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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛を探す旅

作者: 和冷るり

あらすじにも書きましたが、微妙にGL、狂気的な表現、死ネタを含みます。地雷の方はブラウザ・バックしてください。

――――退屈な日々。変わらない景色。レコードを再生するように決まった日々が流れていく。別に特別を求めてるわけじゃない。変わらない、ということはいいことだ。特別良い日でもないけど、特別悪いことも起こらないという事なんだから。



  電車に揺られながら、ぼんやりと車窓の奥の空を見ていた。時々高速で電柱が遮っていく。闇が侵食し始めた空は下の方だけ赤い。きっと後30分もすれば完全に夜の世界。

 感傷に浸る私の意識を戻したのはメールの受信を告げるバイブレーションだった。

――赤いランプ

  ということは………


『お仕事お疲れ様!今日は私の方が早かったから、先に晩御飯作って待ってるよ^^

それで、お疲れのところ悪いんだけど、牛乳買ってきてほしくて…明日の分がなかったの。お願いしてもいい??』


  茜からだった。了解、と送り、顔をあげると丁度降りる駅だった。



******


私と茜は幼い頃からの付き合いだ。家族ぐるみの付き合いで仲がよく、互いの家を行ったり来たりしていた。もちろん、仲が良いというのは単純に過ごした時間に比例しているのかもしれない。でも、それだけじゃない。私と茜はどちらも養子だった。私は、子供が望めないから、という理由で施設から引き取られ、茜は両親の慈善活動の一環として引き取られた子供だった。結局、私が引き取られた3年後にお母さんは妹を産んだのだが…。もちろんお父さんとお母さんは私のことを愛してくれた。実の娘のように可愛がってくれた。それでも、心のどこかで引け目があった。


――妹は両親の血をひく子どもだけど、私はそうじゃない。


そう思うと、慣れ親しんだ家がまるで知らない場所のような気がして、苦痛だった。


「どうしたの?なにか学校で嫌なことでもあったの?」

心配そうに聞いてくるお母さんの顔が見たくなかった。

「本当に私を心配してくれてるの?私、お母さんの子どもじゃないのに?」

そんな言葉がいつものどの奥に引っかかっていた。

「大丈夫。今日茜の家に泊まってくるね」

決まってそう返す私を、お母さんは1度も引き止めたことがなかった。

私は1度も茜に言ったことはなかったけど、そういう風に茜の部屋に押しかけた時はいつも黙って抱きしめてくれた。

――――今思えば、茜も同じように苦しんでいたのかもしれない。私を抱きしめてくれた腕は、本当は私を縋っていたのかもしれない。


 奨学金を借りて大学を出た後、親元から離れ、内定が決まった職場の近くに引っ越した。茜は障害を持って生まれた20近く年下の弟たちの世話があるからと実家から職場へ通勤していた。いつでも遊びにきてほしくて、引越しの準備を手伝いに来てくれた茜にスペアキーを渡した。茜はとても喜んでいつでも来るからと、大事そうにキーケースにしまっていた。そんな茜を見て、茜も私と会うことを楽しみにしてくれているんだと嬉しく思った。

 茜はよく遊びにきた。週に1度は私の部屋に遊びにきて泊まっていった。




*****


「ただいま〜」

「お!丁度良いタイミングだったね!今ご飯が炊けたよ。おかえり」

「お腹空いたー。今日のご飯なに?あ、これ牛乳ね」

「小夜の好きな炊き込みご飯だよ〜!あ。牛乳ありがとね」

「えっ!やった!!すぐ着替えて来る!牛乳どいたましてー」

「おうおうー。ご飯は逃げないぞー。ゆっくり着替えてこーい」



茜と過ごす時間は楽しい。互いの性格をよく知っているし、似たような環境で一緒に育ってきたからか、嫌なこととかも同じで、喧嘩もない。正直、世界で一番大切な人だ。彼女がいるから、私は生きていると言っても過言じゃない。それくらい、茜の存在は私にとって大きかった。



「あかねー」

「んー?」

「茜ってさ、彼氏つくんないの?」

「えー?だってさ、小夜以上に大切に思える存在なんて、どう頑張っても無理だわー。正直もう諦めてる。そういう小夜はー?あんまり話聞かないけど?」

「んあー。私も同じだわー。茜以上に大切で愛してる存在なんていないもん」

「おっ!じゃあうちら、両思いか!!」

「そうだねぇ」


私が茜を思うように、茜も私を思ってくれる。渡した愛情と同じだけの愛情が返って来ることがとても心地よかった。


「茜が生きているから、私も生きる。だから、茜がこの世界を見限る時には、私も連れてってね」

「おう!一緒に世界を見捨ててやろうぜ!」

「あははっ」


彼女の愛情を疑うこともなく、彼女への愛を惜しむこともなかった。


「……ねぇ、私たちがお互いを望むのは、なんでなんだろう?お互いの間にあるのは、愛なのかな?それとも、依存なのかな?」

「どうだろうねぇ。……じゃあさ、小夜が考える愛ってなに?」

「……互いを必要とすること?」

「それじゃあ、片思いは愛じゃなくなるよ(笑)」

「あ、そっか」

「愛は必ずしも両方向とは限らないんだよ。それに愛って言っても、友愛、恋愛、親子愛…色々ある。でも、愛って『これ』っていう決まった形はないんだよ。目に見えるものでもないし。…大切なのはそれが愛なのかどうかじゃなくて、それを愛と呼びたいかどうか、なんじゃないかなーって、私は思うんだよねぇ」

