-速の刀と武の大剣-
セナの後ろ姿が見えなくなった。
ここには月詠とティルしかいない。
「クハハッ! お主、正気か? 大剣で刀に勝てると本気で思っているとは……愚かな」
「どうだろうなァ……」
確かに月詠の言っている事は正しい。
速さの刀と力の大剣。
そんなもの誰もが刀が勝つと言うだろう。
力技など、当たらなければ意味が無い。
大振りの大剣では隙だらけ。
セナの『ディバイン』を見切る瞬発力を持つ月詠には尚更勝てない。
そう、普通の大剣使いならば。
ティルの身体に一瞬、ピリッと静電気程度の電気が走った。
そして、ティルの姿が掻き消える。
「馬鹿な……ッ! 余が知覚できない速……ぐッ!」
「馬鹿はどっちだァ……ッ!」
ティルの大剣が横薙ぎに振るわれ、月詠の体が吹き飛んだ。
バチンバチンとティルの体を電撃が弾ける。
何メートルも吹き飛んだ先で、月詠が震えながら立ち上がった。
ティルが大剣の腹で殴り飛ばしただけなので、斬られてはいない。
ただ、とんでもない衝撃を全身で受けたのだ。
それでも気絶していないだけ流石の身のこなしだろう。
恐らく殴られる寸前、少しだけ身体を浮かせてダメージを軽減した。
「何故余が知覚出来ぬ。時間停止でも見切れた余が……ッ!」
「気付かねぇかァ? テメェの脳に電気送って鈍らせたんだ、そりゃ見えねぇよ」
「それ程の技術……お主、ただの強者じゃあるまいな」
「その通り。オレは最強の魔法使いを追っかけてんだ……テメェなんて目じゃねぇ」
ティルが大剣で空を斬る。
同時にティルの纏う雷が一際激しく光った。
もう近づくことも出来ない。
これがティルのオリジナル魔法、過去にセナ達との戦闘で使った『プラズマ』だ。
『プラズマ』が雷を纏うのは何も体だけではない。
自らの脳、筋肉に電撃を流し、人の限界を超えた動きを実現する『覚醒魔法』なのである。
一歩間違えれば己が死に至る。
そんなことは百の承知だ。
それでもティルは自分の魔力コントロールの技量を信じている。
恐らく彼は魔法界で最も努力して実力を得た魔法使いなのだ。
「分が悪い……いや、全人類、全魔法使いにとってお主は天敵なのだな……」
「どうだろうなァ……オレはいずれ最強の魔法使いになる男、そこらの雑魚相手に負けてらんねぇんだ」
「霧との戦闘でも手を抜いていたのか……恐ろしいな、お主」
「普段は使わねぇからな。評価してやるよ、テメェはオレに奥の手を使わせてるんだからなァ」
月詠が戦意を失ったかのように振舞った瞬間、月詠が高速移動した。
ジャンプ回転しながらの斬撃。
重力と遠心力を乗せたかなりの強攻撃だ。
だが、その程度でティルは動じない。
「甘ェ……ッ!」
「放電……ッ! どこまでも厳重な男よ……ッ!」
「一見して分からねェとは……舐めてんのかァ?」
「いや、油断したのはお主だ」
「フンッ! くたばッ……れ……」
ティルの纏う『プラズマ』に弾かれたはずなのに、ティルはその場に膝を着いた。
月詠の握る黒刀の先端にうっすらと血の跡が。
「真に美味である。お主を評価してやろう」
「『魔力吸収』かァ……だがなァ……油断したなァ?」
「負け犬の遠吠えか? デカイのは口だけの様だ……ッ!? 何だッ!」
黒刀の性能により魔力を抜かれ、絶体絶命のティルを救ったのは一発の銃弾だった。
放たれた銃弾は月詠の左肩を見事に捉え、撃ち抜いた。
月詠は攻撃手を探すがどこにも見当たらない。
ここ一帯を完璧に索敵しているのに……
まさかそれ以上の距離から?
「有り得ない……半径1キロメートルだぞッ!? それ以上の遠距離攻撃など……魔法でも銃火器でも不可能だッ!」
「どこ見てんだァッ!?」
「チッ! ぐぁッ! 余の範疇を越えている……ッ!」
魔力を吸われ、地面に膝を着いていたはずのティルの大剣による殴打が完璧に月詠を捉え、吹き飛ばした。
ティルが動ける理由は単純。
たった一太刀ではティルの無限に等しい魔力の全てを吸収出来なかったのである。
バチバチと電撃を荒れさせながらティルは大剣ガラティーンを掲げた。
「そいつの身体、返して貰うぞ」
「ッ! この気配は……ッ!」
「どこ見てやがるッ!」
「気が変わったッ! お主の相手は後だッ! 『壱ノ太刀・新月』ッ!」
「何だと……ッ!」
何かの気配を感じ取った月詠が刀を振らずにティルの大剣を弾き返した。
誰にも見えない意志の刃、不可視故に不可避の斬撃、それが『壱ノ太刀・新月』。
集中力を必要とするため連発は出来ない。
有り得ない現象にティルがバランスを崩した隙を狙って月詠はその場を飛び去った。
とんでもない跳躍力で王国へ向かっていく。
これ以上王国に被害を与えるわけにはいかない。
ティルは大声で叫んだ。
「悠斗ッ! やれェェェッ!」
遥か2キロメートル先にいる狙撃手に向かって。




