が、いらない。魔術は、道具が、必要」
「それだけ聞くと魔術を使う意味なさそうだけど……。そういう訳じゃなさそうだな」
その言葉にコクリと頷き、言葉を続ける。
「魔術は、時間も、かかるし、それしか、出来ない。でも、その分、強力。失敗したら、大変、だけど」
「大変って、今みたいにか?」
「うん」
連夜は鎖をチラリと見るため視線を下ろして。ただ残念な事に、今視線を下ろして見えるのは密着した彼女の綺麗なうなじと赤いワンピースだけであった。
「だから、基本的に、魔術を、使う、人は、いない。使うと、しても、生贄、とかの、道具は、予測より、多く、準備、する」
「でも、足りなくてこうなったと」
「そういうこと……もしかしたら、命が、なかった、可能性も、あったし、この、程度で、済んで、良かった」
年頃の男女二人が抱き合って離れられない状況をこの程度で済ませて良いのだろうか。
そう判断に悩む連夜ではあったが、確かに命などを犠牲にした可能性も考えると、確かにこれだけで済んだと思って良いのだろう。
少々、本当に良かったのか判断できず悩みながら、連夜は着々と森の外へと歩いて行く。
「レン、待って」
「ん?……了解」
歩き始めて一時間は経っただろうか、それでも森を抜けることは叶わない中、突然ラーサは強い口調で連夜に声を掛ける。
それは明らかに辺りに何かが起こった証拠であり、それを察した彼は周囲に気を配る。
すると、森の奥から不自然に木々が擦れる音が近づいてくる。それは一つではなく、明らかにそれ以上の音が二人を囲むように聞こえる。
「魔物か」
「多分、さっき、話した、奴の、どれか」
「猿とか熊とかだよな……数的に猿のイメージなんだが……」
互いに話しながらも警戒の手を緩めずにいると、二つの緑色の物体が甲高い声を上げながら、連夜の前後を挟むように飛びかかる。
普通、人間の頭の後ろには目はない。そのため、どうしても後ろからの攻撃には反応が遅れてしまう。まして、前後から攻撃が来れば、上手く対処するのも難しいだろう。
「『裂いて』」
しかし、今の連夜には自身に抱き着き、反対側を向いているラーサがいた。
彼の背中という死角を補う体制でいるラーサは、連夜の後ろから飛びかかってくる魔物に対応するため、手を対象に向け言葉を紡ぐ。その瞬間、魔法が発動し、見えない刃が相手の体を真っ二つにしようとする。
――のだが、
「よっと!」
「……!?」
魔法を放つ瞬間、ラーサの体が横に大きく飛んだ。そのせいで少し狙いがズレてしまい相手の片腕と片足を切断することしかできなかった。
体が勝手に動いた理由は単純だった。ラーサの足の代わりである連夜が、前から来た魔物の攻撃を横に飛んで避けたためである。
「こいつが魔物か……さっき言ってた猿みてぇだな」
連夜が躱し、ラーサが腕を切断した魔物の姿を見ると、そこには二匹の猿の様な小柄な獣がいた。
顔つきは異常な程鋭く、枝の様に細長い手足、枝を上手く掴むために発達したような鋭く長い三本の爪、リスの様な太い尻尾。それは連夜が知る様な猿とは少し違った。
「ねぇ、勝手に、動か、ないで、狙いが、ズレる」
「無茶言うな。俺は殴る蹴るの暴行しかできねぇんだよ。動かなきゃなんもできねぇよ」
ラーサは自分の魔法が外れた所為か、少し不満げな様子で連夜に注文をする。それは魔法の使い方などを知らず、自分の体でしか戦えない彼にとっては無茶な注文だった。
とは言え、お互い密着したままでの戦闘は普通に考えて、無茶があるのは分かりきっていた。そのため、今できるのは互いが互いに合わせて行動する必要があることも理解していた。
「……確かに、なら、少し、だけなら、動いて、良い。それに、合わせる」
「へいへい、あんがとよ」
そうこう話している内に、無傷の一匹が両手を頭の上にあげ、甲高い声を上げながら威嚇をし始める。一本ずつ手足が斬られた魔物の方は、痛みか怪我のためかこちらに向かう気配を見せない。
一二秒ほどだろうか、それの甲高い声が鳴き止むと、大地を蹴り上げ一直線に連夜へと飛びかかる。それよりワンテンポ遅れて、今度は三匹の猿の魔物が二人を囲むように森の草木から飛び出してきた。
しかし、そんな状況になっても、連夜は目の前の魔物にだけ意識を向ける。
「っつあ!?」
連夜はラーサの頭を守るように抱きかかえ、魔物の鳴き声と共に振り下ろされた鍵爪を連夜は体を捻る最小限の動きだけ躱す。そして、大ぶりの攻撃で大きく隙を見せた魔物の顔面に目掛けて、声を上げながら力を込めた拳で殴りつける。
殴られた魔物は硬い物が砕ける音と共に、今まで聞いたことがない短く低い声を上げ、ゴム毬のように遠くに弾み30メートル程飛んでいく。
「『裂いて』」
連夜が魔物を殴り飛ばしたと同時だろうか、ラーサは先ほどと同じ言葉を紡ぎながら、彼の首に回していた腕を払うように動かす。すると、見えない刃が二人を囲む三匹の魔物の首を切り裂いた。
それにより、鳴き声を一切上げることなく首からは、慣れたくもない鉄臭いを纏った赤黒い液体が辺りに飛び散る。その光景はあまり気分が良くない光景ではあった。
とはいえ、連夜は父から教えられたサバイバル術で、簡単な獣なら捕まえ捌けるようになっているし、加えて、最初に見た死体の山と比べれば、今の状況はマシと言えばマシだろう。
「はい、終わり」
そう、ラーサが呟いた時には、一つずつ手足が斬られた魔物と顔面が凹んだ魔物、首を刎ねられた三匹の魔物が転がっていた。
「はは、すげぇなこれ……」
連夜は引きつった顔でそう言った。
殴った本人も流石に鍛えていたとはいえ、子供程の大きさの獣を30メートル近くも殴り飛ばせるとは思っていなかった。そんな光景を見ながら、自分の拳を見つめていた。
「レン、急いで、ここ、離れる」
思った以上にあっけなく終わった初戦闘からすぐ、ラーサが焦る様な声音で逃げるように言う。
始めは、連夜はラーサが焦る理由が思いつかなかった。しかし、しばらくすると森の奥から大きな足音を立て、急速に近づいてくる。そこで連夜はラーサが言っていたことを思い出し、すぐさまその場を離れようとする。
だが、その時には遅かった。
それは草木をなぎ倒しながら、連夜たちに向かいブレーキが壊れた車の様に一直線に突っ込んでくる。体長は三メートルほどだろうか、そんな巨体が突撃する様はまるで大砲のようだった。
「くっそが!」
それを真正面から喰らえば、二人とも簡単に死ぬだろう。連夜は生存本能による反射でギリギリ横に飛び、それを躱した。
「Gurururu……」
躱されたソレはその勢いのまま、大木に突っ込みへし折る。その衝撃で体を停止させ、両足で立ち上がる。その見た目は連夜が知っている中の知識で例えるなら、深緑色の熊と言って良いだろう。
そんな魔物が低い唸り声をあげながら、体の向きを変えて三メートルほどの高さがある体で二人を見下ろした。
ヒロインの立ち絵近々描きたい人生だった
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