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朝早い男子とセンセーのお話。【九十分】


ざらめ氏参戦のお知らせ。あとがきに二人の作品のリンク貼ります。




 誰もいない教室に一番乗りで乗り込んでいく。

 静寂と、人のいない寂しさでなんだか寒気を感じるのはいつものことだ。

 七時の学校、朝練はあっても教室に一度寄ることはないから部活に入っている人はまず来ない。そして無所属ならこんな早く来る理由もないからもっとない。


 暇だったから早く登校するのが習慣になって、二年目の秋。クラスメイトも他のクラスの人も来ないこの時間は、いつも変わらず担任との会話で過ごす。


「おはよう芦屋くん」

「おはようございます」


 机に教科書やらなんやらを突っ込んでいたら、西村先生がやってきた。いつもと変わらない時間が流れる。


「昨日は一緒に帰れたの?」

「はい。凛太と香織も一緒でしたけど」

「二人のことだし気を使ってくれたでしょ。進歩ね」


 先生と会話をするこの時間。これが日常になってからずっと、この時間の話題は恋愛相談。なんとなく同級生にするよりも相談しやすくて、これを求めてこの時間に登校しているのかといわれると確かにそうなんだろう。


「先生、随分僕に優しくなりましたよね。最初は『今更そんな甘酸っぱい躊躇するな』とか純粋な高校生馬鹿にしてたのに」

「それを友達に言ったら怒られたって話何回もした……」


 そういやそうだったっけ。


「というか、ここまで話してくれたんだから上手くいくようにって思うのも自然だと思うのよね私」

「そういうものですか」

「多分。というか、前にも言ったけど高校生の恋愛でここまで真剣なのに触れるのって始めてなのよ私。お遊びじゃないなら教師が応援してもいいでしょう」


 また最後に多分。とつけた先生。いいことを言っているはずなのに締まらないのはその口癖が百パーセント原因になっている。


「そもそも付き合ってヤって飽きて終わり、なんて人権舐めてるの?」

「教師の発言じゃないです」

「そう思うんだから仕方ないじゃない」

「まあ、確かにそうですけど」


 教卓で作業をしながら喋る先生を眺めるいつもの光景。終わらなかった課題をする手元から目が離せないというのが、時々あるイレギュラー。

 今日はそのイレギュラーな日だ。


「課題終わってないの珍しいわね」


 だとか考えていたら先生もそのことに触れてきた。


「文化祭、シフト合わせて一緒に回ろうって。嬉しすぎる現実に悶えてたら寝落ちしてました」

「バカの具現……」

「否定できない」


 朝起きて気付いたときの絶望感と何をしているんだ俺はという虚しさはもう二度と味わいたくないと思う。

 前回嬉しすぎて課題忘れた案件が発生したときも同じ後悔をしたが、なかったことにしておこう。


「そういや文化祭ね……。『白玉タピオカドリンク』ってなによ」

「白玉をタピオカに見立てたタピオカドリンク」

「タピオカなのそれ」

「咲良と試してみたら美味しかったんで気にしないことにしました」


 「ふーん」といったあと、しばらく無言の時間が続いた。俺がペンを動かす音しか聞こえない。先生が動いていない、というのが気になって顔を上げれば。

 ニマニマと、純粋な笑顔ではない他にプラスアルファが入った表情をした先生と目があった。


「なんですか」

「酒井さんのこと名前で呼ぶようになったんだね」

「……そうですけど、それでなんでそんな顔」

「芦屋くんも名前で呼ばれるようになった?」

「……はい」

「進歩だねえ」


 そういって手元に目線を落とした先生。

 わかったことがあるとすれば、あの表情はからかいの表情だ。気にしないで課題に集中しよう、と思っても先生のあのニヤニヤ顔のせいで互いに名前呼びになったという事実を再確認することになってしまい嬉しさと恥ずかしさで死にそう。


「名前呼びでそんなに照れるって、芦屋くんそんなシャイボーイだったっけ」

「名前呼びという行為が現実になったことを再確認し嬉しさと恥ずかしさで死んでるだけです」

「今現在の感情を口に出すことに躊躇がない。いつもどおりの芦屋くんだね。そういう素直なところ、酒井さんはきちんと評価してくれてると思うわよ」


 時々こうして真面目な相談役のような言葉を返してくる先生。

 からかわれることのほうが多いし、恋愛相談なんて真面目なタイトルをつけて話すことも今はほぼない。日常の中の雑談、そんな軽いノリで話題を振ってくるから。

 それでも、たまにくる『恋愛相談』という感じの言葉にはなにをしていても一度行動を止めてしまう。


「……先生っていい人ですね」

「教師してるとなかなかそういう評価もらえないからありがたく受け取っておくわね」


 そんなことはないと思う。西村先生の授業は面白いしわかりやすい、と話すクラスメイトは沢山いるし、他クラスの人が話しているのもよく聞く。美人でそのうえ可愛い、という評価はきっと思春期ならではの下心が混ざったものだとは思うけれど。


「さて……と。じゃあ私一度戻るわね」

「あ、はい。今日もありがとうございました」

「どういたしまして」


 来たときよりも荷物を少なめに抱え教室を出ていった先生。一時間目先生担当だからおいていったのか。

 そうしてまた静かになった教室。時刻は七時半にもなっていない。まだもう少しは誰も来ない静かな教室のままだろう。騒がしくなる前に課題を終わらせたい。

 ふと名前呼びの話が脳裏をよぎって少し恥ずかしくなったけれど。その幸せは今じゃなく咲良の声を聞いて噛み締めたいと思った。


「よし」


 気合を入れるように小さく呟いた声を最後の音に、俺は課題と向き合うことにした。


 












この小説は、サイコロを振り出た目に対応した設定を使用しています。


【今回使用した設定】

主人公性別/男

主人公年齢/高校生

相方役年齢/年上

時間帯指定/朝


他二名の作品はこちら。

ざらめ氏»https://ncode.syosetu.com/n5532fm/

水飴氏»https://ncode.syosetu.com/n1251fm/2/

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