69.過去の話の前に…
「それは、彼女は今、俺の家に居て、俺の妹になっているからだ」
俺がそう言うと、尾田は…さっきの俺みたいに口をだらしなく開けていた。
「司先輩の妹が…あんたの所に…?」
確かに、普通に考えたら、わからないだろうが…
「ああ、親父たちが先輩の伯父さんから勝ち取ったと言っていたけど…どんな意味があるか考えていたが…」
俺は頭に手をやる…日常を壊す可能性のある存在を監視するために取り入れたんだろうが…娘とか言って…警戒なんてして…いたのか?
あれは全て…演技だったのか?大切な娘と言いながら…その内心…疑いの目で…
「…おい…」
尾田が俺に話しかけてきた
「まだ自己紹介をしてなかったな…」
俺は眉をひそめる
「急に自己紹介とか…どういうつもりなんだ?」
こいつと仲良くするつもりはないが、情報が手に入る。
「協力関係になるんだから、これくらいはしないと」
「月影雅春だ、あんたの通っていた学校の後輩だが、あんたの事を先輩とは呼ばねぇぞ」
別に自己紹介をしたくない訳ではない…それに自己紹介をした仲なら…こいつが嘘を付いていても…確実に、再会して…償いをさせてやる。
「生意気な後輩だな…俺の名は…尾田…ふっ…史一だ。あの女と霧摩先輩とは…幼馴染で…子供のころからよく知っている」
少し噛んだ気がするが…尾田は自己紹介をした
「先輩の子供の頃か…」
俺は少し気になった…見た目や体つきは、女の子らしいのに、行動や性格は男と言うよりも漢な先輩は…子供の頃から…あの性格だったんだろうか?
むしろ、子供の時の方が、内面と外見に差が無く、バランスが取れているのかもしれない。
「今、あの女の過去が、気になっただろうが…俺の話を聞け」
尾田の顔が冷静に何かを俺に伝えようとしていた。
「霧摩先輩の妹は…実の妹じゃない」
それは…俺にとって…彼女を…冥乃が、人間ではない…可能性を増やす…要因でしかなかった…
「冥乃は…小学校の頃に、急に先輩の家に居た。
先輩があの女の遊びに付き合って、木から落ちて足を折った事が原因でだが…」
先輩…やはり昔から…
「それで、何度か見舞いに俺とあの女は言ったんだが…その時に…急に妹と紹介された」
今は、そんな事よりも…冥乃の事に集中だ。
「急に?霧摩の両親は?ふつうは、お家事情とかあるんじゃ?」
尾田は、顔を二、三度横に振ると…
「知らない…そんときは子供だったから…新しい友達が出来た事に浮かれていた。
それに…あの頃の事を考えると…霧摩先輩がとても…幸せそうにしていたから、俺はそれが嬉しかった。」
俺はそう言って…微笑む…尾田を見て…不意に…似ていると考えてしまった…
俺自身に…
俺も…先輩が楽しそうにしていたら…それを…眺めていたい
「少し話がそれたな…でも…それまで。ただ楽しんでいた日々は…急に終わりを告げたんだ」
終わり?
「3人で…仲良くしていた日々は…霧摩先輩が入院してから…あの女が…甲斐甲斐しく、世話を始めてから変わった」