44.暗い夜道で…
俺は…さっきとは違うこの不気味な空気に…体が硬直していた…
さっきまで…俺が…どうすることも出来なかったあの状況を…こいつ…どうやって…
解除した?
あれは、人には防げない…異質な力…認識や知覚を狂わせる…暗示や幻覚に似ているが、より恐ろしく、防ぎようが無い力の筈だった…
そんな力が支配していた状況で…この男は…俺の意識を目覚めさせた。
「くっ!!」
俺は体に力を籠め、左へ電灯の光が届かない闇に飛んだ…
電灯の下にいる桜庭と闇の中で光るナイフを見る
「なんで、逃げるんだい?」
俺が闇の中へ逃げたのを…不思議そうに桜庭は言うが、俺は何も言えなかった。
「ふむ…まあ良いか〜それより…スクープを撮らなきゃ!!」
桜庭が…デジタルカメラを構えた…だが…この闇に…
「これは特別製!!闇に隠れた真実を…激写!激写!!激写!!!」
電灯の下で晒される…この桜庭の行動は…奇怪にしか思えなかった。
サイドステップ激写!バックステップ激写!!反復横飛びしながら激写!!!
これは…基地外としか思えない…だが…この奇怪な行動も…次の瞬間…終わった。
なぜなら…一瞬、揺らいだかと思った鈍く輝くナイフが投げられ…カメラに突き刺さっていたからだ。
「カッ…カメラが…」
ご自慢の特別製カメラを破壊され、唖然と闇の中を見るが…唯一見えていたナイフを投げつけたそれの気配はもう感じなかった…
それに…ナイフを投げる際…後ろへ飛ぶ音が聞こえたから…おそらく逃げたのだろう。
「特ダネスクープの代償がこれか〜ああ、そう言えば、月影君そろそろ隠れてないで…出てこないか?」
特ダネが逃避した事から、俺に意識を戻した桜庭がそう言う…
逃げようと思ったが、相手に認識されているうえに…俺は気になることがあった。
「別に隠れていたわけじゃねぇ…危険だったから、体制を整えていただけだ」
だから、俺は闇の中から出てきた。
「それを一般的感覚で隠れたって言うと思うんだけどな〜
まあ、危険な殺人鬼がいたんだし…普通の人なら同じ事をするさ〜」
へぇ…普通の人ならね…じゃあ…隠れずに、激写しまくったアンタは何だ?
「ちっ…まあ、普通はそうだよな…だが、あんたも災難だったよな
カメラを壊されて…特注品だったんだろ?写真も御釈迦で儲けも…」
とりあえず、俺はこれを知りたかった…カメラが壊れてもデーターはあるのかを…
「確かに…特注品のカメラがこれだよ…マジでへこむよ」
桜庭はそう言って、ナイフが突き刺さったカメラを見せる…
レンズが砕かれいる…だが、何より驚いた事は…
「なんか…このナイフ…普通の百円ショップで売っていそうなナイフじゃねぇか!!」
鈍く光っていた筈なのに…安っぽい感じがするただのナイフだった
こんなものが暗闇の中で光る?
「本当だね…ちょっと、暗闇に持って行って見ようか!!」
俺達は、電灯の下から移動したが…ナイフは鈍く光らなかった…
「これってどう言う事なんだ?」
「さあ…何か仕掛けでもあるのかな?」
カメラが壊れていたのは残念だったが…とりあえず…奴の武器は、素早く代えの利くナイフだと解った…
「まあ、カメラが壊れても、命がある分だけ、儲けもんだな〜
それにしても残念だったな…暗闇の中の人物も綺麗に撮れたんだろ?」
「うん、綺麗に撮れるんだけどさ…現像どうしよう…カメラ壊れちゃったし…」
おい…カメラ壊れたのに現像って…
「なに言ってんだ?カメラは壊れたんだろ?」
「うん、だけどさ…これって、映した写真のデーターは別箇で保存されるんだけどさ…
念のためのプロテクトでこのカメラじゃないと現像できないんだよ…
いや、現像できるんだけどさ…3日以上かかってね〜」
俺は…唖然と…桜庭を見た…
「つまり…そのカメラには…さっきの奴の姿があるって事かよ…」
そして…俺は動揺を隠せない声でそう言った。