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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
6/66

-1ヶ月の成果を-

 

「すー…………」


 集中。ひたすらに集中。

 いくら初めての戦場とはいえ、恐れてはいけない。

 少しでも不要なことを考えてしまえばこの魔法は完成しないのだから。

 自分に出来る最大限の援護。

 それが今の悠斗が行うべきことだ。

 立ったままの状態で『魔法弓アポロン』の弦を引く。

 ただし、矢も何もつがえないで。

 硬く重い弦を引きながら『魔力の矢』を強くイメージする。

『魔法弓』というシステム自体、魔法と併用する武器としては初めての試みだ。

 よって、扱う魔法も独特でオリジナル。


「"穿て、一条の光"……ッ!」


 狙いをセナと対する少女に合わせ、詠唱する。

 それにより、何も無かったはずの弓に極光の矢が現れた。

 極光の矢を、セナにトドメを刺そうとする少女に放つ。


「くらえ……ッ」


 放たれた矢は直線を描きエレナの方へ飛んだ。

 そして、エレナの少し手前で…………


「ち……ッ! 鬱陶しいわねッ!」


 全てを貫く極細の光線に分裂した。

 エレナは自己強化魔法で防御するも、光線はそれをも貫く。

 それに気づいたのか、エレナはダメージを最小限に抑えるために退却。

 対象を結界すら貫通する光線で穿つ単対象攻撃魔法『陽射・煌牙(こうが)』。

 フラムが編み出し、使用者の悠斗が名付けたオリジナル魔法だ。

 超高威力の代償として凄まじい集中力を必要とするのがネックだが、邪魔するものさえ無ければ無類の力を発揮する。


「やれる……俺は戦えるぞセナッ!」


 俺は叫び、エレナの消えた先にもう一度狙いを定めた。



 ───────────────────────



 なんとなく予想はしていたが、悠斗の弓を使用した魔法は凄まじい威力を誇る。

 悠斗が居なければ俺は死んでいただろう。

 ここは素直に感謝しないとだが、それは後で。


「さっきの銃弾を放ったやつをやらなきゃな……」


 持続的に傷を癒す効果を付与する自己強化魔法『リジェネレーション』により痛みの減った身体をゆっくりと起こす。

 そして、接近する黒い影に気づいた。


「しまった……ッ!」

「ま、待って! 私! ベル!」

「な、なんだ……脅かすなよ……」


 敵かと思い剣を構えてしまったが、影の正体は武装したベルだった。

 身体にピタッとフィットした黒い防具に、これまた黒いローブを羽織っており、右手には黒と赤を基調とした大きな鎌を持っている。

 大人しそうなイメージのベルからは想像も出来ない武器だが、フラムのメイドなのだから、めちゃくちゃなのはなんとなくわかっていた。

 それより、今はあのスナイパーを。


「先程の狙撃手の位置をおおよそだけど特定したよ。狙撃手は悠斗に任せたから、セナは少し休憩したらエレナを追って。私はもうひとりの厄介そうなのがいたから、それを抑えておくよ」

