22.俺の知らない先輩
知らない事件だった
知らなければよかった事件だった
俺は先輩の事を知っているつもりで、何も知らなかった
何も知ろうとはしなかった…きっと知ってしまえば…いままで道理の付き合いにはなれないと…そう思っていたのかもしれない…
そして、先輩は、俺の事を考えて、この話をしなかったのか?
気まずい関係になるのを…もし先輩が生きていたら…きっと俺は理由を知りたくなっていただろうな…
そして、先輩を傷つけた…だけど、もうそんな事も出来ない…先輩は死んでしまった…
先輩が死んで、俺は先輩の事をいろいろ知り始めている…
だけど…それは…もう…何の意味も…
…………………
……………
………
……
…
いや…意味はある…例え先輩の過去に何があっても…先輩は先輩だ!!
俺の知る先輩は変わらない!!
俺はそう自分に言い聞かせた…そうする事しか今の俺には出来なかった…
うわの空の授業も終わり…俺は…今朝、貰った名刺を見た…
「桜庭 祭…フリーの記者…」
俺はあの記者の姿を思い出していた
軽い天然パーマに黒のサングラス…記者と言うよりも地上げ屋のような姿をした男
先輩の事件の手がかりが…あるかもしれない…
俺は…その手がかりを見つけたら…何をするのだろう…
俺は名刺の裏を見る…
16:40,近くのP…そう書かれていた…Pとは駐車場の事だろう…
学校の施設だと他の記者がいる…なら、近くの100円Pか…
俺は、HRが終了すると…誰かが呼び止める声がしたが…それを無視して…走り出した…
いや、誰か解っていたから止まらなかった…
俺は走りながら…ちらりと後ろを見た…舞華が…後ろの方で…俺に手を伸ばすようにして…立ち尽くしていた…
(ごめんな…舞華…今は何を話せばいいか…俺にはわからない…)
俺は心の中で謝り…駐車場へと向かった…
校門を走りぬけようとした所で…事件は起きた…
「貴方は、鷲見さんのご友人ですね!!ひと言!!」
マスコミどもが…俺の方へと殺到してきたのだ…
こんな肝心なときに…俺は、マスコミの隙間を狙い…何とか、抜けたが…奴らはしつこく俺を追いかけだした…
俺は、追われながら、駐車場の前まで走ると…
今朝の男が軽自動車の窓から俺の方へ手を振っていた…
「君〜こっちだ!!早く乗れ!!」
俺はその男の言うがままに、軽に飛び込むと…
「おりゃ!!僕の獲物に手を出すんじゃね!!」
車が180℃回転し…一気にマスコミと距離を離した
「いや〜自己紹介をしていなかったね〜僕は桜庭祭!!御祭の様に騒がし生き方をするように親が名づけてくれたんだ!!」
暴れ馬のように、揺れる車の中で、桜庭はそう言った…
「俺の名は、月影雅春…先輩の事について…話をしてくれ…」
自己紹介をされたのだから俺も名乗った
「OK、僕も聞きたい事があるから〜情報交換をしよう〜とりあえず、喫茶店でも言ってゆっくり話そう〜何処か良い喫茶店知らないかい?僕ってさ〜いろいろ回っているから、この町の喫茶店わからなくって…」
「良い場所はこの前…出入り禁止をされて…」
桜庭は俺の話しに口をぽかんと開けて…
「いや〜面白い!!それなら、隣町だけど、僕のお勧めの喫茶店を紹介するよ〜」
そう言って、桜庭は、車を走らせ15分…
レンガ造りの中世のような喫茶店へと俺を案内した…
ドアの入り口には、中学生禁止の張り紙が張られていた。
「ここはどこなんだ?」
俺は桜庭に尋ねた
「ここ?神楽坂町のエデンズ・ホロウ、天無って名前の喫茶店だよ」
俺は店の外装を見た…随分と本格的な造りで…白と黒のクラシックな感じだった…
「いらっしゃいませ、お二人様…ああ、桜庭さん、御久しぶりです」
店を見ていた俺に、黒髪のポニーテールのウェートレスが話しかけてきた…
だけど…その服装は…黒い服に白いエプロン…つまり、メイド服のような姿だった…
「やぁ〜神鳥ちゃん、ちょっと取材があるから、いつもの席、空いてる?」
「ふむ…ではなく、はい、店長に聞いてくるので、暫しお待ちください」
神鳥と呼ばれたウェートレスはそう言うと、店の厨房への入り口と思われる扉の向こうへと歩いていった
「おい…ここって…メイド喫茶か?」
「何を言うんだい〜ただの服装なだけだよ〜それにしても、あの子可愛いよね〜
幼馴染の事を好きじゃなかったら…もう告白したいですって感じだよ〜」
知らない相手のことで、うだうだと…だけど…さっきの女…何か武術でもしているのか…
一瞬俺を見る眼が…品定めされているような気が…そう考えていると、店の奥のほうから、神鳥と呼ばれたウェートレスと…
「なんだ…あれは…」
紅の衣を着た白い長髪の女性が…不似合いな黒いサングラスをつけてやってきた
「なんだとは、失礼な餓鬼だな…桜庭、久しいな」
「はい、久しぶりです!羅刹さん、こちらは、今日、取材をする月影雅春くんで、月影君、こちらが、ここの店長代理の羅刹さんです」
なんで…この人は…平然としているんだ?羅刹と呼ばれたこの女性は…明らかに普通の人じゃなかった…人を…何人も殺したような…いや…何人とかじゃない…百、二百を軽く越えるくらいの…
「何だ…我を、そうジロジロ見て…恥ずかしいじゃないか」
照れているのか…もしかして、さっきのは…考えすぎか?見た目の雰囲気に…そう感じてしまったのか?
「とりあえず、羅刹さん、いつもの席を使っても良いですか?」
「ああ、使っても構わない…我は調理に戻る、神鳥も仕事に戻れ」
そう言って、羅刹さんは…厨房へと消えた…
空気が和らぐのを感じた…汗がぶわっと流れる…
「じゃあ、行こうか」
俺は平然としている桜庭の後を歩こうとしたら…腕を掴まれた…
神鳥さんだ…
「おぬし…店長に邪な感情を抱くと殺されるのじゃから、止しとくのじゃぞ」
え?なにか…へんな口調を利いた気が…
「では、御引止めして申し訳ございません」
俺が何かを言うよりも先に、彼女は去って行った…
「お〜い、月影君、こっちだよ〜」
呆然としている俺に、店の奥の席で桜庭が俺を呼んだ…
俺は、返事をするとゆっくりと歩き出したが…この喫茶店…普通じゃない…
そう理解した…