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2話「覚めると視界の8割は美少女」

「ん……」


 気が付いた時、真っ先に感じたのは圧縮されたような鉄臭さだった。初めは自分の血の臭いかと思いはしたが、ある筈の痛みがないことに気が付く。痛みを感じ代程の大怪我をしている可能性も考えられたが、それは何か違うように感じられた。

 

 鼻を塞ぎたくなるほどの嫌な臭いを感じながら、目を開けると目の前には少女がいた。


 雪の様に白く透明な肌、ガラスの様に透き通った赤い瞳、一本一本が銀の様に綺麗な長い髪、老若男女問わず、誰しもが見惚れてしまう程の美少女が彼の目の前にいた。

 ただ、目の前と言っても、少し近いというレベルではない。

 目と鼻の先。お互いの鼻先が触れているぐらいの距離で、視界の8割以上が彼女の顔であった。


「っおう!?」

「きゃ……!」


 突然目の前に現れた少女の顔に驚くと、思わず彼は後ろへ倒れ込む。すると、何故か首が引っ張られる感触と共に、少女までも彼に引っ張られるように付いてきては一緒に倒れ込む。

 

――血の味がした。


 唇に感じる瑞々しく柔らかな感触。

 

 目の前の少女の瞳には彼の顔がクッキリと移るほど近い。

 

 彼の体に全てを預けるように密着させる彼女の温かい体は柔らかく、それでいて押し返そうとする弾力も感じる。

 しばし、時が止まったように、二人の体は硬直し動かなかった。


「……!?わ、わりぃ!?」


 少女よりも先に我に返った彼は、思わず彼女の肩を両手で掴む。あまりにも容易く折れてしまいそうな細い肩だったため、一瞬躊躇いはしたが彼は彼女を引き離した。

 

――だが。


「ぃたい……」


 離せたのはたった十数㎝程度で、始めに目にした時の様なお互いの鼻の先がくっついてしまう距離。それ以上離そうとすると、まるで鎖でも付いているのか、首に引っ張られる感覚を覚えてしまう。


 それは彼女も同様だろうか。それ以上離そうとすれば、彼女は少し苦しそうな声で痛みを訴える。

 

 原因が何なのかを確かめるため、連夜は視線を下へ動かすと、お互いの首に繋がる淡く光る鎖があった。


「おいてめぇ。これお前の仕業か」


 何回か彼女の苦しそうな声を無視しながら、彼は彼女を離そうとするが上手く行かない。その度に彼女の口から洩れる仄かに鉄の匂いが混じった甘い息が鼻をくすぐる。

 

 最終的には諦め、彼女の両肩を掴んでは出来る限りの距離まで離しては、真っ先に思った事を投げかける。


「多分、そう。私が、あなたを、召喚、したから」

「はぁ?召喚だ?てめぇ何言ってやが……!?」


 彼の上に被さり、肩を掴まれ押されられていた彼女は、声を発した際に出る息が唇に触れるような距離で、ファンタジーの様な言葉を少女は言った。

 

 無論、彼はそんな非現実的な事を信じる筈もない。それならまだ、誘拐され互いに首輪で繋がれたと言われた方が現実味あった。

 

 ふざけたことを言う彼女にキレ気味になりかけた所、あることに気が付いた。

 

 真正面の視界は彼女の顔で8割以上が埋め尽くされるが、そこから外れては視界の端、人が何人も床で倒れ伏している事に気が付く。


 いや、良く見ればそれは人だったモノだった。


 体や着ている服には赤い液体が付着している点も一つの判断材料だが、それ以上に少なくとも彼から見えるソレは全部頭がないように見えた。もしこれが本物の人間であるならば、明らかに生きている筈もなく、人形か何かだと思おうとしても、辺りに充満する鉄の臭いが転がるソレらが人間であると示していた。

 

 そんな異質な状態、彼は目を丸くし、明らかに先ほどよりも大きく動揺していた。


「おいおい……なんなんだよこれは」

「……皆、殺された」

「……はぁ?」

「皆、殺された。気づいたら、襲わて、お父さんが、守るって、私を寝かせて、起きたら、ここ。外出たら、皆、死んでた」


 震える声で少女は言った。見れば、その瞳には大粒の涙が溜まっている。


「私、そいつら、殺したい。だけど、一人じゃ、無理、だから、あなたを、呼んだ。異世界の、人、強い。だから、作った、魔法陣、皆の、体、使って。しんぞう、さわるの、きもち、わるい、こわ……かった、でも、それい……じょうに、ゆせない、ぜっ……た……い」


 彼女が話す程、瞳には涙が溜まっていき、最後の方は溢れた涙が彼の顔に落ちていき撫でていく。

独特な話し方の上、涙交じりの声は聞き取り辛い。もし、これ以上彼女の心を揺さぶれば、何を言っているかわからなくなるだろう。

 

 そんな事態は現状把握できていない彼にとっては避けたい所であった。


「はぁ……めんどくせぇ」

「……!?」


 気が付けば、彼は彼女を少し横にずらし、肩を押さえていた腕の片方を彼女の頭に回す。そして、ゆっくりと顎を肩に乗せ、頭を優しく撫で始めた。それは子供をあやす母親の様に優しく。


「――」


 それが原因か。彼女は彼の首に手を回し、声にならない声で泣きじゃくった。流れる涙が床や彼の服を濡らしても。


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