1話「呼ぶ者と呼ばれる者」
二桁はあるだろう死体が転がる地下室の中、高校二年生ぐらいの身長をした少女は一心不乱に地面に魔法陣を書いていていた。
小さな蝋燭の火の淡い光でも輝くような銀色の髪、柔らかく艶やかな白い肌。引き締まったお腹周りに反して程良く肉の付いた柔らかそうな胸や尻、そんな体に綺麗なワンピースを纏っている。
そんな彼女は普段であれば殆どの人が認めるほどの美少女だろう。
しかし、今の彼女の服や顔には血がベットリと付いており、死体が転がる部屋という異質な状態で作業をする光景。それは彼女の美しさも相まって、現状の不気味さを底上げしていた。
鉄臭い臭いが充満する部屋で彼女は嗚咽を吐き、今にも泣きそうな表情を浮かべている。それでも魔法陣を崩さないようにするため、悲しみを自身の胸の奥へと隠し、涙を流すのを我慢していた。
――許さない。
魔法陣を書きながら、彼女は透き通るような綺麗な声で、そんな言葉を口にした。
それは誰かを呪うように、何度も何度も。
やがて魔法陣が完成すると、少女は動かしていた手を止め、目を瞑っては祈るように呪文を唱える。すると、血で書いた真っ赤な魔法陣が光始める。
それは魔法陣の起動の合図だった。
光るそれを見ながら、彼女は再び一つの言葉を口にした。
――絶対殺す。
〇
取り壊しが確定しており、普通の人ならまず立ち寄ることはないだろう廃ビルの中。ボロボロで電気が通っていないため、中を明るくするのは窓から差し込む太陽の光のみなので少々薄暗い。
そんな場所で一人の少年は高校の制服に着いた砂埃を叩きながら、倒れ伏している不良グループを見下していた。
「ったく……あんだけ殺すとか言っておきながらコレとか……。拍子抜けしたぜ……俺は。これだったら、評価最低ランクのアニメの方がもっと楽しめたわ」
そう彼は溜息を吐きながら愚痴をこぼす。
少なく見積もっても20人程度はいるだろうか。殆どは自分と同じ高校生か、3~4歳以上、多くは髪を派手に染め、ピアスや指輪などの貴金属を身につけている不良だった。彼らの周囲には武器として扱っていただろうバットやナイフ、スタンガンなどが散乱していた。
「わ、悪かった……もうアンタには手を出さない」
「許して……許して……」
「金とか……全部渡しますんで……」
意識が残っていた者たちが涙や鼻水を垂らしながら彼に懇願する。その顔は酷く腫れており、彼に恐怖するように感じられる。
「っち……命乞いするんだったら、最初っから喧嘩吹っ掛けるじゃねぇよ。もういい、お前らさっさと帰れ」
舌打ちをしながら、しっしと手でゴミを払う素振りをする。その言葉を聞いた不良達は恐れるような声を上げ、気絶している仲間たちを抱え彼から逃げていく。
「はあ……多数で武器持ちだから、多少は楽しめると思たんだがな……。もうマジモンの殺し屋とかぐらいじゃないと楽しめないか?あーでも、今は銃とかだよな……流石にソレに勝てる気はしねぇな」
溜息を吐き、来るはずもない人種が来ることを望む様な台詞を真面目な顔で発した。
それほどまでに彼は自分の腕に自信を持っていた。それは自惚れやハッタリではなく、実際問題彼は強かった。それは不良程度なら、例え年上でも負けないぐらいに。
何故なら彼は幼い頃から父や祖父から、男は女を守るため強くあるべきだと教わり生きてきた。そのための暇があれば肉体や技術を鍛えてさせられた。
武術などの戦闘技術は当然だが、意味があるのかわからない滝行や、覚える意味があるのかわからないサバイバルなどもやらされた。
辛いこともあったが彼自身、成長を感じるのは嫌いではなかった。勝てない相手と戦う恐怖や痛みが好きだった。
「生まれてくる時代か、世界間違えたかもな……」
そう遠い目をしながら、誰もいなくなった廃ビルで一人佇んでいると。
突然地震が起きた。
「うぉ!?なんだ地震か!?」
過去の歴史に乗るほどとは言わないが、日本でも稀に見る大きな揺れだった。久しぶりの大きな揺れ、彼の心の中では子供の様に少しテンションが上がっており、緊張感がなかった。
ここは廃ビルって言うのにも関わらず。
大きな揺れが起きてから少し経つと、どこかで大きく重い物が砕ける音が彼の耳に聞こえた。
それを耳にした瞬間、彼は嫌な予感を覚えた。
「うっそだろ……くそが!」
彼は忘れていた。ここが古い廃ビルであることを。
地震で足元が不安定な中、急いでビルから抜け出そうとしたときには、もう遅かった。辺り一帯の壁にヒビが入り、そこを起点にビルが崩れていく。
例え、彼自身が身体を鍛えたからといえど、人間を超えられる筈もない。ビルの崩壊に巻き込まれれば命はないだろう。
「ああ、クソッたれが」
そんな言葉を最後に彼の短い人生が幕を閉じた。
積みゲーとか積み本、積んでる話とか色々あるけど……どれもじわじわ頑張って行きたいので応援お願いします。
後、他のもだけど、性癖全力全開でやっていく予定。