42.紅玉
小僧に、妾は名を貰った
小僧は、妾の事を想ってくれた
妾が、見せたあの苦痛を…察し妾を怒らず…妾を人のように扱った。
妾は…平気だといったが、辛かった
今は、存在しないこの腕が…誰かを傷つける映像を見るのが…苦しかった。
心が穢れていくのが辛かった…
まだ見ぬ…まだ思い出せぬ…愛しい主に汚れてしまった妾を見せたくなかった…
妾は、妾たちの存在を創りし者に…ある契約をした…
それは、再会の約束
妾が司る力…だが、その力は、妾自身には効果が無かった…
だから、妾は願った…再び出会う事を…なぜなら…妾を創ってくれた主は…妾たちを…泣きそうな眼で…見送ったのだから…いや…泣きそうな眼で…妾たちに見送られた…
妾たちに見送られた主は、体だけが残り…動かなくなった。
それから、妾たちは主の体の一部を貰い…別れた…
それぞれの司る事をまっとうする為に…
何度か、再会を果たした事がある者もいたが、妾は主に出会う為に、力を使った…
再会させ続ければいつかで会えると…信じて…
だけど…再会させながら、妾は何かを失っていく感覚を感じた…
それは…今はわかる…妾は記憶を失っている
再会した妾の仲間にも、同じ症状が見られ…妾たちはある結論に達してしまった…
妾たちは、心を失おうとしている事に…そして、初めの犠牲者が出た…
己の司る力を暴走させ…妾の仲間が人を殺した…
彼の者は、己の力は人を助けるのに必要な力だと言って、力を行使し続けた。
治療を司る存在…だけど…そんな存在であった彼は…人を殺した…
人を殺して…殺して…そして壊れた…
ある者は、戦いを司っていた…
理由ある戦い…戦いの掟を忠実に護り…それを犯すものを滅ぼしてきた…
だけど、そんな彼も狂った…理由なき戦いを世界に広げ…全てを滅ぼそうとした…
そして…彼は壊れた…
それから、妾たちは…それぞれの力を恐れ…自身が壊れそうになった時のみ…他の存在に壊してもらうように…頼む事を決めた…
じゃが…妾は嫌じゃった…妾は主に会いたいのに…そんな目的を果たせず死ぬのは嫌じゃ…
だから…我は人の身を捨てた…人の身を…人の身が無ければ…狂っても…何も出来ぬと…
それまでの妾の姿は思い出せない…
じゃが…この記憶は…小僧に紅玉と呼ばれた事で…思い出した…
この名は、主が最初にくれた名前だと…
妾の眼は紅かった…まるで宝石の様に…綺麗だと…主に言われた事を…妾は思い出した…
妾は…この名前を忘れ…人々の噂で言われる…紅の石の名を…妾の名とした…
だから、この名を思い出させてくれた雅春に…妾は感謝した…
じゃから…妾は、雅春に尋ねてしまった…
(雅春…なぜ…妾を紅玉と名づけたのじゃ?
べっ…別に、気に食わんと言う意味ではないのじゃ!!
…ただ…その由来を知りたいのじゃ…)
妾らしくない…そう妾でも思える力の無い言葉だった…
もしかしたら…雅春は…適当に名前をつけたのではないのかと言う不安があったからじゃ…
(んっ…別に、たいした理由は無い)
やはりそうじゃな…
(初めて見たときに…紅い宝石のようだと思ったからさ)
雅春の言葉に…妾は己が熱くなるのを感じた!!
(なっ…何を言うか!!雅春!!
おぬしは、妾を初めはイミテーションと馬鹿にしおってからに!!)
妾は自分が熱くなった理由を、認めたくなくって雅春に怒鳴りつける!
(なんだ!!急に怒鳴りやがって…確かにそう言ったかもしれないが…初めは…)
(うるさい!!うるさいのじゃ!!もう妾は休むのじゃ!!)
少しでも…雅春が主でも良いと思えた自分が恥ずかしくて、妾は雅春の意識から接続を切った…
そして…妾は暗い世界に独りになった…
だが…なぜか…いつもと違って…この暗い世界が少し暖かく思えた…