封印の破壊神と毒沼の属性神
とある異世界の毒沼の奥地。
その大きな毒沼の近くに巨大な岩があった。
その岩には『コノ岩ノ封印解クベカラズ。』と書かれてあり、
封印のお札が何枚も貼られていたのであった。
……そこに、ひとつの人影が。
・・・・・・。
「ふぅ……。疲れたのじゃ……。」
わしはトグラス。トグラス・ログロラド。
異世界の偉大なる破壊神さまじゃ!
……とはいっても、この世界の毒属性を司る神に封印されて
しまって動けないんじゃがな……。
あやつ、わしがうるさいというだけでこんなんにしよって!
おかげで外の空気も吸えんわい。
今はなんとか実体化しているから吸うことができるがの。
……ああ。わしの体は煙のようになっていてな、腕に巻かれている
封印の札で押さえつけておかないと体を保てないのじゃ。
「ぐ……。もう限界なのじゃぁ……。」
少しして、腕の力が入らなくなってしもうた。
わしは力を入れるのを諦める。
体が薄く広がり、空気に馴染む……。
(うぅ……ぐ……ぅ……。)
更には顔の形も維持できなくなり、煙となって散っていく……。
この感覚、いつになっても慣れんな……。
(ぐぐ……。はぁ……はぁ……。)
空気が渦巻き、岩にまとわりつく……。
そしてわしはいつものように封印の岩の中に閉じ込められて
しまったのじゃった……。
(くぅ……。なんていう屈辱じゃ……。)
毎日こうやって体を維持するための修行をしとるんじゃが、
なかなか報われん。
しかもこの岩、わしには少し小さい。
長い間ここに封印されているが、なかなか精神的にくるのじゃ。
(……だれか来ないのかのぉ。)
わしはいろんなことが話せる。
異世界の英雄の武勇伝や異世界のゲームキャラクターの名言。
今ならタダで話してやるぞい!
・・・。
(……うぅ。)
寂しいのじゃぁ……。誰か……。
誰かわしの話し相手になってくれぇ……。
「……哀れだな。トグラス。」
(……のじゃ!?その声は!!)
そうわしが考えておると……目の前にあやつがおった。
ボムッ!!
わしは急いで実体化する。
「ケロス!お主来てくれたんじゃな!!」
わしは目の前のやつの肩をバシバシたたく。
それほど嬉しかったのじゃ。なんせ目の前におるのは……。
「トグラス。ワシはお前に叩かれる仲ではないが……。」
わしを封印した張本人。毒神の『ケロス・チェルノフス』であったからじゃ。
・・・・・・。
(うぅ~……。なにするのじゃぁ~……。)
わしがあやつの肩を叩き続けていると突然、あやつがわしの体を
かき乱し始めた。
その時の感覚といったらもう表現できんな……。
強いて言えば……わしという存在を消されるような感じかの。
そしてわしはまた岩の中に戻される。
「トグラス……。ワシの体に気安く触るんじゃないぞ……。」
(だって……寂しかったんじゃもん……。)
どうやら怒っているようじゃ……。
このままこやつは帰ってしまうのか……?
「……まあいい。今日は少し遊んでやろうと思って来たのだ。」
(のじゃ!?それは本当か!?)
思わぬ収穫じゃ!これで気が晴れるというものじゃ!!
……ぬ?まて。こやつの趣味は実験じゃったな。ということは……
「お前を実験台として使ってやろうと思ってなぁ……?」
(のじゃああああああああああああああああ!!!!)
まずいのじゃ!こやつの実験台なんてたまったもんじゃない!!
早く逃げないと……って逃げれないのじゃああああ!!
(ぬぐっ!?)
するとわしの体が何かに引っ張られる。
これに負けたらあやつの言いなりなのじゃ!!
だからわしは必死に抵抗する……。
(ぐぬぅ……!の、のじゃぁ……。)
駄目なのじゃぁ……。封印の札が反応して力が入らないのじゃぁ……。
シュルルルルルル……
(うああぁ……。)
そして、わしはひょうたんのような入れ物に吸い込まれる。
シュルルル……キュポン。
わしの意識がそれに入りきると、わしはかき混ぜられる。
だんだんと、わしの体が液体になっていくのじゃぁ……。
・・・。
「……ふむ。実験は大成功……っと。」
(きゅぅ……。)
うぅ……。わしは今どうなっているのじゃぁ……?
体のどこがどこかわからなくなってきたのじゃが……。
液体になってしまったわしはひょうたんの中でちゃぷちゃぷいいながら、
かすかに残る意識で考える。
「それじゃあなトグラス。いい結果が得られた。」
(な……何を言って……。)
バシャアアッ!!!!
(があああああああああああああああっ!?!?!?)
すると、あやつ。液体になったわしを封印の岩にぶっかけたのじゃ。
それはもう死んだと思うほどの感覚で、わしの意識はそこで途切れたの
じゃった……。
・・・・・・。
(うぅ……。)
わしは目を覚ました。
頭がすごく痛い気がするのじゃ……。
ズキズキと……このへんが。
(…………。)
わしが目を覚ましたときには、もうケロスのやつはいなかった。
(……むむ?)
その代わり、ひとつの手紙が岩に貼られていたのじゃった。
わしは実体化して、その手紙を読む。
『トグラス。
お前が目を覚ましたときには、もうワシはいないだろうな。
今回の実験で、霊体が液状の体になれるということが分かった。
まだまだ改良は必要だろうが、まあ何かに使えるだろう。
また実験台になってくれることを楽しみにしている。
ケロス』
「おぉこわいのじゃ……。ガクガクブルブル……。」
わしはそれを読んで身震いする。
あやつがこれ目的でくるとしたら大問題なのじゃ……。
また死ぬような思いをさせられると思うと……ああこわいこわい。
「……まあそのときはそのときじゃ。」
それでもわしは今のことしか考えられぬ。
何か変化が訪れるまで永遠に待たないと何も起こらないのじゃ。
これもそのひとつ。素直に受け入れることにしようかの。
・・・。
大きな毒沼が広がる大陸の奥地。その大きな封印の岩には
破壊神トグラスが封印されている。
破壊神トグラスは、いつか自分の封印を解いてくれる者が現れる
日を今か今かと待っている。
(誰か来てくれぇ~……。)
……と、一人さびしくつぶやきながら。
トグラス(しかしあれはひどかった……。一瞬、冥界の門が見えた気が
したからの。……あぁこわいこわい。)