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6 な……私に謝れっ

 俺とルナは一旦集落から離れて、森の中にいた。


 「これくらい離れれば大丈夫かな」


そう言って俺は収納庫からログハウスを取り出す。


 集落にいた人達の様子を観察していたが、誰も収納やアイテムボックス的な物を使っていなかったので、あの場所でログハウスを出すのを控える事にした。

 よく考えたら、この世界の常識についてまだよく知らないし、アーティファクトとかあまり見せない方が良いのかも? と今からながら気づいたのだ。


 ログハウスに入ると、早速ルナの服装がメイド服に変わっていて、いそいそと昼食の仕度に取り掛かっているのが見えた。


 忍者っぽい格好も似合ってるけど、メイド服姿も良いなあ……オンとオフで切り替えてるのかな? あれ? どっちもオンか?


  「マスター、お飲み物です」


 そんなことを考えていたら、ルナが果実水を持ってやって来た。


 「ありがとう」

 「間もなく食事の用意が出来ますので」


 そう言ってルナはまたキッチンへ向かった。



 軽めの昼食を食べた後、ソファで今後の事について話し合った。


 「食材って何日分あるの?」

 「そうですね……同行者が増えた場合、あと5日と言ったところでしょうか」

 「結構少ないな、王都まで何日かかるか分かる?」

 「私とマスターだけなら7日程で到着すると思いますが、ソラ様もご一緒だとその倍は掛かるかと」

 「……なら途中で食料を補給しながら進むしかないか」

 「マスターの収納庫は時間停止の機能もありますから、魔獣を仕留めてその都度収納していけば保存が効きますし、野草などは私が詳しいので大丈夫だと思います」

 「そっか、なら大丈夫か」


 ルナがそう言うなら大丈夫だろう。

 帝国の兵士は思ったより強くなかったけど、俺も魔獣を倒して少しは戦いに慣れないとな……ま、倒しても捌くのは無理そうだけど。


 「それと俺達の事をどこまで伝えるかだけど、収納庫は仕方ないにしても、他のアーティファクトとか転生の事、ルナがホムンクルスって事も言わない方が良いだろうね」

 「そうですね、いらぬ混乱を招くかもしれません」

 「よし。とりあえずはそんな感じでいいかな?」

 「後はマスターが――」



 ルナそそくさとテーブル上を片付け、気がつくとまた忍者っぽい服装に戻っていた。


 収納で着替えられるのかな? 服を買ったら試してみよう。


 そう思いながら、俺は真っ黒なローブを頭からかぶった。



 身体強化して急いで戻ると、集落の端に人影が見えた。

 強化を解いて、速度を落とす。

 近付いていくと、腕を組み足を広げて仁王立ちしているソラの姿があった。


 また何かあったのか?


 そう思いゆっくり近づく。

 ソラがこちらに気づいた瞬間、金色に輝く髪がふわぁっと浮かび上がり、まるで生きているかのようにウネウネと動き出した。


 サ○ヤ人?

 いや、金髪だから、スーパーサ○ヤ人か?


