59.辻褄
家は静かだった…
いや…いつも通りの賑やかさだったが…俺がそれを壊した
「なんで…舞華を刺した!?」
俺は冥乃の襟首を掴み…眼前に引き寄せるとそう怒鳴りつけた。
信じたくはなかった…あの場所での冥乃の姿を…
舞華が刺されなければ、俺はあの出来事を忘れて接しようとさえ、考えていたのに…
「政春さん、どうしたんです?」
それなのに…彼女は…笑顔で…俺にそう言った…
こんな状況で…いつもの笑顔で彼女はそう言ったのだ…
「舞華さんが…どうかしたんですか?」
いや…いつもの笑顔ではない…今まで気づかなかったのか、それとも…あの冥乃を見たためか…彼女の笑顔の…微妙な違和感に気がついた…
彼女の眼に感情が籠ってなかった…
俺は、乱暴に冥乃を突き放すと
「政春!?なにやってんのよ!!」
母さんが俺を怒鳴る…なんで…怒鳴るんだ?
母さん達なら…冥乃を止められたかもしれないのに…
そもそも、冥乃が家に来たのは、それを阻止するためだったんだろ?
俺はそんな怒りを込めた眼で母さんを見るが…母さんは俺のこの気持ちに動揺することはなく…俺の目を見てこう言った
「あんた…何か勘違いしているようだから言うけど…冥乃ちゃんはずっと家に居たわ」
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・・
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・・・・
その眼に偽りは無かった…でも…俺は…俺も…冥乃を信じたかったが…
「政春…落ち着こう…」
親父が…そう俺を諭すように…微笑む…だけど…だけど…
俺は…家から飛び出した…
走った…走った…がむしゃらに…走った…走った…
理由なんてわからない…でも…走った…あのとき見た冥乃が俺の見た現実とは違うのではないのかと信じたかった…
それに…冥乃って…いったい何なんだ…先輩の妹…
先輩の妹なのは分かるが…違和感があった…普通じゃない違和感…
俺が見たあの冥乃は…偽りではなく、幻ではなく事実だという気持ち…
気がつけば…俺は…公園に…足を踏み入れていた…
暗い公園は…街灯に照らされ…一見、この薄暗さはロマンティックな気分になると知られた有名な公園だった。
だが、先輩の事件が原因で、この薄暗さは…不気味だった…
先輩が倒れていた場所は…白い線で描かれ…俺は…その場所にまだ先輩がいるのではないのかと…ゆっくりと…ゆっくりと近づいた…
そして…膝を折ると…俺は…
「やあ〜こんな処でまたまた奇遇だね」
急に声をかけられ、俺はその声の方向を見る…桜庭だった
この不気味な中で…まさかこいつに出会うなんて…何かを感じた…
ここの雰囲気が不気味なのは、周囲ではなく…この男なのではないのかと…そう思ってしまった。