-阻む刃-
「どうして……どうしてお前がここに……!」
「なんだ……悠人か……」
「答えろよ……答えろよ響也ッ!」
セナがエレナと戦闘を行っている間に介入してきた銃弾。
それを撃った敵を見つけ出すために走った。
そして、木々の茂る森の中で目の前に現れたのは、親友であり、連れ去られたはずの響也。
「逃げた方がいいぞ、悠人」
「んだと……?」
「俺は……自分で自分が抑えられない。お前は殺したくないんだ。早く逃げてくれ」
「おいおい、俺だって戦えるんだ。お前こそ、早くこっちに戻ってこいよ……!」
『魔法弓アポロン』を構え、弦を弾く。
それだけで魔力の矢は響也をロックオンした。
対する響也は、スナイパーライフルらしきものを横に置いており、すぐには行動不能だ。
足を撃って、連れて帰る……!
「はぁッ!」
「く……っ! 逃げろっつっただろうが!」
弦を離した瞬間、矢が高速で放たれた。
防御する術なく足を吹き飛ばし、捕えられる。
そのはずだった……
だが、現に響也は無傷。
そして、その手には3本の短剣が握られていた。
「防がれた……」
「どうなっても……知らないぞ……ッ!」
「ちっ……くしょう!!」
驚いたのも束の間、今度は3本の短剣が真っ直ぐに飛来してくる。
投剣ってことか……!
自己強化魔法『クイック』により投剣を寸のところで回避した。
だが……
「『セット』」
響也が右手を掲げたまま、小さく魔法を詠唱した。
何が起こるか分からない。
意識をすべて、なにか行動を起こすであろう響也に向ける。
しかし、衝撃は背後に響いた。
ドッドッドッ!と、鈍い音を立てながら、回避したはずの投剣が全て俺の背中に深々く刺さった。
「がは……ッ!」
木からジャンプして回避していた為、そのまま衝撃に流されて地面に落下する。
出血の量がやばい。
そして、何よりも恐怖を感じたのは……
「い、痛い……ッ!? ぐぁぁぁぁぁッ!」
何なんだこの痛みは。
かけっこでこけた時の次元を遥かに凌駕する痛みだ。
それもそうか、剣が背中に刺さってるんだもんな、3本も。
普通に生きていて、剣が体に刺さるなんてことまず無い。
響也の呟いた『セット』という魔法、投剣をブーメランのように使えるのか……
「う……おぉぉぉぉッ!」
声を上げて背中の剣を抜き取った。
更なる激痛が体を蝕むが、その痛みも徐々に癒えていく。
『魔法弓アポロン』に魔力を流し込むことで自動的に発動する『リジェネレーション』のおかげだ。
「待ってろよ…………!」
「何がだよ?」
「俺がお前たちを……ッ! 助けるから……ッ!」
「……ッ!」
「響也ァァァァッ!!!」
涙で視界がぼやけてしまうが、そんなものお構い無しだ。
アポロンの弦を思い切り引き絞る。
すると、自動的に矢が出現し、強く発光した。
だが、まだだ。もっと引ける。
『魔法弓アポロン』の性能である、引けば引くほど射程と威力が上昇する効果が発動しているのだ。
「"矢よ輝き穿て"ッ!」
省略詠唱を早口で唱え、更に強く弦を引き絞る。
そして、放つ。
放たれた矢は幾多にも分裂し、瞬時に数百本にもなる。
それはグングンとランダムに軌道を変えながら響也に直撃した。
何も見えないほどの砂煙が辺りを覆う。
多対象攻撃魔法『ライトニング・レイ』。
これもフラムとともに編み出したオリジナル魔法のひとつだ。
自動的に狙いをつけ、対象に当たるまで追尾をやめないホーミング性能を持った強力な矢だ。
それをひとりに10本。
下手をすれば殺してしまうほどの過剰攻撃だが、今の響也なら生き延びてくるはず。
もうすぐ砂煙が晴れる。
「う……あ……」
「響也……ッ!」
響也は身体中から煙を発しながらも立っていた。
だが、その目は狂気の色に変わっている。
青色の目。しかも、光っている。
「本体ノ激シイ損傷ヲ確認。身ノ安全ヲ守リ、撤退シマス」
「は……? 何言って…………ッ!」
「リミッター解除」
おおよそ人の声ではない音を発したと思ったのも束の間、響也の投げた投剣が悠斗の首を浅くだが確実にかすりとった。
まずい……ッ! 見えなかった……ッ!!
全身と脳まで加速している悠斗でさえ投げるモーションすら見えなかったのだ。
「こんなの無理……ッ!!」
思い切り地面を蹴って後ろへ跳ぶ。
だが、響也はその程度では振り払えない。
6本の投剣が一直線に飛来する。
『クイック』と『バーサク』に頼って寸のところで迎撃に成功した。
『セット』の詠唱は聞こえない。
なるほど。投剣に触れられると『セット』は対象外になるらしい。
だが、こんな事が解決したところで驚異的な速度で攻撃する響也には抗うことも出来ないだろう。
「ちっ……いったいどうすれば……」
呟いた瞬間、目の前に響也が現れた。
また見えなかった……ッ!
そのショックに、回避しようとした足が絡まってバランスを崩す。
万事休すか……
けれど、それを阻む影が目の前に現れた。
「ど……けぇぇぇぇッ!」
高速で振るわれた短剣を全力で弾き飛ばしたのは、セナだ。
『エンハンス』で『衝撃属性』を付与された剣は触れた瞬間に衝撃を発生させる。
それを利用して響也を吹き飛ばしたのだ。
吹き飛ばされた響也は10メートル以上先で立ち上がる。
「新タナ脅威ヲ確認。撤退シマス」
不利を悟った響也は背後にインスタントを投げた。
おそらく『ループ』の魔法が刻まれている。
「ま、待てよ響也ッ!! 今度は……今度は助けるからッ!」
地面に四肢をついたまま倒れていた悠斗が手を伸ばして叫ぶ。
その頬には涙が伝っていた。
目の前の友人を助けられなかったのがよほど悔しいのだろう。
だが、だが……
悠斗の涙は、悠斗を裏切らなかった。
「弟子たちがワイワイしてると思ったら、なんだこのザマは?」
天から聞こえたその声だけで、響也の背後に展開されつつあった『ループ』のインスタントが破壊された。
凄まじい量の魔力をぶつけたのだ。
「まあ、私は優しいからな。今回だけ助けてやる。こいつの相手は私がやる。お前らはベルの所へ急げ」
最強と名高い王専属魔法使いフラムはそう言って、たなびくローブから1本の短剣を抜き取った。
響也がフラムに気を取られている今がチャンスだ。
「悠斗! 行くぞッ!」
「でも、響也がッ!」
「お前はフラムの実力わかってるだろ! 俺達がここにいても邪魔なだけなんだ! ベルの援護に行くぞ!」
「あ、あぁ……ッ!」
先程まで金属のぶつかる音が響いていた場所へ走る。
今は何の音も聞こえないが何が起こったのだろうか。
ベルが相手を制圧したのか。
もしくはその逆……
何がともあれ急がないと……!