 と懐かしいアニメを思い出していると、ソラが顔を真っ赤にして何か言おうとしている。


 「……っ」

 「ん?」

 「あ、あんた達っ! 黙ってどこ行ってたのよっ!!」


 ドカーン! っという効果音が聞こえてきそうな大きな声で怒鳴られた。


 「……ご飯を食べに行ってきました」

 「はあっ? ここで食べたらいいでしょうがっ!」

 「いろいろ相談する事もあったし……」

 「だからって黙って行くことないでしょうよ! 私と一緒に王都に行ってくれるって言ったわよね? ねえ!」

 「はい……」

 「午後には出発するとも言っておいたわよね?」

 「はい…………」

 「今は?」

 「えーと……お昼?」

 「もう午後2時よっ!」

 「「ごめんなさい!」」


 俺たちは謝りながらさっきログハウスを出る前に、ルナが言っていた事を思い出した。


  ――後は、マスターがソラ様と仲良くなって上手く情報を引き出せれば良いかと……


 ……無理だな。


 「いなくなっ……置いていかれたのかと思っちゃったじゃない……」


 ソラは先程までの勢いをなくしてボソッと呟いた。


 なんか悪いことしちゃったな


 そう思っていると、ゼノンがにこやかに歩いてきた。


 「おお、戻ってこられましたか、姫様も泣き止んだようですな」

 「泣いてないっ!」


 ソラはまた顔を真っ赤にしながら怒鳴った。


 「して姫様、支度の方は?」

 「……着替えて荷物持ってくる。――ここで待ってなさいよ!」


 最後に大声で俺に言いながら走って行ってしまった。


 「申し訳ない」


 そう笑いながらゼノンは言った。


 「いえ、怒らせてしまったのは俺達ですから」

 「成人したとはいえ、姫様はまだ15。我儘も言うかと思うがよろしくお頼み申す」

 「……わかりました」


 俺と同い年だったのか、年上かと思ってた。

 っていうかこの世界では15で成人なんだな……。


 ソラが走って戻ってくるのが見えた。

 白地に赤と金のラインの入った動きやすそうな上着と、赤の短パン、その下の白いレギンスと白のロングブーツには金の模様が入っている。。

 腰にはゴールドのレイピアがぶら下がり、背中に背負った小さめの黒いリュックからは木の枝が飛び出している。


 「派手だな」

 「派手ですね」


 俺達がそんな感想を述べていると、ソラが息を切らせて到着した。

 「お、お待たせ……」

 「そんなに急いで来なくても……」


 ジロッと睨まれた。


 「じゃあゼノン、先に行ってるわね」

 「はい、我々もすぐに後を追いますが、くれぐれも道中お気をつけてくだされ」

 「大丈夫よ」


 ソラがチラッとこちらを見た。


 「さ、行きましょう」


 そう言うと、ソラはさっさと先に歩き出す。

 俺とルナはゼノンと挨拶を交わし、急いで後を追った。



 ☆



 「甘いっ!」


 ソラはダッキングで相手のパンチを躱した後、そう言って、がら空きの脇腹にレイピアを突き刺した。

 転がるように距離をとると、リュックから木の枝を取り出し、怒りで雄叫びを上げているハイランドオークに向け《バーニン!》と叫んだ。

 すると木の枝の先端から魔法陣が出現し、直後オークの足元にも魔法陣が浮かび上がる。そこからゴオッという音と共に勢い良く炎が吹き上がった。


 プスプスと煙を上げて横たわるオークの前で、俺は感心していた。


 身体強化して進む俺とルナのペースにもちゃんと付いてきているし、かなりの戦闘力だ。

 ルナが言うには、ソラは身体強化を使っていないらしい。

 ただのお転婆姫かと思っていたが、帝国の隊長よりも全然強い。

 いや……むしろソラ1人で帝国兵全滅できたんじゃね?


