9.先輩のノート
懐かしい思い出を思い出した所で、俺は先輩のノートを開いた。
それは…俺がこの町に引っ越してくる一年以上前の事が書かれていた…
俺が知らない先輩の事…そして…先輩が好きだと思う人の事だった。
そのノートの主な登場人物は、先輩と先輩の幼馴染、霧摩司とその後輩、尾田史一…
その二人は、俺の知らない名前だった…ある程度の先輩の知人に俺は紹介されているが…まったく聞き覚えのない名前だ。
俺は、ドキドキしながら、ノートを読んだ…
だが…二、三ページもしない内に…俺の手は震えていた…
先輩は幼馴染の霧摩と言う人物に好意を寄せていた…そして…先輩の日記についに告白する事を決めたと書かれていた…
だけど…其処で日記の日付に空白が出来ていた…それが…一週間続いて…ふられたのか?
そう思ったとき…日記が再開された。
それは紅い石の話だった…
此処から日記ではなく…前に先輩が話してくれた都市伝説だった…
見つからない…見つからない…愛しい人が、大切な人が見つからなかった
私の事を愛してくれて、私も愛したあの人、私はあの人に会いたい
私はあの人と共に居たい、あの人の為に、あの人と私の為に、
その為に私は探す、再び廻り会える筈だから…
そう願い続けながら、私はあの人を探す…自分の足で探していたが、いつしか足を失い、足が使えないのなら、私は手を使い這いながら、探す…
だけど、指を失い、手を失い、腕も失った…それでも諦めなかった…
だけど、私の体は失っていく…胴も失せ、頭だけになっても…私は探し続けた…
いや、もう動けない私は、この世に在り続ける事にした…
いつしか、あの人が、私を見つけてくれると信じて…その場で石になることを決めた…
あの人に廻り会う為に…私は今も待ち続ける…物も言わぬ石になり、あの人を探す為に
私は、今も求め動く、私と同じ悲しみを持つ者を助けながら…いつしかあの人に出会う為に…
前は先輩に話してもらったが…自分で読んでみると…妄執を感じる…
どうして…そこまで…求めるのか…わからない…だが…この話の続きが、次のページに書かれていた…
正確に言うなら…さっき読んだのは、都市伝説の原文で…これがその原文が都市伝説に昇華した物だ…
内容は…離ればなれになった青年が紅い石を拾い、恋人に再会する話
恋人が不良にさらわれ…その石が恋人の所へ導いた話
友人との再会、ペットとの再会、家族との再会…再会に関わる話に…
その紅い石が出てくる都市伝説が、かき集められていた。
だが…俺がその中で…驚いた話は…死者と再会する事の出来た話…
死に別れた恋人に出会い…その恋人と幸せになった…そんな話がいろんなバリエーションで多々存在していた…結末も様々だった…再会した死者にあの世へ連れて行かれるパターンや死者と離ればなれになる…など様々なことが書かれていた
これが何の意味だったか…俺にはわからなかった…
先輩は…この石を探していた…
だが…なぜ…この石を探そうとしていたのか?
それは…再会したい人がいるから、集めていたのだろう…
でも…そこまでして再会したい人物…それは…まさか…
コンコンッ
俺は、ドアを叩く音で顔を上げた。
「雅春くん、お父さんが…ご飯が出来たって…」
俺は、ノートをダンボールの上に置くと
「わかった!すぐ行く!!」
そう返事をした…
先輩は…誰に会いたかったのか…その考えを…俺は放棄した…
馬鹿馬鹿しい…死者に出会おうとしていたなんて…そんな風に否定しようとしたが…
俺の脳裏に過ぎったのは…再会した死者に殺される…その話だった…。