「…じゃあ、私と茜の間にあるのが愛なら、それはどんな愛なの?友愛?家族愛?それとも恋愛?」

「えぇ〜。難しいことばっか聞かないでよー(笑)…きっと、どれにも当てはまらない愛、だよ!……さぁて、明日も仕事なんだし、もう寝よう!」

「うん…そうだね」

  

 ―――――きっと私は茜との関係に名前が欲しかったんだ。友達でも、家族でもない、特別な名前が…。依存でも執着でもなくて、誰からも咎められない、そんな赦免が…。そうすれば茜が離れてしまわないように、繋いでおけると思ったんだ。


 


「そんじゃ、お邪魔しましたー。また来るよー。」

「おー。いつでも大歓迎。じゃ、気をつけてね」

「うん、バイバーイ」

「バイバーイ」




****


いつもと変わらない日々。やたらとセミが鳴き、陽炎が立ち昇り、幻想を見せるかのように景色が揺らめいていた午後。一本の着信があった。茜のお母さんからだった。


「茜ママ。久しぶりー。どうしたの?」

横断歩道の前で立ち止まる。

「あのね、小夜ちゃん」

―車が猛スピードで目の前を横切る。

「茜が」

―――排気ガスとともに巻き上げられた生暖かい空気が肌を舐めていく

「溺れて」

―――――赤信号が

「亡くなったの」

―――――――青になった。

 

邪魔そうにカバンをぶつけながら信号待ちしてた人々が私を追い越す。


「川に水遊びに入ったコウくんが、溺れて、茜が助けに飛び込んだんだけど、コウくんを浅瀬に押しやったあと、茜はそのまま上がってこなくて…。さっき、警察の人が、下流で、浮いてた茜を見つけたの」


「え…?」


「今、地元の総合病院にいるから、小夜ちゃんも来てあげてくれる?」

「……………」

「……それじゃあ、待ってるわね、」

――プツッ、ツー、ツー…

  目の前の信号は赤だった。

よくわからなかった。でも、病院に行かなくちゃ、とだけは思っていて。震える手を持ち上げて、タクシーを止めた。


病院で、茜の名前を告げると、よくドラマで見る部屋に案内された。茜のお母さんが泣きながら壁際に立っていた。真ん中には幅の狭いローラーのついたベッドがあって、茜がいた。茜の髪が濡れていた。青白い顔の茜が寝ていた。こんな顔色の茜は見たことがなかった。40度を超える高熱でうなされていたときだって、生きてる顔をしてた。死んじゃったんだ。茜は。茜は。死んじゃったんだ。私をこの世界に一人、取り残して。

 涙が流れた。茜に縋り付いて、泣き喚きたかった。でも、死んじゃった茜の体に触るのが怖くて、茜の死に触りたくなくて、茜が寝かされたベッドの冷たい支柱を握りしめながら、このまま涙が枯れて、干からびて死んじゃいたいと思うほど泣いた―――。




*****

 もう何日経っただろうか。最後に茜を見た、あの日から。もうわからないほど、カーテンを引いた薄暗い部屋で茜のお気に入りだったクッションを抱きしめて座っている。

―嘘つき。茜の嘘つき。嘘つき。嘘つき。置いてかないって言ったくせに。

―――本当はわかってる。茜が目の前で溺れる弟を見殺しになんてできるはずがない。死んだのだって茜の意思じゃない。でも、まるで、茜に捨てられたかのようで…。どうしたらいいのかわからない。茜がいない世界でどうすればいいのかわからない。茜が、茜だけが私の全てだった。茜だけが、私のーーーー。



 茜の葬式に参列した時、喪主を務めた茜のお母さんに頼んで、骨上げ後に残った遺灰をもらって帰った。小さな白い壺の中に、茜がいる。茜だったものが。葬式から帰ってそのまま机に置きっ放しだった風呂敷を解いて、壺を取り出す。壺を開けると、葬式で嗅いだお線香の匂いがした。茜がいる。茜が。素手で触った茜の遺灰はサラサラしていた。

――茜、茜、今度こそ、一緒に世界を捨てよう。

泣きながら茜の遺灰を飲み込んだ。

―――茜、茜がいる。私になかに。

『一緒に死んだ2人は一緒に生まれ変われる』

いつか、冗談交じりに教えてくれた茜の言葉が聞こえる。

――茜、怖くないよ。今度は私も一緒だから。だからきっと生まれ変わったら、また一緒に生きよう。今度は、2人で一緒におばあちゃんになろう。そしたらまた一緒に死のう。



   きっと私たちは永遠に繰り返すのだ。魂が交じり合うその時までーーー


あなたの愛する人を思い浮かべてみてください。誰が浮かんだでしょうか。恋人?友人?それとも家族?



『愛』とはなんでしょうか?愛は依存であり執着だと思います。でも依存は愛ではありません。

友愛、恋愛、家族愛。この差はなんでしょうか?

『愛』とは多くの意味を内包しています。それ故に、時に『愛』を見失ってしまうのだと思います。作中で私は、大切なことは『それを愛と呼びたいかどうか』だと書きました。皆様は『愛』をどのように思われたのでしょうか。


作中では大切な人の遺灰を飲む、という描写を入れました。ご不快に思われた方がいらっしゃっいましたら、申し訳ありません。しかし、この描写はこの作品において、なくてはならないものだと私は考えました。どうかご了承ください。


長々とお付き合いいただき、ありがとうございました、ご感想、ご意見、誤字報告などございましたら、お気軽にお寄せください。

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