55.帰りの夜道
俺は路上地図を見ながら、朽木姉を背中に抱え夜道を歩いた…
途中…朽木姉が…眼を覚まして…少し泣かれた…
「良いか…ボクがお前の前で泣くのは…今だけなんだからな…ボクは…お前なんかに助けを求めたりしないからな…」
泣きながら、俺の背中で朽木姉がそう言うのを、俺は無言で頷いた…
「ああ、お前は強いからな、俺が助けなくても、自分でどうにか出来ただろ?」
俺がそう言うと、朽木姉は…少し黙って…
「そうだよ…このくらいボクは…だから、ボクなんかを助けに来るよりも舞華を…」
「あっ…そうだったな…」
「そうだよ…舞華を…」
このチビに今朝の事を怒鳴り忘れていた
「馬鹿がチビ!!」
「ちっ…チビ!?ボクを馬鹿にするな!!ボクはわかっているんだぞ!!
ボクは実は邪魔者で…いつも二人はボクが邪魔でも…笑って…だから今日の二人でのご飯は美味しくって…」
「喰ってねぇよ」
俺がそう言うと…朽木姉は…えっ…と言って黙り込んだ。
誤解を解くなら今だな
「今朝のあれは事故だ
と言うよりも、お前が蹴り飛ばしたから舞華とキスをしてしまったんだぞ!!
…舞華は初めてだったみたいだから…互いにノーカンとしてだな…」
「事故…ノーカン…えっ…えっ…」
なんか混乱し始めているな…
「だから、誰もお前を邪魔だと思っていない!!むしろ…お前が居ないと…静かで…寂しいだろ…」
俺は気恥ずかしかったが…朽木姉にそう言った…
「ボクが居ないと…寂しい…寂しいんだ♪
ボクの大切さがわかったんだな〜ボクは居て良いんだな〜」
まったく…さっきまで泣いていたのに…もう笑ってやがる…
「じゃあさ、じゃあさ」
なんか朽木姉が体を上下に揺らしながら興奮して俺に何かを言おうとしているが…
「背中ではしゃぐな!!倒れるだろ!!」
普段なら気にならないが…あの…冥乃ちゃん?に叩かれた四肢はその揺れでも限界に…
朽木姉が急に俺にもたれかかり、俺の顎と頭に手をやると…俺の唇に柔らかい感触がし俺の視界に…朽木姉の顔が…それに…俺の口に…何かが…侵入して…俺は…あまりの事に思考が停止した
「………ぷはっ…これも…事故でボクも初めてだけど…ノーカンだから!!別に…雅春なんて…好き…好きじゃ…好きじゃないんだからな!!」
真っ赤になった朽木姉の顔が見える…俺って…いま…このチビに…キスされた?
事故ではなく…チビが…自分から?ノーカン?えっ…えっ?
チビは何か言うだけ言うと…目が泳いで…急に気を失って、俺の背中から落ちそうになったのを俺は慌てて抱き止めた…
これは…どうとらえれば良い?事故でノーカンと本人が言うならそうだが…
「このチビ…俺の気持ちを考えないで行動しやがって…しかも…舌まで…」
自分で言っておいたなんだが…俺も顔を紅くしてしまった…
(随分とお熱い様じゃな)
そんな時…紅玉が…俺に話しかけてきた
(うるさいな…紅玉…気がついていたんなら、何か言えよな?心配しただろ)
俺は紅玉が眼を覚まし、いままでと変わらない様子に喜ぼうとしたが…
(こう…ぎょ…く?なんじゃ?それは、小僧?)
紅玉は…忘れるといったのは本当だった…
(いや、なんでもない…気にするな…石…)
(変な小僧じゃな?まあいい!!早く最後の一回の願いを言ってもらって、妾はあの人に会うのじゃ!!小僧、願い事があれば、妾に言うのじゃぞ〜)
俺は足を止めた…あと一回?そう言えば…こいつが俺に自分の話しをするのは…俺が最後の一回の人物で俺の願いを叶えて、こいつが再会したい者と再会する為だった…。
(あと一回…なのか?)
俺は紅玉に…石に…尋ねた…
(そうなのじゃ!小僧の願いを叶えれば妾は再会できるのじゃ〜)
それは…嘘を言っているような声ではなく…本当に次に出会えるという歓びの意思…
ああ…なんて事だ…あいつが…紅玉が、なぜ…俺に願いを早く言わせたかったのか解ってしまった。
あの時の紅玉は…解ってしまったんだ…忘れている事を思い出した紅玉は…
自分のあと一回の後に…何もない事を…だから…それを忘れたかったんだ…いままでと同じ様に…同じ様に、何も知らない自分に…
よく考えれば…こいつは意思を探して移動できる…意識を失った者が探せぬなら、その可能性として、笹本の意識を探せば、その眼に映る朽木姉の事が解る筈だった…
だから、俺に力を使わせようと…そして…俺の考えが正しければ…
(なんじゃ?何も考えずに…ぼーっと出来るなんて器用な奴じゃな…)
この事に関しての俺の意思をこいつには届かなかった…意識的に拒否しているのだ…
俺は歯を喰いしばって…涙を流した…
(なんじゃ?小僧…涙が出ておるぞ?小僧…どうしたのじゃ?妾には解らぬぞ!!なぜ涙を流しているのじゃ!!)
俺の意識を読んでも解らない事に…俺のこの悲しみを理解できない石は…困惑しか出来なかった…だが…たった一つの事だけが…通じた…
(妾の為に泣かんでくれ!!小僧…お願いじゃ…妾が…小僧に何かしたのか?)
紅玉は言っていた…記憶を失おうとも…妾は妾だと…それに…これは永遠に失われたわけじゃない…あの時の紅玉のように…思い出すかもしれない…
そのときは、この怒りをぶつけてやろう…あの寂しがり屋の紅玉に…だから、それまでは…俺は紅玉との思い出を…ノートに書いて忘れよう…再び紅玉と出会った時に喜べるように…