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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界の危機編
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-神殺しの絶技-

 うちはとんでもないことをしてしまったんだろう。

 意識が何者かに奪われるその直前、目の前に月が見えた。

 その時感じた。

 なんて綺麗な光なんだろう……と。


「そう落ち込むな、凛華よ。余の器となれたことは光栄なことなのだぞ?」


 月詠という名の女神だと言うこいつは、時々意識の深い所にいるうちに語りかけてくる時がある。

 一体何が目的なのか。

 きっと余興か何かと考えているんだろう。

 セナとベル、悠斗を傷つける瞬間、ほんの一瞬意識をうちに返した様に……

 あの時、うちの体にしっかりと刻まれた。

 味方を斬る感触というものを。


『何が目的なん? うちの身体で何がしたいん?』

「そうだな……うむ、余は楽しみたいな! 霧が余をお主に降臨させた時、正直余計なことを……と思ったのだ。だが、余はお主だ。お主の記憶を拝見させてもらった。ついさっき把握しきったのだがな。いやはや、人間とは実に面白い……」


 この野郎……絶対しばいたる……!

 人の記憶を勝手に覗くなんてデリカシーの欠片も無い!

 うちの考えもきっとこいつは読んでいる。

 うちには何も出来ない……悔しいけれど無力だ。


「余はお主の記憶を覗いて思った。余はお主が羨ましい……」

『どういうこと? あんたうちの身体乗っ取ってる分際で何言うとん?』

「クハハッ! 気の強い女よ。そうだな、時間はある。少し余の事を話してやろう……」


 少しだけうちの精神への拘束が弱くなった気がした。

 月詠がうちの身体を乗っ取っているシステム。

 それは器の魂、すなわち精神だけを心の深部に縛り付け、自分の魂を器に刻み込むというもの。

 器の魂は術者の思い通り。

 こいつ、油断してる……?


「余は真の月詠ではない。余の扱う剣術、お主も見ただろう? 余の剣術は夜に輝く月の様だ、そう言われた。故に月詠。余は名を捨て、月詠となった。余は生まれた時から剣だけに生きてきた。お主もそうだろう?」

『……うちはあんた見たいな人斬りとちゃう』

「人斬り……それは違いないかもしれん。だが、余は正義と思っておった。殺しの対象は社会の悪だ、そう信じていた。それなのに……それなのに……ッ!」


 ゾッとするほどの殺意が放たれた。

 何があったというのか。

 恐らくは裏切り。

 月詠という女神の名を冠したただの少女だというのか、こいつが。

 うちの仲間をうちに傷つけさせたこいつが?

 ありえない。


「すまん、取り乱したな。余としたことが……」


 先程までの殺気はどこかに消え、少し弱気な月詠を見た気がした。

 月詠は気を取り直す様に大きく伸びをする。

 その瞬間、目の前の空間が歪んだ。


「あ……」

「え……?」


 そして目の前に現れたのは……


『セナ……ッ!』




 ───────────────────────




 いきなり目の前に月詠が現れた。

 いや、俺が現れたの方が正確か。

 あのデュークというやつも酷いことをする。

 だが、先手必勝。

 あまりに突然の事に目を見開く月詠を無視し、無詠唱で『ディバイン』を発動。

 魔力が身体を包む前に気合を入れて魔法名を叫ぶ。


「童……ッ!」

「『リバース』ッ!」


 世界が灰色に染まる。

 もう見慣れてしまった時間の止まった世界の色だ。

 今度こそ仕留める。

 相手が無防備であろうと容赦してはいけない。

 こいつは敵だから。

 愛剣デュランダルに『エンハンス』を付与。

 付与したのは『神殺し』。

 消費魔力が尋常ではない代わり、神に対して凄まじい威力を発揮する。

 保有魔力の8割を消費した全身全霊の一撃だ。

 既に投擲されたイカロスが空間を満たしているため回避は出来ない。


「くらえぇぇぇッ!!」


 世界が色を取り戻した。

 そして爆風。

 手応えはあった。

 深々く斬ったつもりはない。

 そうしてしまえば凛華も殺しかねないからだ。

 だが、『神殺し』は少し掠るだけでも神の持つ『神性』を破壊し、神だけを殺すことが出来る。

 この魔法はフラムでさえ発動に魔力を半分持っていかれる超上位魔法。

 空間魔法の次に難易度の高い魔法と言われているのだ。

『ディバイン』で身体強化している俺でも覚醒魔法を維持できなくなる程魔力を消費した。

 まさに全身全霊の一撃。


「どうだ……ッ!」


 しかし、俺も無事では済まなかった。

 ガクッと膝を着く。

 全身力が入らない。

 魔力切れとは違った身体の重さだ。

 それもそうか。

 イカロスを100本近く同時に操ったのだ。

 とても人間や魔法使いでも出来る技じゃない。

 覚醒魔法あってこその絶技。


「はぁ……はぁ……意外と呆気ないな……」

「クハハッ! 今のは良い技だった! 楽しめたぞ、褒めてやるッ!」

「嘘だろ……」


 声のする方向を震えながら見る。

 そこには服はボロボロになりながらも、身体には傷1つ無い月詠が立っていた。

 その手に武器は握られていない。

 一体どうして……


「どうして、か。愚問だな。勘違いしている様だが、余は神ではない」

「な……ッ!」

「誤算だったな、童。余が『神殺し』を知らぬとでも思うたか。残り少ない魔力でどう立ち向かう? まだ面白いものを見せてくれるのか? 無いのなら……」


 ダメだ。

 完璧な策だと思っていたのに……

 前提から違ってくれば策など無意味なのだ。

 どうすればいい……?

 ここからどう巻き返す……?

 足音が迫ってくる。

 死が迫ってくる。

 ジャリーンと鞘から刀を抜く音がやけに大きく響いた。


「余の魔力の一部となるがいい」


 言い終えると同時に、月詠の黒刀が俺の心臓を確かに貫いた。

 そう、俺の幻影の……


「もらった……ッ!」

「『幻惑魔法』……ッ! 小賢しい真似をッ!」

「来てもらうぞ……ッ! 『インスタント』ッ!」

「今度はインスタントでの『空間魔法』かッ! どこにそんな魔力を隠して……ッ!」


 月詠が俺の幻影の心臓を突いた隙を狙って月詠をホールド、フラムに渡されていた帰還用のインスタントを使ったのだ。

 魔法界でならなんとか戦える。

 フラムもティルもいるのだ。

 どうにかなる。

 どこからかそんな自信が湧いてくる。

 そして、視界が光に包まれ……




 見えたのは炎に包まれる王都だった。

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