52.囚われ
「うっ…う…ん?」
あれ?いつの間にボクは寝たんだろう?
あれ…体に力が入らない…それに意識が…混濁しているっていうのかな?
自分の状況が上手く解らなかった…
えっ…と…こんなときは…目に映るものを順々に理解していけば良いんだ
ボクは周囲の状況を確認した
「外…真っ暗…ボク…椅子に拘束…目の前にカメラ…ハンディカム?」
訳が解らなかった…なんでボクが椅子に拘束されているんだ?
確か…笹本の授業の準備室に入った筈なんだけど…その後の記憶がない…
とりあえず…いまボクがすべき事は…
「放せ!!この野郎!!ボクを解放しろ!!」
とりあえず、怒鳴っていまのこの理不尽な怒りを発散する事だった。
ボクは大声で怒鳴りながら、ボクを拘束している物を確認する…
縄跳びの紐だった…テープ類じゃないから、このまま怒鳴りながら、暴れれば縄は緩むだろう…縄が緩んだ後は、ボクを拘束した奴がやって来てくるまえに逃げれば良い!!
戦う事を考えたら、ボクの方が不利だからだ…力が無いし…技の効力は後日発揮…
即効性の力が無いからだ…だから、早く縄を解きボクは逃げるんだ!!
だけど…暴れて縄を解くには、一つ問題があった…ボクが縛り付けられている椅子は…
ボクの足が地面に届かないタイプの椅子だった…
こんな椅子で暴れたら…最悪、転んでしまう!!
この事に気づいたのは、もちろん、転びそうになってからだけど…何とか転ぶ前に気づいてよかった…ボクはこの作戦が駄目だとわかり、怒鳴るのを止めた。
「お前のような餓鬼なら、転ぶと思ったんだがな〜」
その声と共に誰かがこの部屋に入ってきた…
生憎顔を見ようにも、正面は窓側に向けられているせいで、まったく顔が見えない
だけど…聞き覚えがある…えっと…誰だったかな?
「ふん!!ボクが子供じゃなかったから倒れなかったんだろ!!」
なんでこんな状況になったのか解らないけど…下手な態度が自分を苦しめると理解できる。
「はっ、暴れて、倒れそうになって理解するなんて、やっぱ餓鬼だろ?
お前は妹とは違って、馬鹿だからよ」
こんな状況でも…舞華と比較されるの…ボクは…顔を俯けてしまう…
また、ボクは馬鹿にされて…ああ、思い出した
「五月蝿いぞ!!この笹本が!!」
そうだよ!!よく考えれば、ボクを拘束した人物の可能性は、笹本じゃないか!!
この体に力が入らないのも…スタンガンとかで…
「ああ、そうだよ〜刹那ちゃんよ!!」
声質が更に下品になって、ボクは思考を一時中断した。
「まったくよ〜すぐ気づく筈なんだが〜やっぱ子供は、わからないんだよな〜」
背後から近づく気配がボクの心に恐怖を与えた…
そして、椅子の背中に…手を置かれる感覚が気持ち悪い…
撫で回すように肩を触る…脂ぎった手が…ボクの肩を触れていると思うだけで…叫びたかった。
ボクの両肩が掴まれ、勢いよく椅子が反転させられ…眼前に笹本の顔があった…
「まったく、生意気な餓鬼だよな〜先生の事を呼び捨てにしてさ〜」
臭い息を吐きながら笹本がボクに話しかける…
心が…悲鳴を上げていた…助けてと…泣けと…怖くて…
怯えて泣き叫べば…いくらかマシと…だけど…ボクは…
「うるさい!!臭い息を吐きかけるな!!キモイ!」
そんな弱気な心に素直に従うような肝じゃなかった!!
