54.凶刃再び
俺は目の前の光景に…驚いた…
人が刺されたからじゃない、あの凶刃が人を傷つけた事に…
あれが守護をする存在なら自ら斬り込むのは、守護の任ではない。
それなのに…なぜ…笹本を…刺した…
「ぎゃ!!」
笹本が悲鳴をあげ地面に倒れる…そして…光の中に…それは…入ってきた…
それは…俺が…最近…知り合った人物だった…
「冥乃ちゃん…」
鷲見冥乃…もとい、今は月影冥乃…
それは…俺の家族になった…少女の名前…先輩の妹で…今は俺の妹…
まだ知り合って日は浅いが…普通の人で…人の心配ばかりして…
初めて会った時は、何も話さず…初めて会話したのは、先輩の葬式の時…
そして…そのあと…俺の家族になった…
俺は…彼女を見るが…彼女は俺を見てはいない…ただ…無様に苦しむ笹本を…冷たい目で見ていた…そして…再び笹本を刺す為にナイフを振り上げる!?
「なんで…冥乃ちゃんが!!」
俺は冥乃に飛び掛った…彼女に人を殺させない為に…
なんで彼女がとか今は考えない…彼女のことも今は考えてはいけない
考えれば負ける情を持てば拳が鈍る…心が濁る…
言葉ではそれを理解している…
だけど…なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
彼女が俺から距離を取る…
その目は…葬式の時に見た彼女の瞳…涙を流していないが…あのときに感じた…他の人とは違う雰囲気を感じた…
なぜ…いま…こんな事を考えるのだろう…考えては駄目なのに…考えれば、拳は鈍るのに…
(体は熱く、心は冷静に…ただ、相手を仕留めるのみ)
俺は自分にそう言い聞かせる
でも、拳の迷いは拭えず…攻撃は全て空を切る…
「なぜ邪魔をする?」
彼女が俺の行動を信じられないように口にした…
「なぜ…連子を知っているお前が…邪魔をする?」
なぜ…いま…先輩の名前が?そう疑問に思ってしまった…先輩の名が出てしまって…俺の拳が…体が…動きを止めてしまった…
その瞬間…彼女の動きが…攻撃に転じた
振るわれるナイフ…俺の四肢に…痛みが走る…だが、その痛みが俺の体を動かし、後方に距離を取る…
「峰打ちとはいえ、あの連撃で倒れないか…頑丈な人間だ…」
後ろへ距離を取った俺に…彼女はそう言った…
だが…俺の四肢に与えられた威力は…今後の俺の動きを制限するには充分すぎるダメージを与えていた…もう…攻めても無駄だろう…なら…理由を聞いても…もはや構わないだろう…もう拳が迷おうとも心が苦しもうとも…何も出来ないのだ…だから…俺は彼女に話しかけた。
「なぜ…冥乃ちゃんが…笹本を…」
俺はそれが知りたかった…だが…彼女は俺を無視した…
そして…地面で苦しむ笹本に近づくと…再びナイフを振り上げ…表情を険しくさせ
「ちっ…逃した…」
舌打ちをして…そう言った…そして…窓の方を向くと…そのまま闇の中に消えた…
俺は…彼女が消えた窓へ走るが…もう彼女の姿は見えなかった…
そして…俺は笹本を見る…二度目のナイフの振り上げで失神していたが…その背中に怪我は無かった
「なにが…どうなってんだ…」
周囲は…気を失っている朽木姉と…笹本が刺されたと思って怯え腰を抜かした3人の女がいた。
…俺は…怯えた女に近づくと…全員の側頭部に拳底を叩き込んで失神させた…
これで眼を覚ませば、5分10分の記憶は混乱して失うだろう…
これで、冥乃ちゃんの姿を覚えていないだろう…むしろ、こんな事はあまり喋れない筈だ。
俺は朽木姉を抱き上げると…おそらく笹本が仕掛けたと思われるカメラからテープを抜くと、笹本の懐を調べて携帯を見つけると110番通報をした…そして…俺はそのまま携帯を放置して助けてくれ言って、注意をしながら外へ出た。
あとは、警察が処理してくれる…俺はそれを望んだ
自分の位置はわからないが…一刻も早く此処から去りたかった…
朽木姉を苦しめたくなかった…