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2 この子、馬糞で出来てるの?

 さっきのあれは、事故……だったのかな。

 やっぱり、俺は死んだのか?

 もしかしたら、全部夢なのかも。


 小型犬並みの大きさの、金色に輝く女神カエル? を見詰めながら、今日起こった事を茫然と考えていると、その姿に似つかわしくない鈴の音のような声色でまた話しかけてきた。


 「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 「え? あ……俺は、瀬川、蒼太です」

 「ソータさんですね。それではどうぞこちらへ」


 と言って、女神様カエルは神殿の方にぴょんぴょん飛び跳ねて行く。

 俺は頭の上に【?】マークを幾つも浮かべながら、とりあえず後を追って歩き出した。



 俺は女神様カエルに誘われるまま、神殿の一室でテーブルを挟んで向かい合って座っていた。

 神殿の中にしては生活感のあるリビングのような場所で、ゆったりとしたソファに身を沈める。

 すると、何処からか現れたメイド服姿の少女が、テーブルの上にティーセットを用意して、そのまま女神様カエルの座るソファの後ろに控えるように立っている。


 「どうぞ遠慮せずに召し上がってください」


 そう言われて俺はティーカップを手に取り、琥珀色をした紅茶のような液体を口にした。


 「……美味い」


 それは仄かに甘く、柔らかなハーブのような香りがして、一口飲むと気持ちが落ち着いていくのがわかった。


 一息ついた所で、気になっていた事を質問した。


 「ところで、俺は死んだんですかね?」


 ん? と女神様カエルが首を傾げたように見えた。


 「勿論、死んでますよ。当たり前じゃないですか」


 何を今さら的な、軽い口調でそう言われた。

 まあ女神様カエルとか出てきた時点で、そんな気はしてたけど、改めて言われるとちょっとショックかも。


 紅茶のような物をもう一口飲む。

 ……少し落ち着いた。


 「そもそも神殿は、死者の魂の中でも転生者としての資質がある者だけが訪れられる所です。そして転生者は、その資質に合ったギフトを授かって転生して行くのです」

 「俺にその、資質? なんてものがあるんです?」

 「もちろんありますよ。詳しい事は調べてみないとですが……ルナ!」


 女神様カエルが後ろに控えるメイド姿の少女に声を掛ける。

 ルナと呼ばれた少女は微かに頷くと、俺の横に移動してきた。


 年の頃は13、4歳くらいか、無表情ではあるが人形のように整った顔立ちをした美少女だ。

 神秘的な雰囲気を身に纏い、輝くような青銀色のショートカットの髪と美しい翡翠色の目を持っている。

 そして、横に尖った形をした耳……?

 人間ではないみたいだ。


 彼女が座ったままの俺の額に手を当てる。すると、俺の足元から魔法陣のような物が浮かび上がった。

 魔法陣は下から上に体をスキャンするように移動して、頭の上で消えていった。


 ルナは女神様カエルの耳元に何かを伝えると、またソファの後ろに向かい、先程と同じように無表情で控えている。


 「ソータさんって随分遠くの世界から来られたみたいですね」

 「そうなのかな? とりあえず女神様も魔法使いもいなかったけど」

 「ソータさんが急に神殿のある次元に現れた時は驚きましたが、転移してきたんですね。元居た世界と比べると、転生される世界は随分環境が違うと思いますよ。一番の違いは魔法が存在することでしょうか」


 魔法があるのか? やっぱりファンタジーっぽい感じかな?

 まあ、カエルが喋っているこの状況もかなりファンタジーなのだが。


 「世界については後程ご説明します。その前にソータさんには資質ではなく、不完全ながら既に《ラーニング》の能力ギフトがあることが分かりました」

 「ラーニング?」

 「はい。《ラーニング》とは青魔導士が稀に獲得すると言われている究極の能力で、他人の技術や魔法を見ただけで習得できるスキルです。この能力を持っていた人を私は過去に一人しか知りません。これはとても珍しい事なんですよ」

 「それを、俺が持っていたと?」

 「心当たりありませんか?完全ではなくても、おそらく発動はしていたかと思いますが」


 そう言われて考えてみると、確かにスポーツや武道でも何でも、見てすぐに出来るようになってたっけ。

 要領がいいだけかと思ってたけど。

 そのおかげで周りに疎まれて、どれも長続きしなかったな……。


 紅茶を一口飲む。

 ……うん、落ち着く。


 「確かに、心当たりは……あるな」

 「転生すれば《ラーニング》は完全な状態になりますので、優秀な青魔導士になれると思いますよ」


 青魔導士?

