43.裁く
家に帰り、食事を終えた俺はコンビニに行くといって、家を出た。
こっそりと出て行っても良かったが…今朝あんな話をした後で、隠れて出て行ったらまた心配させてしまうと思った。
紅玉は、帰宅途中に、名前の由来を聞いてきて、なんか急に怒って黙り込んでしまった。
何か悪い事でも…イミテェーションと思っていた事が余程腹がたったんだろうが…
まあ、いまは…
俺は視覚に笹本を捕らえた。
ほろ酔いを通り越して、完全に酔っ払っている…手には、帰宅途中にコンビニで買ったビールを持っていた。
(酔ってやがる…これで俺の顔を見られたとしても…所詮は酔っ払いの戯言扱い!!)
俺はそう考え、丁度人気の無い道を笹本が歩き出し、電灯の下で足を止めた。
(やるなら今だ)
俺は一気に距離を詰めようとして…不意に…桜庭の…あの話が脳裏に横切った…銀色のナイフを持つ…怪異…の話を…
なぜ、こんな時に…俺はこの話を思い出すんだ?
そんな考えのせいで、一瞬俺の意識が現実から逸れた…その瞬間…
「うわぁ!!!」
笹本が悲鳴を上げた。
見つかったか?俺はそう思ったが…違う…
笹本は、俺がいる方向とは真逆の方向を見ながら、悲鳴を上げていた…
そして…俺も…その方向を見て…我が眼を疑った…
鈍い銀色の光を放つ…三日月のような…ナイフが…暗闇に浮かんでいた…
「つ…辻斬り!!」
笹本がそう言い、逃げ出す動作をしようとしたが…笹本は急にその場にへたり込んでしまった…どうやら、腰が抜けたようだ…
鈍い三日月は、そんな笹本に…ゆっくりと…近づいていく…
「くっ!!来るな!!」笹本が怯えながら、缶ビールを三日月に投げつけるが…
…スパン…
缶ビールはその音がした瞬間…消えた…
斬ったとか、防いだ、避けた、どれでもない…缶ビールは消えたのだ…
「なっ…何の恨みが!!しっ…知らない!!鷲見がどうなったかなんて!!止めてくれ」
急に笹本が…先輩の名を口にした?
なぜ此処で先輩の名が…そうだった!!
この話には…銀色のナイフを持つ者は…先輩の名を呟き…つまり、先輩の事を知っている可能性があるという事だ…
(このまま、笹本が怯え苦しむ所を見ておきたかったが…待て…その前に、なんで、俺には聞こえなかったんだ?)
そうだ…俺は…あの話を聞いていたから、理解できる…だが…なぜ…笹本が…先輩の名を…
(おい!!紅玉!!)
俺は、紅玉と同じ存在の仕業かと思って、声をかけたが…紅玉に反応は無かった…
(肝心な時に…本気で休んでいるのか?)
まあいい…俺は、一気に笹本の頭上まで飛ぶと…笹本の顔面を踏みつけ…(笹本の意識は、この一撃で霧散させた)
三日月の前着地した…
俺の存在を、三日月は認識すると、一瞬動揺を見せた
「なんだ?俺の存在に気づかなかったか?」
俺はまだ姿の見えぬ三日月に話しかけた。
だが、三日月は何も言わない
「なんだ?黙まってたら、肯定と捕らえるぜ?」
俺は無防備な自然体で三日月を挑発した。
電灯の下にいるせいで、より闇が濃く姿が見えない
(くそ…怒っているのかどうかも解らん…)
「黙っているなら、それでも構わねぇが…一つ話を聞かせてくれ…あんたは…先輩…
鷲見連子について…何を知っている?それに…そのナイフ…アンタが先輩を殺したのか?」
俺がそう言った瞬間…三日月に明らかに動揺の気配が感じられ…
「その動揺は肯定にとって良いんだよな!!」俺は闇の中へ飛び込んだ!!
銀色のナイフ目掛けて低い姿勢で走り出す、そして、俺は眼をつぶった…
ナイフが俺に振られる瞬間を聞き逃すことが無いように…意識を集中させるが…聞こえたのは…背後に飛ぶ…音だった…
(どういう事だ?普通…斬りつけてくる筈だが…)
俺の予想なら、斬りつけてきた瞬間に、動きを止め、避わし、そのあと、相手の体の位置を音で測り打つ筈だった…
(これじゃ…相手の位置しかわからないな…だが…こいつは…俺に足音を聞かれず移動できる)
俺は、自然体から、構えを取る…そして、眼を開けた…
距離を取られて、相手に溜めの時間を与えれば、紙一重で斬られる可能性がある…
夜目に慣れてきたが…相手は見えない。
俺は地面を蹴って石を飛ばす!!
石が弾かれる方向から…俺は奴の動きを捕捉しようとした…だが…
俺の目の前で三日月が消えた!!
(そうだよな!!いつまでも自分の位置が把握できるものを見せるはずないよな!!)
普通は逃げたかと考えるだろうが…俺は周囲を警戒する…
周囲で風を切る音が聞こえる…奴は俺の周囲を走り回っているのが理解できた。
だが…それだけだ…
この暗闇で…俺に…奴を仕留める所か…あの凶刃から避けることが出来るのか?
無理だ…まさか…俺はこんな所で…こんな所で死ぬのか?
(死んだ…死んだ…連子が…死んだ…)
なんだ?急に紅玉に映像を見せ付けられたときと同じ感覚がした
(また、失ってしまった…守る者を失ってしまった…)
何を言っている?
(認めたくない…認めたくない…守るのが私の役目なのに…守るのが僕の役目なのに…)
俺を惑わす?いや…目的?…それに…守る?先輩を殺したのはこいつじゃ…
(守護するのが俺の役目なのに…我は失った…守れなかった…私たちは…また…主を守れなかった…)
一人称がおかしい…それに…意思が…ダブる…重なって聞こえる
(憎い…憎い…この身が…憎い…苦しい…苦しい…この身が苦しい…
誰が殺した…誰が殺した…私たちから…主を奪った…我らから存在意義を奪った…
許さない…許せない…殺す…殺す…僕たちの主を殺した存在を…)
俺は理解した…こいつは…紅玉と同じ力を持っている…人じゃない!!
俺の意識に…映像を送りつけている…そして、俺はその情報に惑わされている
完全に打つ手なし…どう頑張っても…意識を惑わされた状態で…敵う筈が…
「なにかあったのかい?」
急に…声が聞こえた
その瞬間…俺の意識が…急にクリアーになる
目の前に銀色の三日月が…奴との意識の接続が途切れたのか…
だが…さっきの声は…俺は片目だけを背後をみる…
「やぁ〜まさか、こんな所で、君とスクープに出会えるなんてね」
桜庭祭が…こんな状況で…自然に…自然すぎて不気味に…笑っていた…