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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界の危機編
62/66

-最強、敗れる-

 

「師匠ッ!」

「分かっているッ! 『ファフニール・ブレス』ッ!」


 全てを貫く熱線が放たれる。

 が、それはその男にいとも簡単に打ち消された。

 その男は身体にピッタリとフィットした黒色のスーツを来た槍使い。

 その戦闘スタイルは蹂躙そのものだった。


「フラム・レイズと言ったね? この程度で最強とは……最強の名が聞いて廃るよ」

「何、まだまだ序の口だ。最強の魔法、とくと味わえッ!」

「いえ、勝負は既に着いてるよ。僕の……勝ちだ」

「何を言って……ぐぁッ!」


 塔の上から悠斗達を見下ろす姿はピクリとも動かなかった。

 それなのに、今の一瞬でフラムに攻撃は届いた。

 フラムの左脚を1本の槍が貫き、地面に突き刺さっている。


「あぁぁぁッ!」

「まだまだ……」

「師匠ーッ!」

「来るな、悠斗ッ! セナを助けに迎えッ! 戻ってきてるッ!」

「でも、師匠がッ!」

「早く行けッ!!」


 ここまで言われて従わない訳にはいかない。

 大丈夫、師匠は最強だ。

 こんなやつに負けたりしない。

 悠斗はフラムに背を向け走り出した。

 直後、ドスドスッ!と何かが肉を貫くような音が聞こえた。

 それでも振り返らない。

 走って走って走る。


「さて、そう簡単に死なれては困るんだけど……」

「安心……するといい……私は……タフだからな……ッ!」

「つまらないね。"穿つ必殺のゲイボルグ"」


 それは詠唱だったのか。

 男の頭上に群青色の槍が現れた。

 そして、それが姿を消す。

 かと思えばフラムの心臓を寸分狂わず貫いた。

 同時にフラムの身体にいくつもの穴が空いた。


「……ッ!」

「もう声も出ないかな。さて、次だ……やっぱりセナ・レイズは殺しておくべきだったな、あの時に」


 そう言い残して男は姿を消した。

 火の海に残されたのは2本の槍に貫かれ、全身穴だらけのフラムの亡骸だけだった。




 ───────────────────────




 どうしてこんな事に!

 今回はピンチばかりじゃないか!

 月詠の黒刀が俺のデュランダルにぶつかり、凄まじい衝撃が体を叩く。


「どうした童、もう魔力のが底をつくかッ!」

「ぐぅぅ……ッ! こんな困難……ッ!」

「クハハッ! 『弐ノ太刀・三日月』ッ!」


 距離を取った月詠が黒刀を空振りする。

 ミス……?

 と思った瞬間、黒色の魔力の塊が俺に向かって飛んできた。

 あまりの速さに回避出来ず、デュランダルで受け止める。


「ほう、弐ノ太刀を止めるか。まだやれるようだな?」

「はぁ……はぁ……『魔力視』が無かったら死んでた……!」


 デュランダルで無理矢理受け流す事に成功したが、腕の痺れが限界だ。

 もうデュランダルを握っていることすら難しい。

 フラムがいてどうして王国がやられてる……

 まさかフラムを超える実力者がいるのか、『背理教会』に。

 いや、フラムは最強の魔法使いで……


「他のことを考えている暇があるのか?」

「ッ!」

「舐められたものだな、余もッ!」


 グラッと身体から力が抜ける。

 気付くと腕を浅く斬られていた。


「しま……ッ!」

「残りカスだが悪くない味だ。余を満たすには足りんがな」

「こ……の……ッ!」


 また同じ負け方をするなんて……

 身体が重い。

 ジャキン、と仰向けに倒れた俺の首筋に刀が当てられる。

 王国を包む炎の光が黒刀に反射して幻想的に輝いた。

 どうする……こんな所で死ぬ訳には……!


「世話焼かせやがってッ!」

「新手か……」


 叫び声とともに雷が落ちた。

 白いローブの大剣使い。

 王専属魔法使いティル・フェレラルがそこにはいた。


「なんて情けねえ面してやがる、セナ」

「師匠……」

「ほらよ、こいつ使って王国へ行けよ」


 ティルが俺に投げつけたのは1本の瓶だった。

 その中には水色の液体が。

『魔力ポーション』。

 名前の通り飲んだ者の魔力を強制的に回復させる薬だ。

 こんな貴重な物、よく投げ渡せる。

 俺は未だに倦怠感のある身体を無理矢理動かしてポーションを飲んだ。

 倦怠感が抜けていく。

 よし、動ける!


「余計な事を……」

「テメェの相手はこのオレ、ティル・フェレラル様だァ……セナ、行けよ」

「あ、あぁ! 頼んだぞッ!」

「誰に口聞いてやがる。舐めんじゃねェぞ」


 俺は完全回復した身体を勢いよく起こし、『クイック』で王国へと走り去った。

 待ってろみんな……今助けに行くから……ッ!

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