 って昔やったRPGで出てきた、変な喋り方で敵の技が使えるだけの、なんとも微妙なキャラじゃなかったっけ?


 「青魔導士としての資質を持つ転生者は暫くずっといなかったんですよ」


 俺が微妙な顔をしているのに気付かず、女神様カエルは何故か嬉しそうに話を続ける。


 「本来転生とは、この神殿でギフトを授かった後、生前の記憶は全て失い、赤ん坊として生まれ変われることです」

 「……なるほど、つまりはギフトを持った状態で人生をやり直す事ができるのか」


 要は勝ち組人生ってやつか。


 「その通りなのですが、ソータさんには記憶もそのままで、今の姿形のまま転生していただきたいのです」

 「ん? どういうこと?」

 「実はお願いがありまして……世界の何処かに封印されている、私の本体の身体を見つけ出して、解放して欲しいのです」

 「何でそれを、俺に?」

 「理由は二つあります。まず一つはソータさんが違う世界から来た事です。これは転生先の肉体と、今の魂の規格が異なる為に、赤ん坊から転生すると予期せぬ事態が起こる可能性が少なからずあるからです。もう一つ、これが重要なのですが、ソータさんが青魔導士の能力を持つからです。私の封印は青魔導士でないと解けない封印なのです」


 なるほど。

 まあ死んでる訳だし、このままって訳にもいかないか。

 しかし、生き返らせてくれるのは良いけど、青魔導士かぁ……


 「もちろん何年掛かっても構いません。青魔導士の資質を持つ転生者を待ち続けて、既に200年以上経ってますから。それに私のお願いを聞いてくださるのなら、それなりに優遇させていただきますよ。なんと言っても私の本体が懸かっているんですから」


 俺が黙り込んでいると、少し慌てたように言い出した。


 「肉体的、精神的強化と魔力量の増大は勿論、あらゆる言語を理解出来る女神の創造物(アーティファクト)と、更にあの有名な、相手をカエルに変える(かもしれない)恐ろしい青魔法《トード》をお付けします!」


 最後になんか余計なのあった。


 「えーと、本体探しは引き受けますけど、トード? は別に要らないかな」


 「えっ!?」

 「……え?」


 何故か驚いたように口を開ける女神様カエル


 「トードあると便利ですよ。厄介な敵をカエルにできますし」

 「でも小声で、かもしれないって言ってたような?」


 「それに気に入らない人間もカエルにできちゃいますよ?」

 「いや、それやっちゃダメなやつ!」


 なんでこんなにトードを推してくるんだろ?


 「ちなみに、他の魔法とかは?」

 「……ありません。私、青魔法はトードしか使えませんから……」


 ま、カエルだしね。

 俺は紅茶のようなものを飲み干した。


 「ところで、青魔導士じゃないと封印が解けない理由って?」


 取り敢えず面倒くさいからトードネタから離れようと話題を変えてみた。


 「では、世界の仕組みと共に、その辺りもご説明しましょう」


 上手くいった。


 「先程も言ったように世界には魔法があります。そしてこの世界に暮らす生き物はみな魔力を持って産まれてきます。ですが、全員が魔法を使える、という訳ではないのです。魔法が使えるほどの魔力量を有する者は、人口の約2割程度でしょうか」


 それしか魔法が使える人がいないのか、意外と少ない……のかな?


