7 ……本当にメイドさんみたいなのね
俺が風呂から上がると、二人はソファで何やら語り合っていた。
「あ、マスター、おかえりなさい」
俺が入ってきたことに気付くとルナは立ち上がってキッチンへ飲み物を取りに向かった。
「邪魔しちゃったかな?」
不機嫌そうに見えるソラに声をかける。
「……別に」
そう言ってソラはそっぽを向くと、ちょうどその方向から、飲み物をトレーに乗せたルナが入ってきた。
ルナと目が合うと、ソラは何故か顔を赤くしている。
お風呂の中で何かあったのかな?
「どうぞ、マスター」
「ありがとう」
そう言って受け取った飲み物を口にする。
これは……コーヒー牛乳だ。
「ルナ、このコーヒー牛乳どうしたの?」
「ソラ様が、コーヒー豆をお持ちでしたので、お風呂上りに合うかと思って作ってみました」
「そうなのか、めっちゃ合うよ! ありがとうルナ、ソラ」
向こうの世界では風呂上りによくコーヒー牛乳飲んでたなあ……まだ3、4日しか経ってないのに懐かしい。
そう思いながらグビグビ飲んでいると、ルナが俺の目の前にペタンと座った。
いわゆる女の子座りってやつだ。
頭をこちらに向けて来たので撫でてあげる。
すると、「えへへへ」と嬉しそうにニヤケだした。
「コーヒーはこの国の名産だから、飲ませてあげようと思って持ってきたのよ」
ソラはそう言うと、チラッとこっちを見た。
「名産品なのか、ありがとう! 美味しいよ」
「…………!」
無言で立ち上がると、ソラは俺の前にペタンと座った。
「ん! わざわざ持ってきてあげたの!」
そう言って頭をこちらに向ける。
これは? おそるおそる頭を撫でてあげると「ムフフフ」と満足したような顔をしていた。
間近で見るソラの髪は、金髪と言うよりも黄金色で、その一本一本がまるで金の糸のように眩しく輝いている。
一方、横に座るルナの髪は、よく見ると一本一本は銀色なのだか、纏まると青みがかって見え、神秘的な光を放っていた。
「ソラの髪は金色だけど、魔力の属性って何なのかな?」
「金色なんだから光属性に決まってるでしょ?」
少し呆れた顔をして、何を当たり前なことを聞いてるんだって感じで言われた。
「ソラ様、私達はちょっと遠い所から来たので、髪の色が魔力の属性を表すことは知っていたのですが、それがどの属性にあたるのか知らないのです」
「……そっか、妖精族の生き残りは、もうこの大陸には居ない筈だし……あなた達、別の大陸から来たのね? 別の大陸では黒い髪で魔力が使える人もあたり前なのかな」
なるほどなぁと、ソラは一人で納得している。
ルナと目が合ったので頷き合った。
都合よく納得してるみたいだから余計な事は言わない様にしよう……。
「火が出る魔法使ってたよね? あれは光魔法なの?」
「あれは黒魔法よ」
ソラはそんな事も知らないのか、という顔をして言った。
「えーとね、白魔法と黒魔法っていうのがあって、属性によって得意不得意があるの。白魔法は回復とか補助系の魔法が多くて黒魔法は攻撃系が多いの。もちろん少ないけど白魔法にも攻撃魔法はあるし、黒魔法にも回復魔法があるけどね。私は光属性だから白魔法全般が得意で黒魔法は炎系統が割りと得意かな。他の黒魔法も使えないこともないけど威力は低いわね。だから闇属性と氷属性の黒魔法が弱点になるの」
なるほど、そういう仕組みか……。
「で、あんたはどんな魔法が得意なの?」
俺が感心していると、ソラは興味津々な顔付きで聞いてきた。
「俺は青魔法かな? 前に青魔導士の素質あるって言われたし」
「は? 青……魔法? 何よ、青って? あんた私がちゃんと説明したのに自分の属性は言いたくないってわけ!?」
あれ? 正直に話したのに急に怒り始めた。
「いや、その、自分の属性も良く分からないし……」
「ソラ様、相手をカエルに変える魔法。それが青魔法です。あれには属性はないのです」
俺がしどろもどろに弁解していると、ルナが助け船を出してくれた。
さすがルナは頼りになる。
「確かに、あんな魔法は見たことないけど……ま、いいわ」
ルナの断言するような口調に、ソラも渋々ながら納得したようだ。
「じゃあ、ルナは?」
「私はあまり魔法は得意ではないのです」
「そうなの? まあ確かに魔法よりも近接戦闘タイプよね」
ルナの帝国兵との戦闘を思い出しているようだ。
「けどその髪の色は闇属性よね? 青色も少し入ってるから氷属性もありそうね。お互いの弱点を補えるから、パーティーメンバーとしても相性は良いかもね」
「そうですね。ソラ様よろしくお願いいたします」
「ウフフ」と俺の目の前で女の子座りしてお互い笑い合っている。
「では明日もありますのでお休みの準備をしてきます」
そう言ってルナは立ち上がると、二階へ上がる階段に向かった。
「……本当にメイドさんみたいなのね」
ルナの後ろ姿を見送ってソラはポツリと言った。
☆
翌朝、目が覚めて階下に降りると、コーヒーの良い香りが漂っていた。
「おはよう」
「おはようございます、マスター。コーヒー淹れますね」
「ありがとう」
この世界にもコーヒーがあって良かった。
前の世界では起きるといつもコーヒーの香りがしていたので、この香りを嗅ぐと目が覚める。
「お待たせしました。砂糖とミルクはお使いになりますか?」
「いや、ブラックで」
そう言うと俺は香りを楽しむようにカップを鼻に近づける。
……いい香りだ。
俺は猫舌なのですぐには飲めない。
暫く香りだけを楽しんだ。
「ソラはまだ寝てるのかな?」
「そのようですね。実はマスターがお休みになった後、ソラ様の部屋で少しお喋りしていたのです」
「あ、そうだったんだ?」
「はい。ソラ様が言うには〈がーるずとーく〉というものなのですが、内容は男性には秘密らしいので、マスターにも教えることはできません」
ソラが起きてきたのは、それから大分時間が経った後だった。