そして…ボクのこの発言に…笹本は顔を真っ赤にさせた…怒りで…
次の瞬間…ボクの頭に強い衝撃が走ったと思うと…体が…床に叩きつけられた…
ああ、いま…ボクは殴られ…その衝撃で椅子が倒れた…殴られたボクは…その事を理解した。だけど…そんなボクに…笹本が蹴りをいれ始めた…
「うるせ!!餓鬼!!何がキモイだ!!五月蝿いぞ!!餓鬼!!チビ!!出来損ないの片割れが!!」
何度も…笹本がボクを蹴る…顔以外の全身を蹴る…蹴る…
「泣けよ!!叫べよ!!お前は誰からも助けられないんだよ!!」
ボクは蹴られながら…あいつの事を思い出した…
あいつの事を気になり始めた時のあれも…こんな風に…悔しかったっけ…
もう少し素直だったら…あいつとボクは…どうなったんだろう…
「お前を好きになる奴なんて、アブノーマルな奴くらいだよ!!…ハァハァ…」
笹本の足が止まった…
「ふん…自分の立場がわかったか!!餓鬼!!」
荒い鼻息を抑えながら、最後にボクを仰向けにするように椅子を蹴り上げた。
ああ…なんでだろう…とても怖いのに…あいつの顔が浮かぶだけで…恐怖を感じない…
あいつがボクを助けてくれる…そう信じているから…だから…ボクは…言い返した!!
「はっ!!アブノーマルしか好きにならない?じゃあ、ボクをこんな風に拘束しているお前の方がアブノーマルにしか愛されないだろ?むしろ、ボクの方がお前よりも好かれている!!拘束した奴にしか、抵抗しない奴にしか威張れない…お前は変態にしか好かれないんだろ!!」
ボクはそう言うと、また息を荒くして、笹本がボクを殴ると思って身構えるが…
「ふっ…ふふ…はっは…ははははははははははははは!!!!」
笹本が、狂ったように笑い出した
「好かれない?俺様が好かれないってか?マジで言ってんのか?」
そして、ボクを嘲る様な口調で…ボクに話しかける…
「ああ、そうだよ!!ボクにはボクを好きだと言ってくれて、可愛いと褒めてくれる人がいるよ!!」
昨日…あいつがボクをボクのままで可愛いって言ってくれた。
その事がボクに力を与えてくれて…ボクの舞華に対するコンプレックスを和らげてくれる。
だから、ボクは自信を持ってこう言えた!!
だけど…また、笹本がボクを嘲るように笑い出し…
「お前、馬鹿か?それはお前のためじゃなく、お前に気に入られて、お前の妹と仲良くなろうとしたんだろ?」
「えっ…」
ボクの思考が止まる…
そんなの嘘だと考えたいのに…そんな考えすらも動きを止めた…
そして、ただ…ボクの思考に映る光景は…今朝の二人…
ボクの双子の妹とボクの事を可愛いと言ってくれた奴の…キスをしている姿…
「へっ…その様子じゃ〜薄々感じていたんだろ?まあ、どうせ月影の餓鬼の事好きだったんだろ?だけど、どうせあの餓鬼は、お前よりも妹の方が好きなんだろ?
みんな言っていたぜ〜お前は邪魔虫だとよ」
急に…ボクは心の支えを失った…怖くなった…
今のこの瞬間も…あいつは舞華と一緒に居るのかもしれない…
ボクのことを気にせずに、舞華と二人っきりで居るのかもしれない…
互いに好きだと言い合って…頭を撫でたり…頬を撫でられたり…キスをしたりしているのかもしれない…
その二人にとって…ボクは…邪魔で…鬱陶しかったかもしれない…
でも…あの二人は…いい奴だから…そんな事を言わずに、ボクに付き合ってくれたんだろう…
「ふっ…自分が好かれていると思って、調子に乗っているからだ!!この餓鬼が!!
ちなみに、俺様には、俺様を好きだと言ってくれる奴がいるぜ!!