 「そして高い魔力を持つ者は、過去に国家間で取り合いになり争が起こりました。現在は彼らが王族や貴族となり国家の中枢に収まっているため、一応は平和が保たれています」

 

 人より力を持つ者が色々と利用されたり、欲張りになるのはどこの世界でも一緒か。


 「人の持つ魔力の属性は髪の色に現れます。そして魔力が強いほど鮮やかな色彩になります」


 魔法使いの集団と遭遇とかしたら、随分カラフルなんだろうな。

 あ、あれか? 毒を持つ生き物が派手なカラーリングをしてるのと一緒で、危険だから近づくなってことか。


 「そして、私の封印は当時の各国の王の力で全ての属性で施されています。青魔導士ならば自分の属性に関係の無い魔法も使えるので、どうかその力で封印を解いて欲しいのです!」


 だから青魔導士じゃないとダメなのか。


 「つまり、他の属性の封印を解く魔法をラーニングして封印を解けば良いって事かな」

 「そうなんです。かなり大変だと思いますけど、どうかよろしくお願いします」

 「全く知らない世界で一人きりだしな……結構大変そうだけど、まあなんとかやってみますよ」


 200年以上カエルってのも可哀そうな話だしな。


 「そうだ! ソータさんの身の回りのお世話やお手伝いにルナも一緒に連れて行ってください。この子は無表情で愛想はないですけど、魔法も使えますし戦闘力も高いですし、家事全般何でもこなせて、転生後の世界の事情にも詳しいからきっとお役に立ちますよ?」


 なんかとんでもない事言い出した。


 「え? それだとカエル……じゃななくて女神…様が困るんじゃ?」

 「別に困りませんよ? また新しい子を作ればいいだけですから」

 「ん? 作る?」

 「そうです。ルナは私が作ったホムンクルスですから」


 俺はホムンクルスと言われた少女を見る。

 耳の形以外はどうみても普通の人間に見える……普通じゃない程の美少女だけど。


 俺がジッと見ていると、ルナは僅かに微笑んだ。


 あれ? 愛想なくて無表情って言ってたよな?


 「ルナ、今からソータさんがあなたのマスターです。くれぐれも粗相の無いように」


 女神カエルが後ろを向く瞬間、ルナは元の無表情に戻っていた。


 「承知致しました創造主様グランドマスター。 今から私の主はソータ様です」


 そう言って、ルナは俺の座っているソファの後ろに移動してきた。


 いやいやいや、こんな美少女と異世界を旅するって、逆にこっちが困……らないか。

 うん。 

 ちょっと楽しみになってきた。


 「えーと、ホムンクルスって、どうやって作るんですか?」


 照れ隠し気味に聞いてみる


 「ホムンクルスは、馬糞に「マスター!」」


 女神様カエルが答えかけると、ルナが被せるように大声で割って入って、こちらを見ている。


 「ん? マスターって俺のこと?」

 「はい。私の事はルナとお呼びください」

 「わかった。よろしく、ルナ」


 急にどうしたんだろ?


 「それで、ホムンクルスは、馬ふ「マスター!!」」


 女神様カエルが続きを話し始めたとたんに、またルナが大声で割って入ってきた。


 「どうしたの?」

 「いえ、せっかく女神の創造物(アーティファクト)が頂けるのですから、他にも役立ちそうな物がないか、確認した方がよろしいかと」


 それはそうだけど、なんかスゲー焦った顔してるし、全然無表情じゃないじゃん。


 ……それに馬糞って聞こえたような?

 え? この子馬糞でできてるの?

 特に香ばしい匂いはしないけど……むしろなんか良い匂いするし。

 めっちゃ気になるけど、聞いちゃ不味かったかな?


 でも、大丈夫。俺は空気読める子だから。

 貰えるアーティファクトって確か、言葉が解るようになるやつだったな。


 「女神様、他のアーティファクトも貰っても良いんですか?」

 「もちろんです。お好きな物をお持ちください」


 不思議そうな顔をしてルナを見ていたが、女神様カエルは快く承諾してくれた。




 女神様カエル女神の創造物(アーティファクト)をいくつか貰い、俺はルナと一緒に転生門の前に立っていた。


 後ろには女神様カエルと10歳位に見えるホムンクルスの男の子と女の子がいる。

 新しく作ったのか。

 馬糞を使って作ったのかな?


 「ソータさん、ルナ。よろしく頼みますよ」


 女神様カエルがそう言って微笑むと、転生門が大きく光り輝きだした。


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