3話「ようやく自己紹介」
しばらくすると彼女は落ち着きを取り戻したのか、少しずつ泣く声や涙の粒が小さくなっていく。ただ、それでも彼女は彼の身体に腕をガッチリと固定したままであった。
その様子を見て、彼は彼女の頭を撫で続けた。
「とりあえず、簡単に言えば復讐したいから、お前は俺を召喚したってことで良いのか?」
彼女が静かになって、腕に込められた力が弱まってきたところで、彼はとりあえず、聞けた内容を大雑把にまとめて伝えた。
それを聞くと少女はコクリと頷いた。
「そう、私は、許さない。奴らを、殺すには、多分、私だけじゃ、無理。だから、強い人、召喚、した」
「まあ、相手の実力がわからないなら、人集めしてから殴り込み。当然っちゃ当然だが、それだったら、わざわざ召喚……って言うと、本当に自分が異世界に来たって信じるみたいだから嫌だが、そんな方法取る必要ないだろ。普通にここを出て、誰か強い人に頼めばいい。何でわざわざ、召喚って方法を取った」
「前に、お父さんが、言った。どこかの、王様が、異世界から、人を、召喚、したって。理由は、知らない、けど、異世界の、人は、他の、人より、強いって、聞いた」
「なるほどな……てか、王様が人を召喚って、ホントやろう系の小説みてぇな設定だな」
「やろう系……?」
「あー……そういう小説サイトがあるんだよ。まあ、それは置いといて、あ、そろそろ起き上がって良いか?流石に石の上に寝続けるのはつれぇ」
「あ、うん、良いよ」
彼女の了承を得て、腹筋に力を籠め、彼に抱き着いたままの彼女と一緒に起き上がり硬い石の上に胡坐をかく姿勢になる。
無論、起き上がっても彼女とは離れられないため、仕方なく彼は自身の足の上に座らせた。それにより、全身に感じていた柔らかく温かな感触が、足の一点に集中する。
それはそれとして、今の二人の状態はカップルのようであるが、さっきまで抱き合った状態で地べたに横になっていたため、もし他者が見ていても、あまり印象の変化はないだろう。
ちなみにお互い真正面から向き合って話すのは、彼自身が抵抗を覚えたため、互いに自身の顎を相手の肩に乗せながら話している。
「つぅか、これは一体なんだんだ?何故、俺とお前は離れられないだ?」
「うーん……わからない。召喚の、代償?」
彼女は軽く唸り、悩む様な表情を見せ、可能性として考えられることを一つ口にする。
「代償だったら、さっき言ってた王様たち大変だろうな」
もし、これが異世界召喚の代償なら、今頃その人たちを召喚した人たちは大変な事になっているだろう。もし、術者が1人で召喚者が複数なら、なおさら目も当てられない。
「確かに、でも、そんな、話は、聞いて、ない。なら、失敗?私が?」
彼女がもう一つの可能性を口にしたとき、明らかに信じられないと言った様子で目を丸くしていた。
「えれぇ自分に自信持ってるな……」
「お母さんが、言ってた。私は、天才って、凄いって」
「それ明らかに親馬鹿とかの部類だろ……。てか、天才も失敗ぐらいするし。まあ、今回のは致命的な失敗だが」
「天才も、失敗、するの?でも、確かに、このままは、不味い。奴らを、殺すのに、支障が、出る」
「この状態で気にするのはそこなのか……」
互いに呼吸をするだけでも、息が耳や肌を撫で、体を動かさずとも相手の体を全身で感じてしまう状態。しかも、お互いは離れられないため、もし彼が彼女を襲うとなると、彼女には逃れる術はない。
百歩譲って初対面の彼を信用しているとしても、この状態では普通すら生活満足に送れないだろう。
にも関わらず、彼女が真っ先に気にしたのは復讐が成功するか否か。そんな彼女に言動に彼は思わずため息を吐いた。
「そういえば、その奴らっての誰だかわかってるのか?」
彼の問いに彼女は首を横に振る。
「わからない。そもそも、相手が、複数、なのかも、わからない」
「情報全くなしって事か……めんどくせぇ」
「だから、始めは、奴らの、情報と、この状態を、どうにか、する、方法を、探す」
一呼吸置いて、彼女は説いた。
「だから、手伝って、ください。私の、復讐を」
もし、ここで断られれば、自分の目的を遂げることができなくなる。そう思っているためだろうか、彼女は震えた声で懇願する。
不安そうにする彼女を見ると、彼は一度ため息を吐き、その懇願に答える。
「わかったよ。協力するよ。お前に」
彼はあっさりと承諾した。
それはまるで何も考えていないかのように。
「ホント……ぃ!?」
「いってぇ……てめぇ急に離れようとするな……」
そうあっさりと言われるとは思っていなかった彼女は驚き、思わず体を離し相手の目を見ようとする。無論、お互いは離れられないため、途中で首を引っ張られるような痛みが走る。
「ご、ごめん。ねえ、ホント?」
そして、離れられる限界の距離、互いの鼻先がくっつく距離で彼女は彼の目を見て、先ほどの言葉聞き間違いではないか確認をする。
「ああ、ホントだ。お前のそれ手伝ってやるよ」
それは100%の善意という訳ではない。むしろ、単純に自分より強い奴に戦える可能性があるため、彼女に手伝うという理由の方が大きい。正直、彼自身ここが本当に異世界なのかわからない。デスゲームみたいな金持ちの道楽に付き合わされている可能性だってなくはない。
それでも、殺人鬼、もしくは殺し屋の様な存在と戦える可能性がある。それは地震が起きる前までは不可能であると思っていたことだった。
それに。
――目の前で本気で泣いていた女の子からのお願いだ。簡単に断ることは出来ない。
「ありがとう」
そんな善意とは程遠い目的を知らない彼女は満面の笑みを浮かべながら、彼に最大限の感謝の言葉を述べた。
「……!?」
「……?どうした?」
「……いや、なんでもねぇ」
その顔はあまりにも綺麗で、一瞬彼は彼女に見惚れてしまった。
「さて、そうなれば、さっさと行動するか」
「うん。でも、待って」
思い立ったら吉日。そんな精神で早速行動を開始しようとした矢先、彼女は待ったの声を掛ける。
まだ何かあるのかと彼は思い彼女が何かを言うのを待つ。
「まだ、あなたの、名前を、聞いて、ない」
「あー……」
初対面が顔のドアップからのキス、周囲は死体が転がっている情報過多な状態であったため、お互い名前を知らないことを忘れていた。
「私は、ラーサ」
「俺は露峰連夜。連夜で良い」
「わかった。よろしく、レン」
「おめぇ……速攻で略しやがったな……」
彼の言葉を無視して、彼女はいきなり距離を詰めるようにあだ名を付ける。そのことに少し呆れたように言葉を吐いた。
「こんな、状態。互いに、仲良く、しないと、大変」
「理屈はわかるんだがな……まあ、良いか。よろしく、ラーサ」
正直ピッタリ刺さるタイトルが思いつかなくてアレ
感想待ってます。
後性癖に刺さって歪んでくれるとありがたい