5 こういうの何て言うんだっけ?
あちらこちらで煙が立ち昇る中、生き残った者達が広場でお互いに喜び合っている。
そんな中、先程集団の先頭に立っていた老人が、広場の端にいた俺たちの許に歩み寄って来た。
「本当にありがとう。お陰で助かりました。私はゼノン・プルートと申す。死んでいった者達も無駄死ににならなくて済みました……ところで――」
「ちょっと! あんた達!」
そこへ、金髪の少女が割って入ってきた。
十人中九人は、美少女か美人だなって思うであろう綺麗な顔立ちをしていて、しなやかな身のこなしは、なんとなく豹をイメージさせる。
輝く金髪が腰の上まで伸びていて、少し吊り上がりぎみの深紅の大きな目でこちらを見ている。
この子を捕らえるために軍隊が来てたんだっけ?
そして、この子を守る為に死んでいったり、死のうとしてた人がいた……姫って言ってたよな? お姫様って初めて会ったな。
「その……さっきはありがとう。私はソランジェ・フォン・ヨークシャンよ」
「俺は瀬川蒼太……あ、こっち風に言うと、ソータ・セガワです」
「ルナと呼ばれております」
俺とルナちょっと圧倒されながら名前を名乗る。
「そっ。ソータにルナね、私の事は特別にソラって呼んでもいいわよ。 その、た、助けてくれた訳だし?」
何で疑問形になってんだ? お姫様だけあって何となく面倒くさそうな人だな……。
「あなた達って凄く強いのね! 何なの? あの魔法! 人をカエルにしちゃう魔法なんて、見たことも聞いたこともないわよ。 それにルナも、帝国の兵士があんな簡単にやられていくなんて、この目で見てても信じられなかったわ」
「姫様、少し落ち着いてください」
「だってゼノン、あなたも見てたでしょう? ソータだって帝国の親衛隊の攻撃をあっという間にかわして吹っ飛ばしちゃうし、王都の騎士長でもあんな真似出来やしないわよ」
あいつらそんな強くなかった……よな?
まあまあと、興奮気味に話すソラを嗜めるようにしながら、ゼノンと呼ばれた先程の老人が歩み寄ってきた。
「して、ソータ殿とルナ殿はなぜこの集落に? いや助けて貰っておいてこんな事は言いたくないのだが、この場所は王都の者でも殆ど知る者のいない辺境の地なのでな」
「えーと……森を歩いていたら遠くで煙が上がってるのが見えたから、ですかね」
「なるほど、ではこの地が目的ではなかったと?」
ゼノンは鋭い眼差しで聞いてくる。
まさかマップ機能で近くに集落があったから、なんとなく来てみましたなんて言えない雰囲気だったので、とりあえず頷く。
「ゼノン、もういいでしょう? ソータ達は王の手先でも他国の間者でもないわ。そもそも、妖精族を連れた黒髪で魔法が使える人なんて聞いたこともないわ」
ソラがそう言うと、ゼノンの眼差しがフッと柔らかくなった。
「それもそうですな、疑うような真似してすまなかった、なにしろ我々には敵が多くてな」
そう言うとゼノンは、この集落がどういうものなのか語り始めた。
先代の王には二人の息子がいた。
その王が亡くなった直後、弟は兄に王殺害の汚名を被せ、兄と兄の息子を城の奥に幽閉し、自ら王位を継承した。
兄が幽閉されたのは、弟が王を殺害した疑いがありそれを調べていたからで、証拠も揃いつつあったらしい。
それを調べていた兄の臣下達は娘であるソラを連れ、この隠里まで逃げ落ちてきた。
ここに隠れ住みながら救出と王位奪還の為、情報収集をしていたが、現在の王である弟が兄の処刑に動き出した事を知った。
そんな時、帝国の軍隊が突然襲撃してきた。
――そこへ俺達が現れたってことか。
「ぐっ……」
先ほど捕らえた親衛隊の隊長が目を覚ました。
「目を覚ましたみたいね」
ソラがそう言うと、手足を縛られたままで転がっていた隊長の方へ近づいていく。
「あんたには、いろいろと聞きたいことがあるのよ」
「……おいおい、捕虜の扱いが分かってないんじゃないのか?」
「捕虜? なら、あんたの所属と階級を言いなさいよ」
「……」
隊長が黙り込んでいると、ルナが何かに気付いたかのように、スタスタと隊長に近づいていく。
ルナの手にはいつの間にか短刀が握られていた。
「ちょっ…」
ソラが制止するより早く、シュパッと音を立ててルナの短刀が空を切り隊長の口から頬にかけてを切り裂いた。
皆が茫然とする中、ルナが隊長の口を強引に開けてその中に手を入れる。
ゴリッと嫌な音が鳴った。
手を引き抜くとルナの手にはいつの間にか小型のペンチのような物が握られ、その先端には抜かれたばかりの隊長の奥歯があった。
「ルナ、急にどうしたの?」
俺は恐る恐るルナに尋ねた。
「あの人の奥歯に何か仕込まれているのが見えましたので、念の為取り出しておきました」
ちょっとドヤ顔である。
なんか褒めて欲しそうな顔をしていたので、とりあえず頭を撫でてあげると「えへへ」と嬉しそうに笑った。
良かった、急にキレたのかと思った。
しかし、念の為で奥歯抜かれちゃった隊長が血まみれなんですけど……あ、この人良くみると八重歯が出てる。
「これは……毒物だな」
抜かれたばかりの奥歯を見て、ゼノンが言った。
そして血を流して呻いている隊長に手を翳し、治癒魔法をかける。
《ヒール》
――そう唱えると、頬の傷がみるみる塞がっていく。血まみれだが傷は治っているようだ。
やっぱり回復魔法もあるんだ?
ゼノンさんって完全に白髪だから、元の属性が分からないな。
「さて、これで自害はできなくなった訳だが、おとなしく話をする気になったかな?」
何か言いたげだったソラを手で制して、ゼノンが尋問を始める。
「まず、どうやってここまで来れたのか、から聞かせてもらいたいんだが?」
「くそっ、何なんだあいつらは? あんな化け物がいるなんて聞いてないぞっ!」
こっちの方を見て隊長がわめいているけど、俺の事じゃないよね?
あ、ルナの事かな? こんなに可愛いのに、あの人何を言っているんだろう?
そう思っていたら、隊長と目が合った。
「ぐっ……、は、話すから、あいつらを、どっかにやってくれ……」
何故か隊長の側から引き離された。
河原でルナと泳いでいるカエルを眺めていたら、ソラがやってきた。
「ねえ、あなた達って森に居たのよね? どこかに行く途中だったの?」
「いや、行く途中と言えば途中だけど……それがどこか、と言われると何とも言えない、と言うか?」
「何よ、ハッキリしないわね」
「はあ、すいません……」
どこに行くかって、女神が封印されてる場所探して、各国の王族とかから封印を解く魔法をラーニングするなんて言える訳が……あれ?
「まあいいわ。ねえ! それより予定がないんだったら、私と一緒に王都に行ってくれない?」
「……ああ、別に構わないよ」
このソラって子お姫様……つまり王族?
こういうの何て言うんだっけ?
「午後には出発するから、それまでに準備しといて」
そう言うとソラは上機嫌で去っていった。
「マスター、渡りに船ですね」
……それだ!