 「どう? 私の実力は? あなた達も凄いけど、私もなかなかの者でしょう?」


 ソラは胸を反らし偉そうにふんぞり返っている。


 「うん、見直したよ。そしてごめん!」


 俺はソラに謝った。


 「はあ? 何よ急に」

 「いや……俺はソラの事、正直ただのお転婆わがまま娘かと思ってて」

 「なっ……私に謝れ!」

 「だからゴメンって!」


 ソラにギャーギャー言われていると、ルナがやって来た。


 「ソラ様、ハイランドオークの残りを焼き尽くしていただけないでしょうか? このままだと臭いに釣られて他の魔獣がやって来るかもしれません」

 「あ、そうだったわね」


 そう言うと、ソラはオークの方に行って、直ぐに《バーニン》を唱え始めた。

 ルナ、なんて出来る娘なんだ。




 「ねえ、もう随分暗くなってきたけど、野営とかしないの?」


 不安そうにソラが言う。


 森は暗くなるのが早い。昼間でさえ日が差し込まなければ薄暗い所もある。

 森の中を旅する者は、朝から昼過ぎまで移動して、夕方までには野営と食事の準備をするのが普通だ。

 だが今は、前に進むのも躊躇う程の暗さである。


 身体強化の影響で夜目が効くようになっていたから気付かなかったが、もうそんな時間か。


 「ルナ、どこかいい場所ありそう?」


 先頭を歩くルナに呼びかける。


 「お待ちください……右に少し行った所に開けた場所があります」

 「ありがとう。よし、そこで野営の準備をしよう」


 そう言って歩き始めると、後ろからソラが付いて来ながらブツブツ言いっているのが聞こえた。


 「何で分かるのよ……それに今から準備って……」



 まだブツブツ言っているが、それを無視して収納庫からログハウスを取り出す。


 「……は?……」


 ソラが固まった。


 茫然と立ち尽くしているソラを押したり引いたりしながら、どうにか中に入れて無理矢理ソファに座らせた。


 「……な、な、何なのっ? ここは!?」


 混乱しているソラの前に、メイド服姿のルナが紅茶のような物を置く。


 「はっ! これは夢!? 全部夢だったのかしら……?」


 と呆けて来たので、とりあえずお茶を飲むように勧めた。



 「ふう……」


 少し落ち着いたようだ。


 「で、何なのよ?」

 「ん? 何が?」

 「何が? じゃないわよ! この家もそうだし、ルナは急にメイドさんの格好になっちゃてるし、そもそもこの家はどっから出てきたのよ!?」

 「説明すると長くなるんだけど……」

 「構わないわよっ」


 ルナが両手に料理を持ち、キッチンから現れた。

 香ばしく美味しそうないい匂いがあたりに漂ってくる。


 「ぐううう、ぎゅるるるるる」


 ソラのお腹が悲鳴を上げた。


 「先にご飯食べようか?」

 「食べ終わったらちゃんと説明しなさいよねっ」


 ソラは顔を真っ赤にして涙目になってそう言った。



 食後、リビングのソファに場所を移しての話し合いが始まった。


 「その腕に付けてるのが収納庫?」

 「こういう収納できる道具って他にないの?」

 「……帝国の宝物庫にそういうお宝があるって話を昔聞いたことはあるけど、少なくともこの国には無いわね」


 やっぱり、あんまり無い物なのか。みんなの前で使わなくて良かった。


 「それに、こんな家とかが収納できるような物じゃなかった筈だけど……私が聞いていたのはせいぜい荷馬車一台分が入る位だとか」

 「なるほど、じゃあこれは珍しいものなんだ」

 「珍しいなんてレベルじゃないでしょ。まったく……」


 ソラはブツブツ言っているが、一応は受け入れたみたいで、次の疑問をぶつけてきた。

 それは俺にではなく、ルナにであったが。


 「で? あんたは何でそんな格好してる訳?」

 「これは……私の趣味です」


 言い切った。


 「そ、そうなの?……ならしょうがないわね?」


 こっちを見て疑問形で言われても困る。



 「マスター、ソラ様、話もひと段落ついたところですし、親睦を深めるためお風呂にしませんか?」


 ルナが言い出したのを聞いてソラがまた吃驚する。


 「お風呂? ここお風呂もあるの?」

 「そうです。ソラ様、一緒に入りましょう」

 「……一緒に入ったら狭くならないかしら?」


 ソラはルナの胸元を見た後、自分のささやかな胸を見てそう言った。


 「大丈夫です。三人で入ってもまだまだ余裕はありますから」

 「三人!?」

 「ええ、裸の付き合いは親睦を深めると、ある偉い方が仰っていましたから」


 そう言ってルナは俺とソラの手を取って歩き出した。


 「ちょっ、ちょっと! 待って、まだ、心の準備が!」


 ソラが喚いている。


 「あんた! 何普通に付いてきてるの!? 入ってきたら殺すわよ」


 そして俺を見ると酷いことを言い出した。

 いや、俺引きずられてるでしょ? 全然普通じゃないから。無理矢理だから。


 「マスター、今日はお背中流させてくださいね?」


 ルナが爆弾をぶち込んできた。


 「はあ? あんた達お風呂一緒に入ってるの!?」

 「いつもじゃないから、昨日だけだから」

 「昨日はマスターと親睦を深める為にお背中を流させていただこうかと思ったのですが、マスターは湯槽の端から出てきてくれなかったのです」


 ルナよ、そういう事は言わなくても良いのだよ。

 俺が遠い目をしている。


 「あんた達は……」


 ソラは何かプルプル震えている。


 「とにかく! 今日は私とルナだけで入るから、ソータは向こう行ってなさい!」

 「マスター残念でしたね、じゃあ明日は三人で入りましょう」

 「入るかっ!」



 俺は二人のやり取りを聞きつつ、リビングに引き返した。


 なんだかんだ言っても、二人が仲良くやっていけそうで良かった。

 俺はリビングで果実水を飲みながらそう思ったのだった。

 


===================================


 名前:セガワ=ソータ


 種族:人間


 職種:青魔導士


 魔法:《スキャン》、《トード》、《リトード》、《ヒール》、《バーニン》


 技能:ユニークスキル『ラーニング』


    獲得スキル『身体強化』『魔力操作』『魔力感知』


 耐性:なし


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