18.月影家
私は、急いで走っていく雅春を見送った…
「雅春は、もう学校へ向かったみたいだね」
いつの間にか背後に居たお父さんさんがそう言った。
「はい、さっき慌てるようにして…お父さんは仕事に行かなくて良いのですか?」
もう八時を過ぎているのに、この人はのんびりしていた。
「雅春さんは、自営業もとい、自宅警護に家事があるから良いのよ」
お母さんが、いつの間にか現われてそう言うと
「なんかそれ、僕が無職みたいじゃない?春夏だって自宅及び周辺地域警護じゃないか!」
「ああ、そうね〜、う〜ん…思い切って、大学でも通ってみる?華の青春時代をもう一度謳歌するのも…許されると思うけど…」
二人の会話を聞きながら…私は震えていた…
「お父さん!!お母さん!!二人とも仕事をしていないって…家の家計簿…どうなっているんです!!」
鷲見家では、いつも私が家計簿をつけていた…レンがつけることが出来ないから…
「ああ、お金の事なら心配しないで〜僕たちが前に働いていた分のお金がたくさんあるから…世界一周なら…30以上可能だね」
30回以上…信じられなかった…だけど…世界一周って…ランクも…
「ちなみに豪遊クラスでよ、あの時は本当に仕事を頑張っていたからね〜」
お母さんがそう補足したけど…
「御仕事って何をしていたの?」
そんなお金が入る仕事なんて私には想像できなかった
「国家公務員みたいなものだね〜SPに近い役割だったよ」
懐かしいそうな表情をしながら…お父さんは言った…
「あの時の貴方は…格好良かったわ…黒いスーツとサングラスが良く似合って…」
お母さんが惚気る様にお父さんにもたれかかる。
「春夏とは仕事中に出会ったね〜」
私の前で二人はいちゃつきだす…
「だっ…だめよ…雅継さん…娘が…見ているわ…」
お母さんが力無くお父さんに抱きしめられながら離れようとするが…
二人は見つめ合っている…
「お父さん!!お母さん!!ちょっと出かけてき…」
二人の邪魔になりそうだったから、私は慌てて出て行こうとしたが…
「ちょっと!!冗談よ!!冗談!顔を赤らめる貴方が可愛かったから…もう少し話を聞いてよ…家族になるんだから…」
お母さんが顔を赤くしながら呼び止めた…
「もう…春夏…恥ずかしい屋がりさんだからね〜それより、玄関で話すより…居間に行こうか〜」
そう言いながら、お父さんは今に向かった。
「ありがとう、冥乃ちゃん…助けられたわ…」
お母さんは落ち着かせるように深呼吸をして…
「私…あの人には敵わないわ…惚れたら負けよね…よく解っているのに…」
そう言う…お母さんは…恋する乙女にしか見えなかった…
見た目も心も高校生にしか見えない…だけど…それなのに…この人には…
その事を…負けたことを喜んでいるように見えた…。
「恋させる経験は豊富だけど…恋する経験が足りないのよね…経験不足で私は嬉しいけどね〜それって、あの人以外に恋をしないって意味にもなるから〜さあ、行きましょうか
雅継さんが待っているわ」
ようやく顔色も落ち着き、私たちは、居間へと向かった。
「家族になるんだったら…雅春の事を話さないといけないと思ってね」
居間に御茶が用意され、お父さんが話し出した…。
「その前に…君は…雅春の事故の話は聞いたかい?」
「握力の持久力がなくなった…事故ですか?」
ダンボールを持ち上げるときの雅春君を思い出した…
取っ手ではなく、下から持ち上げていた。
「あれは、雅春が己を過信…慢心して起こった事故だったんだ」
とても辛そうだった…
「僕たちは、雅春に生き残る強さを持って欲しかった…
生き残る強さを…その為に、僕の持つ技術の一部を伝授したりもしたし…」
「私が持つ技術も教えたわ…人とのかかわり方とか…」
二人は御茶を一口飲むと…
「私たちの技術で…雅春は…力が正義で自分が一番強いと錯覚させてしまった…」
「そして、事件が起きて…雅春は大怪我をした…手を出してはいけない領域まで行ってしまった…その結果仲間に裏切られた…だから、この街に引っ越してきたんだよ」
つまり…月影一家は…その事件で仕事を止め…この街で新しい生活を始めたのだ。
「事件の詳細は、いつか知る事になると思うけど…これだけは…信じて欲しいんだ…
僕たちは…雅春を大切に思っている…今も昔も…そして…これからも…」
まだ出会ってから、一日しか経ってないが…本当に雅春くんを大切に思っていると理解できた。
「これ以上は言わないけど…事件の事は、雅春がいつか話してくれる時が来るかもしれない…だから…それまで、雅春を支えて欲しい…雅春は、連子ちゃんを失って、不安定になっているから…無茶をしないように…止めて欲しい…」
お父さんはそう言って頭を下げた…
だけど…私に何が出来るかわからなかった…