「そ、そうなのか……仕事が早いな。さすがメイド」

「褒めても何もでないよ。とりあえず、私も苦戦しそうな相手だから、片付いたら加戦しに来てくれると助かるかな」

「わかった。じゃあ、ご武運を」


 ベルはそう言って笑みを浮かべると、辺りの木を足場に軽快なリズムで消えていった。

 流石はフラムに仕えるメイドだ。

 相手の戦力の把握、戦うべき相手を瞬時に見極めている。

 いつの間にか増えていた厄介そうな敵を自ら相手取るということは何か策があるはずだ。

 俺にはふたりを信じるしかない。

 俺は俺のやるべき事を成し遂げる。


「傷は完治。少しふらつくけど、この程度ならなんの問題もない。よし……やれるッ!」


 相手は計3人。

 どちらか1人が減るだけで戦局は一変するはずだ。

 ならば、手負いのエレナが最も討ち取るのに容易だろう。

『クイック』を発動させ、エレナの消えた方向へ進む。


「決着だエレナ…………勝つのは俺だ…………ッ!」




 進めば進むほどに不安感が押し寄せてくる。

 向かう先から恐ろしい気配が漂ってきているのだ。

 だが、恐れてなんていられない。

 他のふたりもそれくらい怖いはずなんだ。


「ッ! ここで一体なにが……」


 突然目の前に広がっていた光景は、巨大な木々がなぎ倒され、不自然に作られた更地だった。

 走るのを辞め、デュランダルを構えて辺りの気配を探る。

 そして、愕然とした。


「なんだよこの魔物の数……」


 感覚増長を付与する自己強化魔法『センスストレンジ』による気配探知で感知した魔物の数、およそ50匹。

 それのどれもが多量の魔力を蓄積している大物ばかり。


「「「グォォォォッ!!」」」

「エレナのやつ……めんどくせぇことしやがってッ!」


 気配がバレたと気づいた魔物達が威嚇を始め、戦闘態勢に入る。

 これはもう交戦するしかない。

 デュランダルに『エンハンス』で氷を纏わせる。

 そして、『クイック』と『バーサク』でスロウになった世界で蹂躙を始めた。


「俺だって一ヶ月何もしてこなかった訳じゃないッ!」


 叫びながら魔物の息の根を止めていく。

 フラムが悠斗に魔法を指南している間、俺にだって時間はあった。

 その一ヶ月に俺は魔法はほとんど鍛えていない。

 必要な魔法を無詠唱で完璧に発動させられるように練習した程度。

 俺は時間のほとんどを『剣術』の修行に励んだ。

 元々俺は剣が得意だから魔法剣を握った訳では無い。

 フラムに言われるがままに剣を奮っていただけだ。

 だが、フラムの見込みは間違いではなかった。

 俺には剣の才能がある。

 それを今証明してみせる。


「らぁぁぁぁッ!!」


 ゆっくりとだが接近してくる魔物達を可能な限り一撃で、急所を斬り裂いて仕留めていく。

 最速で、最も小さな負担で済むように、手数をこなせるように戦う。

 それが俺に剣術を教えた『剣術の師』の言葉だ。

 剣の動きから無駄を無くす。

 それによって格段に強くなる。

 師は俺と剣をぶつけ合いながらそう言った。

 悠斗との模擬戦ではあまり試すことができなかったが、ここなら試すことができる。


「見せてやるよエレナッ! 今の俺の実力をな!」


 それから5分程で大体半分ほどの魔物を仕留めた。

 残っている魔物達は俺の戦闘を遠巻きに観察していたやつらだ。

 ここまで知性が発達した魔物はそう多くない。

 それが20匹以上。

 まとめて仕留めるために領域魔法を詠唱しようものなら、その隙をついて殺されるだろう。

 とても不利な条件だ。

 だが、今はそれが丁度いいハンデになっている。

 それにしても……


「これだけ戦ってるのに、エレナは何故現れない……」


 あのエレナの性格だ。

 派手に戦えばすぐに現れると思っていた。

 だが、これほど派手に戦っているのに未だ現れないということは、もう逃げた可能性がある。

 ということは、残る二人の敵で充分だと判断されたのか。

 敵の二人はそれほどに強力だと考えるべきだろう。

 だとすれば、ベルと悠斗が危険だ。


「つくづく性格悪いなあいつ……ッ!」


 やっとの思いで最後の魔物の首をはね飛ばし、さっき来た道を高速で戻る。

 なんだか嫌な予感がするのだ。

 急いで戻らないと。

 一旦戦況を確認するため、地面を強く蹴って高い木の上に登った。

 そして見たものは……


「なんだよこれ…………」


 炎が燃え上がり、金属のぶつかる音、発砲音が鳴り響く戦場だった。

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