25.紅の衣
とりあえず、自腹でケーキを注文し、俺は自分を落ち着かせようとして…
あの存在が近づく気配に背後を見た…
「なんだ?そんな風に驚いて振り返るなんて…傷つくな…」
紅い衣の…店長がいた…その手にケーキと飲み物を二つ持って…
「ご注文のケーキだ」
そう言って…確か羅刹と呼ばれた女性は桜庭が座っていた所に座った。
「なっ…」
なんで座るんだと聞くよりも早く
「桜庭から、紅い石の話をしてくれと頼まれたからな」
さっき桜庭が話していたのはこれか…俺はそう考えた。
「我が紅い石の話をするのは二人目だ…少し長いが、のんびり聞け」
そして…店長は語りだした…
紅い石の話を…それは先輩のノートに書かれた話…一言一句違わぬ話だった…
そして、話が終わり、俺は店長に尋ねた…
「俺が二人目と言っていたが…俺の前に誰にこの話を…」
店長はにやりと…背筋の凍るような微笑を浮かべると…
「童の前の人物か?あれは、我によく似た女だった…大切な者との別れを強要され…再会を願った」
俺は…恐れていた…この店長から早く離れて…逃げ出したかった…だが…此処で逃げる訳には…
「なんだ…怖がらせてしまったか童?」
店長は俺の恐れる感情に気づくと…まるで、怯える小動物に向けるような笑顔に変わった。
「すまないな…我は人とはあまり関わっていない為に、たまに怖がらせてしまう」
店長はそう言いながら…俺の頬に手を伸ばし…俺の頬を撫でる…
それは…傍から見たら、優しい…触り方だろうが…俺には…刃物を頬に当てられている気分だった…それに…この人の手は…冷たい…
「そう怯えるな…我は童を傷つける気は無い…だが…」
店長の手が…昨日の怪我のカットバンに触れるとそれを一気に引き剥がされた…
そして…固まりかけた血が再び流れ出す…
「我の前にその美味そうな血の香りを漂わせるんじゃない…」
店長は…その血を指で触ると…それを舐めた…
危険だ…目の前の…この存在…俺は拳に力を込め…
「店長止めるのじゃ!!明らかに怯えておる!!」
誰かの大声で…俺の意識は、急に鮮明になった…いや…いつから俺の意識が鈍っていたのだろうか…
「まったく!!若い小僧を怖がらせて…それより、早く料理を作るのじゃ!!」
目の前に…あのウェートレスがいつの間にか居て…ああ、さっきの声は…こいつか?
「なんだ…盛り付けるくらいで…まさか…神鳥…」
ウェートレスに詰め寄られていた店長は…急に立ち上がると…厨房の方へ走り…
「!!!!!!!!!」
声にもならない悲鳴が聞こえた…
「まったく…妾の料理の腕を解っているであろうに…すまぬな、小僧…店長は…悪戯が好きで…不快な思いをさせてしまった…御代は良い」
やはり…この人は古風な喋り方を…
「神鳥!!また口調が変わっている!!」
奥のほうから、店長の声が聞こえ、ウェートレスは慌て…
「こちらが迷惑をおかけしましたので、御代は結構です!またのご来店をお待ちしています!」
言い直すようにそう言った。
どうやら、古風な喋り方が地で、接客業中はあの口調のようだ
とりあえず…今日はもう帰ろうと俺は考え…店を出ようとしたが…
奥のほうから…
「童…紅い石は実在する…だが…決して死者と再会しようと思うな…」
そう聞こえた…
「所詮…噂話だろ…」
俺はそんな話なんて信じなかった…