17.思い出
ボクは教室へ走った。
あいつに、あんな事を言われるなんて思っていなかったから…
全身が熱い…可愛いって…ボクに言ってくれた…
あいつと初めて会ったのは…僕のクラスに転校してきたとき…
あいつと初めて会話したのは…それから三日後…
珍しく道場に遊びに来たあの連子の連れだった…
「おう、朽木姉〜ちょっと相談があるんだけどさ〜こいつをおまえの所の道場で鍛えてくれないか?」
連子はそう言いながら、ボクの所に来た…
その頃のあいつは、腕に包帯を巻き…生きる為の根本的な本能が欠けた様な訃抜けた男だった。
そんな奴が…ボクに初めに言った事が…
「小さいな…」
そう…いきなりボクを小さい発言!!普通の人なら相手の気にする事を言わないって言うか、本能的に察するはずなのに!!あいつは…ボクに小さいって!!堂々と言いやがった!!
しかも…同じクラスだったのに…まったくボクに気づいてなく…
「一応、朽木姉は、おまえと同じクラスだからな…まあ、お前の事だ、話してないだろ?」
「話した事ないよ!!こんな礼儀知らず!!」
ボクがそう言うと…あいつは…
「あの五月蝿いのか…小さいから声だけしか解らなかった」
なんて言いやがった!!しかもそれを本人の目の前で言うか!!そりゃ…みんなの発育が良いのは認めるけど…ボクだって…いつかは…舞華みたいに…だからって…
ボクは、あいつに飛びかかろうとしたが、連子が庇うように間に出る。
「おいおい、そんなこと言ったら、朽木姉に失礼だろ〜すまねぇな〜本当の事だから気にするなよ」
もうボクは怒りに身を任せた
「一番礼儀を解ってないのは…おまえだ!!」
ボクは連子に殴りかかった!!
「なんで!?俺が!!」
「あんな事を言って理解してないのか!!」
ボクの拳が…連子の腰に当たる瞬間…
「ほぇ!?」
急にボクの視界が蒼空を写し…体も重力を…そう…僕はいま投げられている…
ボクの体は、反射的に体制を整え、何とか無事着地した。
一体…誰がボクを投げた?
ボクは愚かにも…その事を考えてしまった…
誰が投げたかなんて…もう理解しているのに…
「おい!!大丈夫か?月影!!投げる事は無いんじゃないのか?」
「先輩が…危ないと思った…あれは…急所を確実に…」
後ろからそんな話が聞こえる…やはり…あいつがボクを投げたのだ…
屈辱だった…怪我人に投げられ…そのことに反応し切れなかった自分が…
だから…ボクは…後ろを振り向き…
「これで勝ったと思うな!!ボクはこの道場で弱いんだ!!舞華にでもこてんぱんに負けてしまえ!!」
そう言って逃げ出してしまった…
これが、ボクの因縁の戦いの始まりだった…
それから…リハビリとか言って…あいつは連子と道場に遊びに来るようになった。
初めは警戒して近づこうともしなかった舞華も…いつの間にか…あいつと仲良くなっていた…
ボクだけが…馴染めずにいた…。
そんなある日…ボクは…町で…不良に囲まれた…
いつもなら…そんな事に…苦戦するボクじゃないが…この日は…稽古で足を挫いて…
戦う事も逃げる事も出来なかった…と言うよりも、事の原因はアイスを食べながら歩いていて、ちょっとミスって…相手の服を汚しただけなのに…
「このガキ!!小学生だからと言って許されると思うなよ!!」
中学生に言われるなんて…思わなかった…
「俺の制服をどうするんだ!!チビ!!」
「侘びに、おまえの姉ちゃん紹介しろよ〜おまえと一緒に可愛がってやるからよ〜」
アイスをぶつけた負い目があるからボクは耐えていたが…
チビとか…お姉ちゃんとか…可愛がる?とか言われて…もう我慢の限界が突破していた。
「ボクは、これでも高校生で!!お姉さんだ!!」
ボクは手近な不良に殴りかかるが…
ポス…ポス…と即ダメージが与えられない…ボクは力が無いから…
急所を突いても…即ダメージは与えられない…
次の日激痛に苦しむだろうが…ボクは…いま怒っているんだ!!
だから…いま痛がることは無いはずなのに…
「いてぇ〜な〜骨折れちまった…」とボクが足を叩いた奴は肩を押さえる…
「うわっ…酷いな〜これは、治療費がいるな〜」
奴らは…わざと痛がってボクから…お金を奪おうとしているのか?
最低な奴だ…ボクは…こんな最低な奴に…負けている…
そして…そんな最低に勝てないボクは…どこまで惨めなんだろう…
ボクは腕を掴まれる…
「どうしたんだよ?さっきまでの威勢は?おい?…こいつ震えてるぜ!」
泣きそうだった…
「泣くぜ〜こいつ泣くぜ〜」
泣きたくない…でも…悔しい…悔しいよ…
「なーけ!!なーけ!!」
嫌だ…泣きたくない…泣きたくないよ…
「うっ…うっ…」
我慢しろ…我慢しろ…泣くな!!泣くな!!
「泣くぞ〜泣くぞ〜」
もう…我慢が…
「ぎゃ!!」
限界直前…誰かの呻き声で…奴らの動きは止まった…
「泣け泣け聞こえて…此処まで来たんだが…何やってんだ?」
アイツだった…アイツは…不良の一人を地面に叩きつけていた…
「そんな小さい子を虐めて…さっ!!」
そう言って、アイツは…ボクを助ける為に…奴らと戦った…
だが…お約束と言う展開で…ボクは人質にされ…
あいつは…ぼこぼこに殴られた…そして…無様に地面に倒れ…
もう駄目かと思ったとき…警察が…走り込んで来た!!
アイツは…警察を呼んでいた…それだったら…安全な所で待っていれば良いのに…
アイツは…ボクを助けようとした…
そのときから…だろうか…ボクがアイツを気になり始めたのは…
いや、アイツのことは、前から気になっていた…この事件は…ボクの気持ちを気づかせたのだ…
「刹那ちゃん?どうしたの?」
ボクは急に声をかけられ、びっくりした
「もう授業始まるけど…早く行かなくていいの?」
舞華の担任の先生だった…ボクは慌てて周囲を見ると…
ボクは教室を通り越え…端にある職員室まで来てしまっていた!!
「はっ…はい!すぐに戻ります!!」
ボクはそう言うと、教室を目指して走り出したが…
「刹那ちゃん!!廊下を走ってはいけないですよ!!」
注意されてしまった…これも全部!!アイツのせいだ!!
ボクは心の中で文句を言ったが…頭を撫でられた感触を思い出し…
顔がにやけてしまった…今日は良い日だ〜ボクはそう考えてしまった…
友人が死んだのに…ボクはそう考えてしまったんだ…