-秘剣-
カッ!と金属同士がぶつかるにしては不気味なくらい軽やかな音が響いた。
軽やかな音の衝撃で地面はクレーターと化す。
これは軽い音などではない。
月詠とデュークの戦闘があまりにも速すぎるせいで音が追いついていないのだ。
正確には、武器がぶつかり音が鳴る時、本来の衝突音が発せられる前に次の衝突に変わっているのだ。
だから軽い音しか聞こえない。
2人の戦闘は世界の理を置き去りにしている。
脳へ送る魔力の量を増やし、『バーサク』を強化。
まだ見えない。
もっと……もっとだ……!
さらに魔力を増やそうとしたその矢先、身体が震えた。
いや、痺れたという言葉の方が正しい。
まるで静電気を受けた様な……
まさか……
加速された視覚の隅で一筋の稲妻が光った。
同時に身体が再び痺れる。
そして……
衝突音と衝撃が止まった。
最後に巨大な音を響かせ、大穴を空けて。
「へぇ……速いね……ゴフッ」
「チッ……何笑ってやがる……」
大穴の中心に2人の影が。
それは口から血を吹き出しながらも笑うデュークと、大剣をデュークの心臓に突き刺したティルだった。
ティルにはあの速度が見えたのか……?
いくら覚醒魔法を使っているといえど、電気で脳の処理速度を強制強化した所で限界はある。
その限界を超えているというのか……?
いや、そんなことをしたら身体が……
「"翔ける意志のブリューナク"」
「『メルトサンダー』ッ!」
デュークの詠唱は俺の覚醒魔法を完封した魔法だ。
一方のティルの魔法は雷系統最高峰の領域魔法『メルトサンダー』。
一度だけ目の前で見たが、50体ものホロウを一瞬で焼き殺したとんでもない魔法だ。
ティルは飛んでくる槍を吹き飛ばすつもりらしい。
あの火力なら可能なはず。
地面に巨大な黄色の魔法陣が展開され、視界が真っ白に染まった。
次に爆発音。
周りの建物全てが倒壊したのだ。
なんという威力。
前は加減していたのか……
視界が晴れる。
『魔力視』で確認しようとしたが、視界が悪い原因もまた魔力。
辺り一帯高濃度の魔力だった。
だからどうなっているかは分からない。
「テメェ……」
「残念だね……君に『資格』はないらしい」
ティルが倒れた。
槍で胸を貫かれて……
一方のデュークは余裕の笑みを浮かべている。
ティルの一撃で致命傷を受けたはずなのに、その傷の痕はどこにもない。
「隙を見せたな……『秘剣・月食』」
「何を見せてくれるんだい……?」
いつの間にかデュークの背後にいた月詠が黒刀を振るった。
おそらくデュークには再生能力がある。
何をしても無駄。
一撃で消し去る他ない。
デュークは自信の能力に自信があるらしく、動こうとはしない。
黒刀がデュークの右腕を捉えた。
その瞬間。
「へぇ……ッ!」
「く……ッ!」
デュークの右腕が消滅した。
まるでその空間だけが切り取られたかのように。
面食らった表情のデュークに月詠が黒刀を向ける。
月詠の『秘剣・月食』はおそらく空間を斬り裂く技だ。
再生能力が癒すのは物理的な傷だけ。
空間切断は対処できない。
「そんな技、あの時は使えなかったのに……」
「馬鹿を言え。不意打ちであっただろう」
「だけど、もう魔力は残ってないだろう?」
「ッ!」
あの剣技は魔法との組み合わせだったわけか。
空間魔法に位置付けされる空間切断は魔力を大幅に消費する。
女神を自称する月詠でも魔力は残っていないだろう。
看破された月詠が動揺する。
フラムとティルもやられ、月詠は魔力切れ。
残っているのは現状無力な俺だけ。
「さあ、後は君だけだ、『資格』を持つ者よ」
「資格……?」
「そう。僕の仕事は世界の均衡を保つこと。バランスを崩す者は消さねばならない。例えば、フラム・レイズの様な」
「フラムは強いだけだ……ッ!」
「それがいけないのさ。彼女が存在するには時代が早すぎた。今のこの世界には釣り合わない」
そんな理由で殺されたというのか。
許せない、そんなこと。
俺に『資格』があるとかどうでもいい。
再生能力があるなんて関係無い。
腹を貫かれているなんて大したことじゃない。
「命懸けでもお前を倒す……ッ!」
「そう……それでいい……ッ! 僕を殺してくれ……ッ!」
デュークの顔は狂気に充ちていた。