おい!!入って来いよ!!この餓鬼に現実を見せてやる」
笹本がそう言うと…あのとき…笹本が…連れていた同級生の女子が入ってきた…淫らな姿で…
「お前が眼を覚ますまで、仲良くしていたんだ
こいつらは、俺を愛しているんだぜ〜初めは照れて、恥ずかしがっていたけどよ〜
いまじゃ〜素直になって俺の事を好きだと言ってくれるんだぜ〜」
笹本がゆっくりと僕に近づく…
気持ち悪い…何を言っているんだ?こいつは…ボクの目には、こいつを好きだという人間の目は…諦め絶望した人間にしか見えなかった…諦め全てを受け入れるしかない人形のような人間…自分の不幸に立ち向かうことも止め…そして、その人間は…次の犠牲者が増える事を…喜んでいる…
自分と同じ仲間が増える事を…そう…ボクがこの後にどうなるかを…語っているようだった…そして、笹本の手がボクの襟首を掴むと…
「そして、お前も俺を好きになるんだよ!!」
ボクの上着は引き千切られた…あいつにも見せたことの無い姿を…ボクは笹本に見られた…
「やめろ!!ボクに触るな!!」
嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!こんな奴に…あいつじゃない奴に…
ボクは…ボクは…誰か…誰か…助けて…助けて!!
「初めは誰だってそう言うんだ…だけど…すぐに好きになるさ〜
それにしても、胸は無いと思ってたけど、まだブラも着けてないなんてさ〜
それとも、ノーブラにして、誘っていたのか?」
気持ち悪い…誰か…怖い…嫌だ…
「嫌…止めて…ボクに触らないで!!」
暴れようとするが…椅子に縛られた手足は動かない…
「柔らけ〜子供のような肌だ〜」
笹本が僕の体を撫でる…胸を…腹を…首を…嫌だ…嫌だ…ボクの初めてが…どんどんこいつに奪われていく…ボクの初めてが失っていく…
「美味そうな唇だ…」奴の顔が荒い鼻息と共に近づいてくる…
嫌だ…なんでボクだけ…なんでボクだけがこんな目に…
だが、寸前で笹本がボクから顔を遠ざけた…そして…
「ああ、安心しろよ…お前だけじゃなく、お前が素直になれば…お前の妹も仲間に入れてやる…あの餓鬼のお下がりだろうけどよ…まあ、すぐに俺のほうが好きになる。
それに、抜け駆けした妹を苦しめることが出来るんだぜ〜俺に感謝しろ」
その発言に…ボクは……………キレタ…
「ふざけるな…舞華に…手を出すな!!」
ボクは唯一動かせる頭を使い…笹本の顔面に頭突きを喰らわせた
「舞華は…抜け駆けとか出来る子じゃない!!きっと、なにかあって…それでボクには言えなかったんだ…それに…舞華を選んだのは、あいつの…意思だ…
あいつに選ばれなかったからと言って…ボクが舞華を裏切れば…あいつは本気でボクを嫌いになる…それに…ボクが…諦めなかったら…ボクにもまだチャンスはあるんだ!!
だから…ここで諦めない…何があろうと…なにを奪われようとも…ボクはあいつの事が…好きだ!!」
ボクは…息を切らせながら…そう叫んだ…
「ざけんな…この糞餓鬼…俺の口に頭突きをかましたと思えば…諦めない?
なら良いぜ…本気で奪ってやるよ!!それで、おまえの好きな月影にも、そこのカメラで映したものを見せてやるよ!!別の男に犯された餓鬼を好きになる奴はいねぇよ!!」
笹本がボクに近づき、片手で首を絞めながら…ボクのスカートに手を伸ばす…
さっき…あんな事を言ったのに…諦めないと言ったのに…僕の心は…また砕けそうになる…スカートが…破られる…嫌だ…嫌だ…助けて…助けて…
「助けて!!!雅春!!!」
「はっ〜来るわけねぇ〜だろ〜現実は…甘く…なっ…」
なんでだろう…意識が朦朧としてきた…さっきから…笹本に…首を絞められていたから…さっきの大声で…空気が…足りないんだ…でも…手足が…自由になった…感じがした…
「朽木姉!!」
あいつが…ボクの事を呼んでくれる声が聞こえ…これが幻聴でも返事をしたかった
「まて…こから…やめ…けて…」
でも…薄れていく意識の中で…なんだか…あいつが…雅春が…ボクを助けてくれた…そんな気がした…