落ちた?
1月下旬。桜麗学園受験合格発表の日である。
「お、もう掲示板出てんじゃん。」
制服を着た男子が小走りして学校に向かいながら言う。
「おい!…おーい角田!」
後ろから同じ制服を着た男子が走ってくる。
「ちょ、ちょっと待てよ…陸上部のお前に…合わせるの…きついんだよ…。」
校門前まで走りゼーゼーと息を切らす。
「いやーそれはお前が寝坊したのがいけないだろ。」
「…てへ!」
「お前がやってもキモいだけだわ!」
二人は笑いあいながら受験票を取り出す。
「えーと…俺の番号1160は…。」
角田は1152が見えたのでそこから恐る恐る見ていく。
「1158…11…6…0…あ、あ、あ、おっしゃぁぁぁぁぁ!!」
角田はガッツポーズして喜んだ。
「やったぞ!俺は受かってたぞ!真はどうだった!?」
角田は真の肩をガシッと組んで聞く。
「…はぁぁぁ。」
すると真はため息をつき始める。
「ん?どうしたんだ?」
角田は純粋に心配する。
「…お前、俺はお前と一緒に願書出しに行って俺が先に手続きすましただろ…?受験の席も前だったろ…?」
真は角田を睨みながらブツブツと言う。
「……あ。」
そこで角田は真が何言いたいのかを察する。
受験番号の1の後の三桁は手続きの順番で決まる。
つまり1160の角田の前に手続きを終わらせた真の受験番号は1159なのである。
そしてそれの有無はさっき角田が自分で確認している。
「…まさかお前から落ちた時のネタバレされるとはなぁ…。」
真は自虐的に笑う。
「すまん!」
角田はとりあえず頭を下げる。
「はー…辛いわぁ…。」
真は目に涙を浮かべた。
「…後で昼飯おごってやるよ。」
「えぇ!?本当ですか!?まぁ角田さんがそこまで言うなら許してあげるしかないですね!あはは!」
角田がおごると言った瞬間真はさっきまでの悲しみの表情が嘘の様にテンションが高くなる。
「てめぇ!全部嘘だったのかよ!」
「えー!?酷いなぁ!親友に免じて全て帳消しにした僕の気持ちがおよよ…。」
真はさっきまでと違いわざとらしく落ち込む。
角田はそれを見てキレそうになるがふと我に返る。
「てかお前高校どうすんの?」
角田は気にしてなさそうな真に疑問を持ち聞いてみる。
「んーまー確実に入れそうな公立に入るよ。偏差値61とまあまあ高い高校に挑戦しただけあってある程度は余裕そうだしな。」
真はニヒヒと笑い角田に背を向ける。
「だから…気にすんな…。」
真は震え声になっていた。
そして次第に体も震え始める。
角田はそれを見て色々思い出した。
3年の4月時偏差値40台の二人が桜麗学園祭に来てここにしようぜと言って二人で頑張りあった日々。
ゲームも全くやらず、一日平均10時間の勉強の日々。
進路相談で担任に止めとけと笑われた屈辱。
最初の頃は伸び悩んだ模試が努力が報われ始めた嬉しさ。
最後の進路相談で担任に今のお前らなら行けるって言われた時の感動。
それを思い出し、角田は泣いた。
「今日はガストでパァーっとやろうぜ!ドリンクバーコンプ祭りだ!」
「あぁ…お前の合格祝いだ!今までで一番羽目を外した祭りにしてやるぜ!」
二人はお互い泣きあう。
周りの事を忘れお互い泣きあった。
「えー受験番号1159!受験番号1159は今すぐこちらに来てください!」
だが拡声器でそんな声が響き涙がピタっと止まる。
「へ?俺?」
真は拡声器を持った教師の方へ向かう。
30分後真が戻ってくる。
「どうしたんだ?」
待っていた角田は気になって聞いてみる。
「あーなんかな。俺女子高受かったらしい。」
角田は真が何言ったのか分からずきょとんとする。
「…は?」
10秒後に角田がやっと発した言葉はそれだけだった。