-特異点の観測者-
目が覚めるとそこは焚き木が照らす洞窟の中だった。
かなり長く眠っていた気がする。
体感の魔力量はほぼ全回復だ。
人間界での回復速度を考えると3日くらいだろう。
「ここは……」
見渡す限りの岩壁。
ゆっくりとだが意識が明瞭になっていくのと同時に周囲の気配を探る。
「起きたかい?」
「……ッ!」
その男は俺が気配に気づく前に声を発した。
ボロボロの深緑ローブを羽織り、フードを目深くかぶった男はカップのようなものを俺に突き出してきた。
中からは湯気がたっている。
俺は恐る恐るカップを受け取って中身をのぞき込んだ。
「安心して、ただのスープだから。この洞窟は冷える。生姜を入れているから温まるはずだよ」
「お前は……何者だ。どうして俺を助けた」
「そこは『ありがとう』でしょ」
「なっ……あ、ありがとう……」
「うん、それでいい」
男は少し微笑むと自分の分のスープを飲んだ。
俺もそれに続いてスープを飲む。
少し塩分が効いていて、それでいて温かくなる、こういう野営に慣れた人が作るスープだ。
男は一息つくと立ち上がった。
「名前は?」
「セナ・レイズ……魔法騎士団団長だ……」
「魔法騎士団……聞いたことないや、まあいっか。僕は……そうだね、デュークとでも名乗っておこうかな。見ての通り旅人さ。放浪とした、ね」
「デューク、お前はなんで俺を助けた。ここはどこだ? 今の状況を説明してくれ」
「冷たいなぁ……まあいいや。ここは人間界と魔法界の狭間、言うなれば特異点さ。だから心配しなくても奴らに襲われることはない」
奴ら。
デュークという男は月詠と戦っていた俺達を見ていたのか?
いや、そんなわけが無い。
俺達が戦っていた空間は月詠の結界の中。
月詠が許可した者以外立ち入ることはおろか、視覚することも出来ない。
それを例外とするには月詠以上の干渉力が必要となる。
まさか、この男はそれほどの干渉力を……?
「そんなに驚かなくてもいい。ちょっとした裏技さ。で、君の仲間なんだけど……」
「ッ! 悠斗とベルのことか!?」
「そうそう。その2人は魔法界に帰したよ、悪いけどね」
「帰した……? どういうことだ……」
「僕が用があったのは君だからね。邪魔者は早めに帰って休んでもらった方が都合がいいんだ」
この男、普通じゃない。
魔法界に帰す。
ということはデュークは『空間魔法』を使えるという事だ。
とてもそうには見えない。
『魔力視』でもそれほど強大な魔力は見えていない。
抑えている……?
普通の技術でそんなことは出来ない。
俺が視ているのはおおよその干渉力。
干渉力を自ら抑えるなんて聞いたことも無い。
「とりあえず、僕の目的は果たした」
「目的……?」
「そう! 言えないけどね」
「一体何者なんだよ……」
「言ったでしょ? 放浪とした旅人さ。そろそろ人間界に帰してあげるよ。やらないといけないことがあるんでしょ?」
そう言ってデュークは俺の目の前に手を掲げ魔法陣を展開した。
顔は笑顔のままで詠唱する素振りは一切ない。
まさかこいつ……!
「じゃ、また会うだろうからその時までさよなら!」
「どんなバケモンなんだお前……ッ!」
目の前が光で満たされた。
デュークは『空間魔法』を無詠唱で発動させたらしい。
フラムを圧倒できる程の干渉力だ。
可能ならば相手にしたくないが……
未だ眩しさが残る目を凝らして転移先を見渡す。
相変わらず人間界らしく魔力は少ない。
だが、そこにはある人物達がいた。
「あ……」
「え……?」
昼間の太陽を全身で浴びながら大きく伸びをしている月詠が、目の前にはいた。




