-最強、敗れる-
「師匠ッ!」
「分かっているッ! 『ファフニール・ブレス』ッ!」
全てを貫く熱線が放たれる。
が、それはその男にいとも簡単に打ち消された。
その男は身体にピッタリとフィットした黒色のスーツを来た槍使い。
その戦闘スタイルは蹂躙そのものだった。
「フラム・レイズと言ったね? この程度で最強とは……最強の名が聞いて廃るよ」
「何、まだまだ序の口だ。最強の魔法、とくと味わえッ!」
「いえ、勝負は既に着いてるよ。僕の……勝ちだ」
「何を言って……ぐぁッ!」
塔の上から悠斗達を見下ろす姿はピクリとも動かなかった。
それなのに、今の一瞬でフラムに攻撃は届いた。
フラムの左脚を1本の槍が貫き、地面に突き刺さっている。
「あぁぁぁッ!」
「まだまだ……」
「師匠ーッ!」
「来るな、悠斗ッ! セナを助けに迎えッ! 戻ってきてるッ!」
「でも、師匠がッ!」
「早く行けッ!!」
ここまで言われて従わない訳にはいかない。
大丈夫、師匠は最強だ。
こんなやつに負けたりしない。
悠斗はフラムに背を向け走り出した。
直後、ドスドスッ!と何かが肉を貫くような音が聞こえた。
それでも振り返らない。
走って走って走る。
「さて、そう簡単に死なれては困るんだけど……」
「安心……するといい……私は……タフだからな……ッ!」
「つまらないね。"穿つ必殺のゲイボルグ"」
それは詠唱だったのか。
男の頭上に群青色の槍が現れた。
そして、それが姿を消す。
かと思えばフラムの心臓を寸分狂わず貫いた。
同時にフラムの身体にいくつもの穴が空いた。
「……ッ!」
「もう声も出ないかな。さて、次だ……やっぱりセナ・レイズは殺しておくべきだったな、あの時に」
そう言い残して男は姿を消した。
火の海に残されたのは2本の槍に貫かれ、全身穴だらけのフラムの亡骸だけだった。
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どうしてこんな事に!
今回はピンチばかりじゃないか!
月詠の黒刀が俺のデュランダルにぶつかり、凄まじい衝撃が体を叩く。
「どうした童、もう魔力のが底をつくかッ!」
「ぐぅぅ……ッ! こんな困難……ッ!」
「クハハッ! 『弐ノ太刀・三日月』ッ!」
距離を取った月詠が黒刀を空振りする。
ミス……?
と思った瞬間、黒色の魔力の塊が俺に向かって飛んできた。
あまりの速さに回避出来ず、デュランダルで受け止める。
「ほう、弐ノ太刀を止めるか。まだやれるようだな?」
「はぁ……はぁ……『魔力視』が無かったら死んでた……!」
デュランダルで無理矢理受け流す事に成功したが、腕の痺れが限界だ。
もうデュランダルを握っていることすら難しい。
フラムがいてどうして王国がやられてる……
まさかフラムを超える実力者がいるのか、『背理教会』に。
いや、フラムは最強の魔法使いで……
「他のことを考えている暇があるのか?」
「ッ!」
「舐められたものだな、余もッ!」
グラッと身体から力が抜ける。
気付くと腕を浅く斬られていた。
「しま……ッ!」
「残りカスだが悪くない味だ。余を満たすには足りんがな」
「こ……の……ッ!」
また同じ負け方をするなんて……
身体が重い。
ジャキン、と仰向けに倒れた俺の首筋に刀が当てられる。
王国を包む炎の光が黒刀に反射して幻想的に輝いた。
どうする……こんな所で死ぬ訳には……!
「世話焼かせやがってッ!」
「新手か……」
叫び声とともに雷が落ちた。
白いローブの大剣使い。
王専属魔法使いティル・フェレラルがそこにはいた。
「なんて情けねえ面してやがる、セナ」
「師匠……」
「ほらよ、こいつ使って王国へ行けよ」
ティルが俺に投げつけたのは1本の瓶だった。
その中には水色の液体が。
『魔力ポーション』。
名前の通り飲んだ者の魔力を強制的に回復させる薬だ。
こんな貴重な物、よく投げ渡せる。
俺は未だに倦怠感のある身体を無理矢理動かしてポーションを飲んだ。
倦怠感が抜けていく。
よし、動ける!
「余計な事を……」
「テメェの相手はこのオレ、ティル・フェレラル様だァ……セナ、行けよ」
「あ、あぁ! 頼んだぞッ!」
「誰に口聞いてやがる。舐めんじゃねェぞ」
俺は完全回復した身体を勢いよく起こし、『クイック』で王国へと走り去った。
待ってろみんな……今助けに行くから……ッ!




